#8
新宿歌舞伎町。ここは日本でも有数のゴールデン街である。深夜でありながら昼間並みの明るさである。この町には大小さまざまな飲み屋、ホストクラブ、キャバクラなどが寡軒を連ねている。そこに1つ飲み屋がある。『CLUB ANAGURA』若干大通り外れたとこに構えている店だが、本来この時間は飲み屋に取って稼ぎ時の時間だが店には『CLOSE』の文字が扉にかかっていた。中にいるのは黒猫探偵社の面々そして2人の若者が店の大きなソファーで話していた。
「それでどうなの?何か分かった」
透が目の前に座る女性に話しかける。女性は黒髪に後ろの上部でポニーテールにしていた。服装は黒いノースリブの上にグレーのフード付きのフードを羽織り下は白いフレアスカートを着ていた。
「ウチのグループに居る修學高校の子に聞いてみたけど、桜井春香さんの情報についてはこれといって有力な情報は無かったわ。お姉さんと同じ年の子に聞いてもその恨んでた子がどこに行ったか分かる子はいなかったわ。それに自殺したって話は学校内では大事にしないよう、先生方から口止めされてるみたい」
「凄い学校だな、生徒にしたら不安なはずなのに。まるで春香さんが居ないみたいな扱いだしな」
圭が少し不機嫌そうに答える。
「それで和、教員連中の噂の方はどうだ?」
圭は彼の隣にいる男性に話しかける。薄い茶髪に赤いジャッケトにジーパンの男性は食事していたのか、圭の呼びかけに答えようとするが
「口の物は全部飲み込んでからにしろよ」
圭の忠告を聞き彼は口の中の物を飲み込みコーラを一杯飲む。
「ヤバいのもあるけど3つくらいか。まず、1つは社会科の畑中って奴なんだけど、なんでも生徒にテストの問題を教えて高得点を取らせてるらしく、その見返りに金品を要求してるらしい。2つ目は生物の前野。こいつは覚醒剤をやってるって噂だ。うちのメンバーでこいつが注射器を持ち出してるってとこを見た奴もいる。ただ、これは若干信憑性に欠けるけどな。最後はこの学校の理事長なんだけど、こいつは学校の方針に盾突く生徒や教師を強引に退学、解雇にしてるらしい。また、コイツの関係者の生徒を裏口入学させてるって噂もあるらしいぜ」
「酷い話ね。本当にそれで学校として成り立ってるならもっと叩けば埃がいくらでも出てきそうね」
透が呆れてしまっている。
「あまりに酷過ぎて理解に苦しむけど茉莉や和の情報だからある程度信頼していと思うわ。九十九君のうわごとのような推理とは違うものね」
「その推理を事件の捜査に利用してるはどこのどなたですか?」
「あら、私は自分の証拠に確証を持ったうえであなたの推理を使ってあげてるだけで理由も無く使わないわ。最も私の捜査のおかげであなたの推理の根拠が見つかって人前でしゃべれるようになってるのだから喜んでほしいものなんだけど」
また圭と悠の言い争いが始まっている。
「相変わらずね2人は。こういう景色が見れるとつくづく平和だなと思うわ」
「こっちからすると毎日こんな風にしてると迷惑な気分だけど。あの2人ってああ見えて子供っぽいから、こういう意地の張り合いは見ていて楽しい時もあるわ」
透は和と茉莉に圭と悠の口論を見て笑っていた。
茉莉こと瀬川茉莉と和こと鳴海和は新宿内を拠点とするチーマー集団『ベック』の2枚看板である。一応、和がヘッドで茉莉が副ヘッドということになっている。ベックはチーマー集団だが基本的には自分達のような若者が新宿内で悪い大人に騙されたり、トラブルになるようなことを防ぐ事が主な仕事であり自衛団的な役割を担っている。とりわけ若者達の間で好評で入りたいと希望する若者も多いのが現実だ。
「それで咲が調べてた例の怪談話の方はどうなったの?」
茉莉が透に尋ねる。
「それなら、かなり分かったわ。咲教えてあげて」
アイスクリームを食べていた咲がスプーンを置き。ノートパソコンの画面を開いて見せた。
「修學高校の悪霊。言い伝えは依頼者の話と同じで生徒を生贄にしようとした教師が死んだ後も悪霊としてこの学校の旧校舎に住み着いていて今でも旧校舎でその惨劇が起こった場所で怪奇現象が起こるらしい。まずは消える首吊り死体。旧校舎の旧生物室で首吊り死体が現れるらしい。でも、すぐ消えてるらしい。次に死神の鏡。これは同じく旧美術室で午前0時にこの部屋の鏡を見るとそこに悪霊が現れ鏡に押しつぶされるって話。最後に血の休憩室。今は使われてない休憩室の風呂場が血に染まる噂らしい。これで全部。どう思う?」
「なんかザ・学校の怪談みたいな話だな。これにトイレの花子さんとか13階段とかあれば完璧だな」
「ミサさん、アイスクリームおかわり」
「はい、はい」
カウンターでウーロン茶を注いでいた女性がにこりと答えてガラスによそって持ってきた。ついでに量が減っていたメンバーのコップを先程注いでいたウーロン茶のコップと取り換える。
「はい、どうぞ。それにしてもいつもながら楽しそうね。お姉さんも入れてくれるかしら?」
ミサが和の隣に座ろうとしていた。ミサは大人の女性という魅力いっぱいの出で立ちでゴージャスなドレスとミニスカ姿だった。
「ダメでしょう、ミサ。この子達の邪魔しちゃ」
タバコを吸いながら現れた女、いやもとより男性はこのバーのママ(いやパパ)のクリス郷田である。着物にカツラのような紫色の髪。その迫力はテレビで人気のとあるタレント以上である。
「あら、ママさんごめんなさい」
クリスに注意されてもミサはニコニコしている。
「にしても、以外ね。圭と悠が心霊話に興味を持つなんて」
「確かにいつもは話をすること自体タブーみたいな感じだしな」
茉莉と和は圭と悠が心霊話に食い付いたことに驚いていた。
「別に事件に繋がると思っただけよ。ただ話を聞けばどこにでもある怪談話でがっかりしたわ」
「それにしても、さっきの噂が事実だとしたら最低の学校ね。生徒さんが死んだのに知らん顔にするなんて。何か後ろめたいことがあるのかしら?」
ふぅ~と一息しながらクリスはしゃべる。
「それはあまり考えない方が良いわよ。知っても余計気分を害すだけよ」
クリスがしゃべった後、透は全員に今回の作戦の概要を伝えた。
「なるほど、それしかねえか。それで俺達は警備員として働けるのか?」
「履歴書の方は私の方で完璧に作っておいたから感謝しろ。後は写真撮影と名前だが、名前は茉莉ちゃんからの許可を得た名前を使うから。見た目の方は2人ともガラも悪いし、育ちも悪い。だから今回も少しいじらせてもらうからね」
「またかよ」
「いじるのは良いけど、お前は変な癖あるからどんな真面目人間にされるか・・・」
圭と和はこれからのことを考えため息を漏らす。
「私達の方はどうなってるの?」
「私達は新聞社の取材という形で潜入するの、丁度この学校の新聞部は優秀だし、桜井さんのミステリー研究会とも関わりも深いから丁度良いわ」
「なるほど、さすが透ね。いつ、決行するの」
「それより、まずは2人が面接に合格しないとね。くれぐれも変なことは言わないでよ」
「特に九十九君。落ちた場合は貴方に全責任としてあなたの部屋のコレクションを全部処分するから」
「おい、何でだよ」