第4節 闇の御子
爆発音のしたあと、フランとあの少女に子供たちを任せ、ディードとガイは音の鳴った場所、町の中心部へと向かった。
町の中心部、つまりはディードとガイが遊撃手になった協会に当たるわけだ。
二人が協会に着くと、そこはすでに協会では無くなっていた。
「酷いな…」
ガイが無惨な姿となった協会を見つめながら言う。
ディードはなにが起きたのかを確かめるべく、協会の残骸へと近いた。
「ッ?!」
そこに、突然空から降ってきた1本の黒い槍がディードへと襲いかかった。
それをディードは飛び退いて避けると、槍の飛んできた方へと目を向ける。
すると、槍の降ってきた位置から一人の黒い鎧を来た男が降ってきて、ディードの目の前の地面を破裂させて着地した。
「避けやがったか。そのまま当たってくれれば、楽に殺せたのにな」
その男はそう言いながら、ディードの前にある槍を地面から抜き、ディードを睨みながら構えた。
「大人しくしておけ、抵抗しなけりゃ痛くはねぇ。筈だ」
そう男は言い放ち、槍をディードへと向けた。
「臓を裂け、【黒き棘の槍】…!」
その掛け声と同時に黒い槍がディードの心臓を目掛けて突進してきた。
そこに、大剣を携えたガイがディードと男の間に割り込み、男の槍を弾いた。
「ボケッとするんじゃねーよ」
少し笑いながら言うガイに、ディードは2本の剣を抜刀しながら、「ごめんごめん」と、こちらも微笑しながら言った。
「チッ、ハズレ引いちまったか…」
2人のやり取りを見ていた男は、そんなことを口にしたあと、突き出していた槍を引っ込め、構え直した。
「いいだろう、試してやるよ」
そう言い、男は構えた槍を思いっきり上空へと放った。
「?」
ディードとガイが首を傾げ、空を見上げると、空には無数の槍が主の指示を待つように浮いていた。
「この数多の闇の槍、受けきれるのなら受けてみよ」
そう言い、男は不適な笑みを浮かべると、地面を破裂させて跳躍した。
「降り穿て、【黒き棘の雨】ッ!」
男が無数の槍の上まで跳躍を終えると、その台詞が響き渡り、それと同時に無数の槍はディードとガイを目掛けて、降り注いだ。
「っ!?」
二人は降り注ぐ槍を対処するために、自身の獲物を納刀した。
「「【守護せよ、聖血の盾】!!」」
同時に二人が蒼銀の腕輪を着けた腕を上に突きだし、そう叫ぶと、二人の頭上に巨大な赤い光で出来た盾が現れた。
ソウル・ガラハドは蒼銀の腕輪についている機能の一つで、腕輪を触媒とすることによって発現できる防衛魔術だ。
その盾は二人が使ったことにより、二枚に重なり、二人を守っていたが、30秒もしないうちに破壊されてしまう。
しかし、それを見越して二人は剣を抜刀しており、すぐに降り注ぐ槍を弾き始める。
致命傷以外は全て弾き、かすり傷になる物は放置する。
それを2、3分程度続けていると、不意に槍は降り注ぐのを止めた。
そして、槍の代わりに空から跳躍をしていた男が降りてきた。
「少しはやるようだな」
「はぁ、はぁ、遊撃手、なめないで、欲しいね」
ディードが男に対して息を切らしながらそう言うと、ガイが息を整えつつ男に問いかけた。
「お前は、闇の御子、セタンタ・クー・ホリンで違いないな」
「…ああ、間違えねぇよ」
ガイの質問にセタンタと呼ばれた男は不機嫌そうに肯定する。
「こちらはもう時間切れだ。もう会えないことを祈ってるよ、協会の犬共」
男はそう吐き捨てると、いつの間にか手に持っていた槍を空に投げ、姿を消した。
「はぁはぁはぁ、うぐ、はぁ。なん、だったの?あいつは」
ディードが膝に手をおいて下を向き、息を切らしながらガイに聞くと、ガイは一度頷いたあと、質問に答えた。
「あいつは、闇の御子、セタンタ。セタンタ・クー・ホリン。突けば臓物を抉り、投げれば敵の軍隊を壊滅させる最強の魔槍、ゲイブルグを所有している元英雄だよ」
セタンタ・クー・ホリン。
それは我々、つまりは読者の皆々様の世界におけるアイルランドの大英雄、光の御子クー・フーリンであり、アーサー王やギルガメシュなどと並ぶ知名度を誇る人物だ。
しかし、この世界での彼はアイルランドの光の御子と呼ばれることはない。
なぜならこの世界にアイルランドはない。
そしてこの世界は、我々の世界とは大きく異なっている、異界なのだ。
そして、彼は「元」英雄というレッテルを持っている。
「それで、その元英雄さんはどうして協会を壊して俺たちを襲ったの?」
やっと息を整えたディードが首をかしげる。
「さぁ、それはよくわからないな」
ガイが顎に指を当て、考えるような仕草をしながらそう言う。
「まぁ、今は考えててもしょうがないよ。一度寮に戻ろう」
ディードがそう提案すると、ガイは少し悩んだあと頷いた。