第3節 少女=悪魔
少女が気絶してしまった為、ディードは寮から出てきたガイとフランに協力してもらい、少女を自室へと運んだ。
因みに、元々はディード一人で看病するはずだったのだが、ディードが自室へと運ぶと言った事が原因でフランから激しいバッシングが浴びせられた為、3人一緒にリビングで看病することになった。
「それにしても何者なんだろうね、この子」
フランが首を傾げながら言う。
「光の柱から出てきた。と言うことを考慮すると、普通の人間ではないと思うが…」
ガイが口を手で覆うようにしながら言うと、「ううん…」と少女が唸った。
「ここ、は…」
少女が掠れた声で言うと、フランが彼女の顔を覗き込み言った。
「あ、おはよう。ちょっとまっててね?」
フランはそう言うと、ソファで安らかな寝息を立てて眠っていたディードの元へと行き、彼の体を揺すった。
「おーい、あの子起きたよ、ディードも起きて!」
「んん、分かった…」
ディードはゆっくりと起き上がって一度延びをしたあと、ソファから降りて、少女の横たわる布団の横に座った。
「貴様は…」
少女はディードの顔を見て、一度悩んだような表情を浮かべたあと、上半身を起き上がらせた。
「そう、か。やはり、私は…」
悲しげな声色で少女はそんなことを呟いた。
「あ、すまない。まだ、礼を言っていなかったな」
少女はディードの顔を見て、申し訳なさそうに言う。
「いや、それはいいけど…」
ディードはそう言うと、ガイの方へと歩いていき、隣の椅子へと腰かけた。
ガイはディードの顔を一度見たあと、笑顔で少女の方に歩いていき、話しかけた。
「はじめまして、俺の名前はガイ。族称はない」
族称とはいわゆる苗字の事で、その人間の一族を示す物である。
「そんで、最初に君を起こしたのがディードで、そっちの女の子がフラン。皆俺と同じで族称はないよ」
ガイがディードとフラン、それぞれの紹介をすると、後ろでディードは「よろしく!」と笑顔で、同じくフランも笑顔で「よろしくね」と手を振った。
「あ、ああ。よろしく」
困惑気味に言う少女の顔をもう一度見直し、ガイは真剣な表情を作った。
「早速だが、君に質問があるんだ。まず、君は何者だ?何故あの光の柱の中から出てきた?」
ガイの言葉を聞いた少女は小さく頷いた。
「私は、うん。私は72柱、と呼ばれる存在の一つだ」
そう告げる少女は、切な気な表情をしていた。
そして、それを聞いたガイとフランは少女に向けて疑惑の目を向けていた。
そう、ガイとフランは。
「72柱って、なに?」
完全に場違いな発言をしたのは、椅子の上で頬杖をついていたディードだった。
「「…え?」」
そして、声を合わせて驚いたのは、ガイとフランの二人だった。
「おいおいお前、72柱を知らないのか?」
ガイが顔をひきつらせながら聞くと、ディードは、「うん、知らない」と笑顔で言った。
「じゃあ、ソロモン王は?」
「誰それ?」
「お前なぁ…」
ガイが呆れたように言うと、見かねたフランがディードに説明を始めた。
「悪魔っていうのはね。異界から来た王様、魔術王ソロモンが従えてた使い魔の事だよ。
ソロモン王はその悪魔達を使ってこの世界自体に魔術を掛けた。
その魔術の名前は、戴冠術式【アルス・アルマデル・サロニモス】」
「アルス、アルマデル、サロニモス…?」
ディードがその呪文を復唱すると、横で話を聞いていた少女が頷いた。
「サロニモスは、私達悪魔すべてを世界の中枢、星の命と呼ばれる場所にねじ込む事によって、世界に様々な物を与えた。それは…」
そこで、少女が言い淀む。
「それは?」
しかし、ディードが話の続きを促した事によって、少女は話を続けた。
「それは、人々の生き方だ」
それを聞いたディードは息を飲み、体を震わせた。
(なに、この寒気…)
ディードはこの話を聞き始めた時から嫌な予感を感じていたが、それは気のせいだと信じてここまで話を聞いてきた。
けれどその予感が消えることは無く、逆に増す一方だった。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
無意識のままうずくまっていたディードに、フランが心配そうに声をかける
「うん、大丈夫だよ」
なんとか笑顔を作って誤魔化すが、体の震えは収まってくれない。
「今日の試練は辛かったからな、体調が悪くなるのも無理はない」
腕を組ながら言うガイの言葉に、少女が首を傾げた。
「試練とは、何の試練なんだ?」
その質問にガイは得意気に言った。
「試練って言うのはだな、遊撃手になって蒼銀の腕輪の担い手になるためのものだ」
「その腕輪の担い手になって何になるのだ?」
「それはだな…」
ドゴンっ
ガイがそこまで言いかけると、寮の外から大きな爆発音が鳴り響いた。