第1節 プロローグ
昼過ぎ、天井の高い教会の中で二人の少年と長い白髭の翁、大司教が祭壇の前で向かい合って立っていた。
大司教の後ろには女神を象ったステンドガラスがあり、大司教の凄みを増させる。
「現時刻をもって、貴君ら二人を遊撃手として認める」
教会の中に図太いが響く。
その声を聞いた二人の少年が胸に手を当てて深くお辞儀をした。
「「ありがとうございます、大司教殿」」
大司教はそれを見て一度頷き、二人の前に蒼い鉄でできた腕輪を差し出した。
それを二人は両手で大切そうに持ち上げ、それぞれ右腕に着けた。
「それは蒼銀の証。貴君らを遊撃手と証明すると同時に、魔術の発動を補佐する物だ。大切にしなさい」
「「了解しました」」
二人が声を揃えて言うと、先程と同じように頷いて話を続けた。
それからしばらくし、二人は協会を後にして寮へと向かっていた。
「全く、大司教様は話が長いよ…」
二人の内の一人、ディードが両手を頭の後ろ組みながらぼやく。
ディードは今年で16歳になる少年で、茶髪、茶色の目、一目見て「この人は優しい人」と分かる顔立ちをしていて、一般的な16歳の身長を持つごく一般的な少年だ。
「まあそう言うな、あの方は俺達の事を案じてくれているからこそ、話が長くなってしまっただけなんだから」
ディードのぼやきを聞いてもう一方の少年、ガイが諭す。
ガイはディードと同い年の16歳で、彼の幼馴染みの内の一人だ。
うなじまで伸びた白い髪と薄紫色の目を持ち、ディードより少し背が高い少年だ。
「だからってあそこまで話を長くすることはないと思うのは僕だけかな?」
「お前だけだろうな」
そんなことを二人で駄弁りながら歩いていると、いつの間にか寮の前に着いていた。
「ただいまー!」
寮の扉を開くと同時にディードが言うと、廊下の奥からドタドタと足音が聞こえてきた。
「おかえりなさい!ディード兄ちゃん、ガイ兄ちゃん!」
「おかえりディードさん、ガイさん」
「おっかえりー!」
奥から出てきたのは3人の子供たちであった。
「ああ、ただいま。3人とも良い子にしてたか?」
ガイがしゃがみながら3人に言うと、皆同時に「うん!」と、勢いよく頷いた。
ディードとガイが3人を連れて寮のリビングへと移動すると、中から食欲を誘う良い臭いが充満していた。
「おかえりなさい、ディード、ガイ」
リビングのキッチンからそんな優しげな声が聞こえ、ディードとガイはキッチンへと顔を向けた。
「うん、ただいま、フラン」
ディードが微笑みながら言う。
「すまん、少し待たせたか?」
ガイが申し訳なさそうに聞くとフランは、
「ううん、そんなことないよ、ご飯も今できた所だし」
フランがそう言うとガイは片を撫で下ろして、「それはよかった」
と言った。
フランはディードやガイと同い年の幼馴染みで、この寮の家事担当をしている。
見た目は金髪の首元位まで切ったショートカット、赤目の幼げな顔、低身長の少女だ。
「なぁなぁ、兄ちゃん達。遊撃手にはなれたのか?」
子供のうちの一人、赤い髪の毛をもった男の子、オレットが聞いてくる。
「ああ、なれたぞ。ほら、ちゃんと蒼銀の腕輪あるだろ?」
ガイが腕輪を指差しながらはオレットに言うと、他の子供たちもすぐに集まってきて、目を輝かせ始めた。
「さて、じゃあ冷めないうちに食べちゃおうか」
フランがそう言うと子供たちが、「はーい!」と手を上げて言った。
それを見てディードとガイが席に座ると、フランが二人の前に立って、「二人は手を洗ってからね?」と笑顔で言った。
それから6人はにぎやかな食卓を囲み、いつもどうり一日を修了するはずった。
そう、あの事件が起きなければ…