#6
「まず、最初になぜ私達に依頼を?」
「えっ?」
雪子はまさかそんな質問がされると思わず一瞬焦った。
「周りで噂になってて・・・」
「なるほど、桜井さんあなたも噂に流されるそこらへんの若者と同じって訳ね」
酷く冷たい言い方をする悠の言葉に彼女はグッと心を刺された。
「ちょっと」
横で透が悠に注意をする。
「ごめんなさい、桜井さん。その・・・大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です」
「あの、桜井さん。1つ聞いて良い?」
今度は圭が雪子に質問する。
「君はお姉さんを殺した人物がいるって思ってるけど、おおよその検討はついてるのかい?」
これもまた想像していな質問だ。
「えっ、いいえ、私にはさっぱり。もしかして皆さんは分かってるんですか?」
すると悠がしゃべりだす。
「まず、遺書を見るからにあなたの家の家族構成を知っている。それに、あなたの名前も知っている点から考えて、この遺書が犯人によって殺された後に自殺に見せかける為に書いたとすると犯人はお姉さん、もしくはあなたの身近の人に絞られてくるわ」
『たったそれだけでそんなことが・・・』
雪子は悠の話に聞き入っていた。
「桜井さん、お姉さんが通ってた塾というのはどのようなタイプの塾なのか分かるかしら?」
「タイプと言うと?」
「よくある1つの部屋でやる学校みたいな講義型、それぞれの勉強を個別にみる個別指導型、最近流行のDVDなんかの映像を見ながら授業する通信型のどれかってこと?」
悩んでいた雪子の為に圭が助言をした。
「えっと、姉は塾の事を話さないので知らないです」
「じゃあ、お姉さんの塾での交友関係は知らないってことかな」
「そうです。あの・・・・よく分かりますね」
「まあね、依頼書を見た時からそう思ってたけど改めて確認したかったから」
「どういうことですか?」
「まず、君が依頼書でお姉さんの塾でのことが詳しく書かれていなかった事、この時点で知らないのか、重要じゃないかどっちかに絞れてくる。そして、さっき悠が塾のタイプを聞いて君がすぐに答えられなかった。この時点で俺は君がお姉さんの塾に通ってることは知ってるけど、どんなとこで、どんなことを教えていて、お姉さんの塾で交友関係などを君が知らないって答えを推測したんだ」
『凄い、この人』雪子は素直に圭の推理力に驚いた。
「まあ、時にこの推測が胸糞悪い方向に進む時があるからそういう時には無理して聞かなくていいわよ」
悠が雪子に告げてきた。圭は悠の方を笑みを浮かべながら少し睨んでいた。
「あの、所長さんはどうなんですか?何か分かったんですか?」
「いいえ、私は現場に行って確固たる証拠を捕また上で捜査する主義なの、そこの彼みたいに言葉だけを鵜呑みに勝手な推測はしないようにしてるの。ただ、今回の貴方の提示した依頼内容からはある程度のことは今までの経験から考えられます。さっき言った通りまず、犯人はあなたとお姉さん身近な人物、もし、さっきの九十九君の推理が当たってるなら塾の人間、それと学校関係者全員ってことになるわ」
「それはちょっと・・・あり得ないと思います」
雪子は立ち上がって答えた。
「依頼書に書きましたが、姉は誰からも慕われていました。確かに一部の生徒に嫉まれてはいましたが、嫉んでいた人はとてもそんなことをする人達じゃあないです」
すると今まで黙って聞いていた透が口を開く。
「それはその人達が桜井さんから見て弱くとても殺人が出来るような感じの人じゃないと思ったからじゃないかしら?」
「えっ、それは」
的を得た答えだ。確かに姉を恨んでいた生徒は学年でも優秀な生徒だったらしいが嫉妬心があまりに強く学年で浮いた存在だったし、いじめられていたようにも見えた。
「桜井さん悪いけど、現実はそんな人が殺人を犯すことが多いの。その人達は常日頃から恨み辛みを重ねてそれがためきれず爆発した時に衝動的に殺人を犯すの。だから弱いからと言って人も殺せないとは違うの?人の感情は時にその人を別の人間に変えるほどの力なの」
透の冷静ながら強い口調で話す内容はまるで取り調べ室で犯人を口説く時に使う言葉のようだった。
「ついでに俺の意見も言わせてもらっていいかな?」
「九十九君、また貴方のくだらない推測かしら。さっき注意したはずよ」
「いいえ、その聞かせてください」
悠が圭に釘を刺そうとしたが雪子はそれを遮った。彼の推測を私は聞きたかった。それはさっき彼女が彼の推測を聞いてどこか彼の凄さに惹かれてしまったのかもしれない。
「俺はまず塾の人達は少なくとも犯人の対象にならないと思う。さっき桜井さんが言ってたお姉さんの塾のことを君に詳しく話さなかったことからお姉さんも塾では家族のことについて多くを語らなかったと思う。だから可能性から絞って犯人になり得る可能性があるのは君の学校の生徒と教員だと思う。ただ、生徒に関しても君と当時同じ学年、それとお姉さんの学年、つまり今2年生の生徒と去年の卒業生。勿論、君の上の学年の3年生も例外じゃないけど君とお姉さんの両方を知っている生徒は少ないと思う。教員に対しても同じことが言えるかな。ただ、教員の場合は何かお姉さんに弱みを握られてお姉さんを殺害したとう可能性が大きいかな。桜井さん何か疑惑のある学校の先生はいるかな?」
「それは・・・・私には分からないです」
少し何か戸惑ってるように見えたが圭はそれを詮索することはしなかった
「そうか・・・」
「あのう、1つ質問」
声の主は自分のデスクでパソコンで調べていた。咲からだった。
「何ですか?」
「この学校の噂でネットで結構面白いことが書かれてるけど、この学園の悪霊って何なの?」
「それは太平洋戦終結後にある教師が戦地で死んだ自分の子どもを蘇らせようと何人もの生徒を殺し復活の儀式の為に生贄にしようとした事件があったという噂です。そして、その男が今この学校で悪霊となって旧校舎に住み着いていると昔から噂されているんです。それが・・・・」
「もういいわよ、そんな話聞かなくたって。だいたい分かる」
話を遮ったのは悠だったどうもこの心霊話が気に入らないらしい。
「桜井さん、死んだ人間が霊になるというのは宗教観によって違うの。だから、死んだ人間が霊になるという確証は無いの。つまり、この世に霊や悪霊は存在するというのは科学的に根拠の無い狂言に過ぎないのよ」
「あのう、それはどういうことですか?」
すると今度は圭からも同じような意見が聞かれた。
「つまり、死んだ人間が霊になるというのは根拠も無いただのデマだってこと。そもそも、霊が存在するなら何でこの世に未練のある連中がみんな霊にならないのか君は考えたらことあるのかい?未練なんていうのは霊の存在を確かにするためだけのこじつけに過ぎないんだよ」
この2人は全く霊的存在を信じないのか?今まで彼女はそういう存在を見てきたがここまで嫌悪感を持っている人は初めてだった。
「ごめんなさい。その・・・・この2人は自分で見たもの、直接聞いたもの以外信じない主義なの」
「いえ、そんなに気にしてませんけど」
透は2人の態度に謝罪した。
来週の投稿はお休みです。次回投稿は7月31日です。