第2節 始まりの刻
晩飯を食べ終え子供たちを寝かし付けた後、ディード、ガイ、フランはリビングで夜の会話を楽しんでいた。
「そしたらさ、大司教ってば、「貴君らが本当に遊撃手になりたいのならばこの程度の試練、楽勝であろう」とか言ってアンデットの群れと戦わせて来たんだよ、ほんと酷いと思わない?」
ディードがくたびれたように言うと、隣でガイがうんうんと頷いていた。
「あはは、災難だったね…」
フランが苦笑しながら言う。
そんな風に3人が駄弁っていると、窓がガタガタと揺れだした。
「「「?」」」
3人が何事かと首を傾げていると、窓の揺れは次第に大きくなっていき、やがてが食器棚やテーブルなどを揺らすほどの揺れへと変わった。
「これ、不味くない?」
ディードが顔をひきつらせてガイに向けて言う。
「ああ、かなり不味い…」
同じく顔をひきつらせてガイが言うと、フランが怯えた表情をしながら窓の外を指差して言った。
「あれ、なに?」
フランの言葉につられてディードとガイが窓の外を見る。
窓の外に見えるのはこの寮の庭にあたる所で、広さは少し小さい公園程度の物だ。
その庭のちょうど真ん中辺りに、人が一人入れる位の幅の光の柱が作られていた。
その柱は徐々に小さくなっていき、中から一人の少女が傷だらけで跪いていた。
柱が完全に消えると共に少女は地面に倒れ込んでしまい、寮を揺らしていた地震は鳴りを潜めた。
「ヤバっ!?」
少女が倒れ込んだのを見るや否や、ディードが窓を開いてそこから飛び降りた。
「おいっ、ディード!」
ガイが窓から体を乗り出してディードへと叫ぶが、ディードはそれを無視して少女の側へと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
少女の姿を確認すると、ディードはすぐに違和感を感じた。
その違和感の原因は少女の姿にあった。
衣服はこの世界では考えられない素材で編まれたフードの付いた黒いパーカーに紺色のジーパン。赤い刺青が入った色白の肌。
この世の物とは思えないほどの整った顔立ちなどが、ディードに違和感を与えた。
恐る恐るディードが少女の体を揺さぶると、少女は瞼をピクピクとさせたあと、眼を開いた。
「…!?触れるな!」
少女は体に触れていたディードの手を払い飛び起きた後、格闘の構えを取ってディードを威嚇し始めた。
「あ、触られるの嫌だった?ごめんね?」
ディードが穏やかな声で少女に聞くが、少女に許す気はないらしく、構えを解くことは無かった。
「貴様に問おう。何故に我が身に触れていた?」
少女の言葉は明らかに怒りが含まれており、いつディードに飛びかかってもおかしくはないだろう。
「君が、倒れていたから、安否確認のため、に…」
ディードは少女を刺激しないように、言葉を選びながら理由を話す。
少女は一度首を傾げ、ディードの目を見つめた後、納得したように頷いた。
「ふむ、嘘では無いようだな。これは失礼をしたな」
そう言うと少女は頭をペコリと下げた。
「別にそれはいいんだけど…。体、大丈夫?」
「へ?」
ディードが心底心配そうに聞くと、少女は一度首を傾げたあと、糸が切れたように崩れ落ちた。
「…って、大丈夫!?」
ディードが少女の体を支えるのと同時に、ディードの名を呼ぶ声が二人分聞こえた。