第5節 話の続きとこれからのこと
「さて、話の続きをしようか」
木の椅子に座りながら、ガイが口を開く。
帰る途中、腕輪の通信機能で司祭に報告を終わらせた後、ディードとガイは寮へと帰還した。
そこで待ち受けていたのは心配性を拗らせたフランの入念な身体検査だった。
それは数時間にも及び、日は既に登っていた。
「君が魔神という話は、正直俺は信じられない」
「僕も、あまり信じられないな」
「私も…」
3人が少し辛そうにそう言うと、魔神と名乗った少女は肩を落とした。
「確かに、いきなり現れた人間が魔神と名乗っても、普通は信じられないだろう…」
そう言う少女の目は、少し寂しげに見えた。
ガイはそれに答えるように頷くと、言葉を続けた。
「それと、君のこれからのことなんだが、俺達は君をここに置くことは出来ない」
「「!?」」
その言葉に驚いたのは少女ではなく、ディードとフランだった。
「まず、ここにはもう部屋が無い、余っていたとしてもここにはチビ達がいる。仮にもし、君が魔神だったのだとしたら、彼らのことを考えてもここには置いておけない。
戦争以来、魔神は人類にとっての敵だからな、見つかったらここにいる皆、諸共殺されるだろう。そうでなくても、何らかの罰を受けることになる」
そう言うガイの声は震えており、冷たかった空気がさらに冷たくなっていった。
「…それに、もし君が魔神ではなかったとしても、君と俺達はまだ知り合ったばかりだ。だから、君を信用出来ない」
「君の言う通りだ。私がいると、君たちに迷惑がかかる。私は、どこかに自分の拠点を作って生活するとしよう」
彼女はそう言うと、席を立って身支度を始めた。
「ちょっと待ってくれる?」
ディードが少女の肩を叩いてそう言う。
「ガイの言う通り、君をここに置いておくことは出来ないけど、その代わり君の拠点作りを手伝わさせてくれないかな?」
「そうだな、それくらいなら俺達にも協力出来るな」
ディードとガイがそう言うと、少女は分かりやすいくらいの笑顔を浮かべた。
「良いのか!?」
「うん!力仕事なら僕達に任せてよ!」
「私は力仕事は無理だけど、それ以外の事なら出来る限りやるからね」
「なんなら、子供たちにも手伝わせるか?あいつらにも良い経験になるだろう」
そんな事を3人が話していると、少女が俯いてしまっていた。
「う…」
「「「う?」」」
「うわぁぁぁぁん!!」
気づいた3人が近づくと、少女はすぐに大声で泣き出してしまった。
「な、なんで泣いてるの!?」
ディードが慌てて聞くと、少女は目を擦りながら答えた。
「だ、だって、完全に見捨てられると思ってたし、ひ、人に優しくされたのも初めて、だったから…」
その声は先程までの凛とした声音からは想像出来ないほどに、年相応の少女の声をしていた。
「そっか、でも俺達はそんな事しないからね?
だからほら、お願いだから泣き止んでよ…」
ディードが弱ったように言って少女を慰めていると、ガイが立ち上がり、後頭部を掻きながら言った。
「じゃ、俺は拠点作りの材料と工具、倉庫から余ってるの取ってくるのと、庭のどこに作るかの検討を付けておくよ」
「庭に作るの?」
ガイの言葉にディードと共に少女を宥めていたフランが反応する。
「この街の土地なんて使うしても、役所からの了承と金が必要だ。役所の了承はともかく土地を買おうと思ったら、俺達の資金じゃこの寮を売り払うことになるからな」
「な、なら寮の西側の庭はどう?あそこなら一人用の小屋を作るのには十分だと思うよ」
尚も泣き続ける少女の頭を撫でながら、ディードが言う。
それにガイが頷きながら答えた。
「確かにあそこなら十分だ。ディードはそいつを宥めたら庭に来てくれ。あとフランは家の設計図を頼むよ、得意だろ?そう言うの」
指示を出された2人は頷いて、フランは地下にある作図室へと行き、ディードは少女を宥めつつ外へと行き、ガイは倉庫へと行こうとし、それぞれの仕事を始めようとした。
「そういえば、まだ君の名前聞いてなかったね」
皆が出ていく直前、ディードが少女に言った。
少女は1度目を擦ったあと、立ち止まる3人に一言。
「私の名前は、ダンタリオンだ」