#7
与えられた仕事を終えた圭が部屋に戻るとそこには先程まで居なかった新田の姿があった。
「あれ、新田さんもお仕事ですか?」
「私は監督に頼まれた物があったの、いわばお使いってところかしらね」
新田は柴田に頼まれてこの場に居るだけでこの部屋で何が行われようとしているかはまったく知らなかった。
「それより九十九君。ここで今から何が始まるの?」
「いや、僕も分からないですよ」
新田の質問に対して自分は知らないと答える。
「ほら、早く帰らないと監督がお怒りだぞ」
1人のスタッフが新田を茶化すように言うと彼女は部屋を出て行った。
「よし始めるぞ!・・・全員持ち場に付け!!」
近田が指示をするとスタッフが各々の持ち場に付くが何も言われていない圭だけはその場にぽつんと立ったままだった。
「おい、バイトはこっちだ」
突っ立っていた圭を近田が自身の下へ呼び寄せる。
「お前の頑張りで今からちょっとしたショーが見れる。今回は特別に特等席で見せてやる」
近田はニタニタと笑みを浮かべて楽しそうだが圭には彼が言うショーというものが楽しそうに思えなかった。とはいえ、せっかくのご厚意を無下にすることは出来ないと好意に甘える。彼の目の前にはテレビ画面が置かれていた。
「よし、三田モニターに電源を・・・」
近田が三田に命令しようとしたがどこにも姿が見えない。
「三田さんならついさっき部屋を出てどこかに?」
「まったくあいつは・・・」
自分に報告しないで勝手に行動する三田に呆れた近田は近くにいた別のスタッフに電源を入れるように指示をした。するとモニターに部屋で眠っている女性の姿が見えた。勿論、そこに映っている女性は知らない人物ではなく圭も知っている人物である。それは時間稼ぎしてサインを手に入れた広川であった。
「これって広川さんのお部屋ですか?」
「そうよ。見てな始めるぞ・・・」
近田の指示を聞いてスタッフがリモコンのスイッチを押すと彼女が眠っていたベットが突然大きく揺れ始めた。地震に匹敵する揺れに広川は目を覚まして辺りを見回す。すると今度は部屋に飾っていた絵画が音をたてて床に落ちる。大きなを音にさらに広川は恐怖を感じると追い打ちをかけるようにベットが再び大きく揺れる。
「キャアー!!」
悲鳴をあげて恐怖する広川の姿を見て近田を始めたスタッフは大笑いしていた。
「どうだざまあみろ!!」
近田は物凄く嬉しそうに笑って喜んでいた。
「なんだこれ・・・」
同じ雰囲気になれない圭は一歩下がって彼らを見て呆れていた。自分の時間稼ぎがこんなしょうもない事に使われていたと知って軽蔑していた。
「オイ、部屋から出るぞ」
広川は恐怖のあまり部屋から廊下に出ると画面が切り替わる。どうやら廊下にもカメラが設置してあったようで情けない姿でへたり込む広川をしっかり映している。
「今度はこれだ・・・」
近田の言葉の後に廊下の電気がすべて消える。いきなり真っ暗になったことで広川が再び悲鳴をあげてそれを見て喜び可笑しく笑っているスタッフ達。
「バカバカしい・・・」
圭も呆れてこのまま部屋を出ていこうとしたが・・・
「おい、何だあれは?」
近田がモニターを指さしてスタッフに尋ねる。そこには広川とは別の誰かが映っていた。しかし、格好は全身黒ずくめの不気味さMAXであった。その姿は広川も見えており恐れをなしていた。
「あんな仕掛け決めてたか?」
「いいえ」
他のスタッフも知らない。
「もしかしてあれは三田さんじゃあ?」
1人のスタッフがあの黒ずくめの男は三田ではないかと尋ねたが、すぐに近田が否定する。
「いや、あいつがこんな大それた事をする筈がない。するにしても誰かには打ち明けるだろう」
ならあの画面に映る黒ずくめの男は一体・・・・そんな彼らの疑問をよそに黒ずくめ男はゆっくり広川に近付いて行く。自身に近付く謎の黒ずくめ男に怯えて逃げようとする広川だが恐怖で腰が砕けて立ち上がれないので這いずりながら逃げるが距離は縮まっていく。
「オイ、流石にやり過ぎだろう。早く止めさせろう」
「どうやってですか?」
「スタッフなら無線機を持ってるだろう連絡しろう!」
近田はスタッフに命令して無線を入れさせて止めようとするが反応は無し。
「じゃあ一体あいつは誰だ?」
「なによ・・・ドッキリにしてはやり過ぎじゃないの・・・こんな事してただじゃ済まないわよ!!」
怯えながらもドッキリだと勘付いている広川は悲鳴を上げながら止めようしていた。一方の近田及びスタッフ一同はどうすべきか悩んでいた中で圭は男の握られていた物を見て声を荒らげる。
「殺す気だ!!アイツは広川さんを殺すつもりだ!!」
圭の叫びを聞いて全員が黒ずくめの男に視線を戻すとその手には草刈り鎌のような物を右手に携えていた。「誰か・・・誰か止めろ!!」
近田は声を上げるが誰も動かない。もうあの場所に行った所で手遅れだと分かっており、また、行った所で返り討ちにあうような危険な真似は出来ないからである。
「そ・・・そんな冗談よね?」
広川も男が凶器を携えていた事にドッキリとしては度が過ぎていると思い。思わず話しかけるが無反応である。それどころか凶器を振り上げて振り下ろす準備を整えて振り降ろそうとしていた。
「や・・やめて・・・」
広川の言葉を最後に自身の脳天に鎌が振り下ろされる。頭部から噴水のように血が溢れ出しそのまま力なく広川は床に倒れた。
次回の投稿は8月3日です。




