#6
「どうだった。そっちの方は」
事務所に戻った圭は同じ日に名古屋に向かい荒川から事情を聞きだそうとした悠達と今日の成果について話していた。
「巽が臓器売買に関わっていたのは事実みたいね。だけど、その証拠はすでに巽の手で握りつぶされてるみたい。それに彼の方も真実を語ってくれる勇気は無いみたい」
「えっ、どういう事透ちゃん?」
透の言った最後の言葉に咲は疑問に思った。
「どうも彼は今の自分の置かれた立場を無理矢理納得しようしているみたい。おそらく、今の職場は彼にとって居心地がとても悪いと見えるわね。無理もないわいきなり製薬会社のサラリーマンになるなんて考えてなかったでしょうし、それが自分がマスコミにリークしようとした事が原因ならなおさら巽の持つ力の前に失望したのでしょうね」
「そうか・・・・」
圭は透の話を聞いて呟いた。
「それで九十九君の方は何かあったかしら?最もここ最近の傾向だと貴方の方は収穫無しでしょうけど」
「残念。今回は少しばかり収穫があるんだ」
「えっ、本当に?」
透が圭の発した言葉に驚いた。
「ウソをついても仕方ねえだろう」
「良かったじゃない。所長としてもうれしいわ。それでどんな内容なの?」
「実は今日アイツの携帯に電話が掛かってきたんだ。たまたまアイツが居なかったから俺が代わりに電話に出るとその相手が山王会の下っ端だったんだ。何でも奴らの親分が伝え忘れた事を伝えるために電話してきたみたいだな」
「その内容なんだったの?」
「それは知らねえよ。俺は向うを煽って正体を暴くことしかやってねえからな」
「そう・・・私として出来ればどんな内容か聞きだせればと思ったけど九十九君の実力だと十分な成果ね」
「相変わらず嫌な言い方だな。それと手に入れた物はもう1つ」
そう言って圭は例の紙を3人に見せた。
「これは前に話したアイツの部長室の机で唯一鍵が掛かった棚に入っていた紙だ」
3人は紙の内容に目を通していた。
「ねえ、圭ちゃん。これってどういう意味があるの?」
咲はこの紙に書かれている内容だけでは圭の伝えたい意味を理解出来ていなかった。
「それは・・・・・」
圭はこの内容についていう事を躊躇っていた。
「無理しなくて良いわ九十九君。私は貴方が見つけたこの紙と貴方が推測した内容がだいたい想像ついているから」
どうやら悠と透は圭の伝えたい内容が理解出来たらしい。しかし、2人の表情はとても暗いものである。
「ねえ、どうしたの悠ちゃん、透ちゃん」
咲はまだ理解出来ていないようで2人に答えを聞こうとしていた。
「咲・・・実は」
「いいわ悠。私が言うから。このツアーに参加した人達が臓器売買の道具にされた可能性があるって事よね圭」
「えっ」
咲はやっと3人の表情が冴えない事に気付いた。
「ああ、これはあくまでも俺の推測だけどその可能性は高いと思う」
「私も同じね。自分の病院が観光に組まれてる時点で普通じゃないと分かるわ。また、この対象としている相手が中国の低所得者という点も九十九君の推測がより確実性を増すことになるわね」
「じゃあ、この人達はみんな・・・・」
「ええ、世界中のあちこちに飛ばされたかもしれないわ」
「そんなのって・・・・」
咲は言葉が出なかった。この中国人達にとってみればおそらくとても楽しみにしていた旅行だろう。それを最後にこんな形で命まで奪わるとは思ってもいなかっただろう。
「無慈悲に命を奪われたこの人達の事を考えるとこれ以上アイツらをのさばらせておく訳にはいかねえよ。この書類にはご丁寧にツアー会社の名前も書いてある。咲、この会社の存在を徹底的に暴いてやれ」
「分かった」
咲の顔にも気合が入る。
「待って」
2人が行動を移そうとするのを透が止める。
「なに、透ちゃん」
「調べるのは構わないけど、こんなツアーを受け持つような会社なんだから普通の会社な訳ないでしょう。もしかすると柳川組が間接的に運営している会社かもしれないでしょう。その時はどうするの?」
「その時は・・・・その・・・えっと」
咲はそこまで考えていなかったようで透からの質問の返答がしどろもどろであった。
「咲。この会社の情報を集めれるだけ集めて。ネットを上手く使えば会社の実態もすぐに分かると思うから。もし、それで柳川組関係がバックにいるのが分ったら後は私と悠に任せてくれるかしら?」
「うん、でも・・・・私も黒猫探偵社の1員だから・・・悠ちゃん、透ちゃん、圭ちゃんだけを危険な目に遭わせるのは嫌だ。だから、私もできる限り一緒に頑張りたい」
咲は目に涙を浮かべながら3人に言い放った。自分だけいつも安全な場所で捜査して3人が命を張って依頼をこなしている事に少なからず劣等感を抱いてた。『自分は弱いから足手纏いなっている』そんな風に咲は感じていたのだろう。3人は咲の思わぬ主張に一瞬時間が止まったかのような感じがしたがすぐさま透が咲を抱き寄せる。
「ごめんなさい。貴方がそんな風に思っていたなんて知ら無かった。そうよね、私達みんなで黒猫探偵社なのよね。誰か1人を除け者みたいにするのはルール違反よね」
咲はこらえていた涙があふれ出していた。その横に悠は咲の肩に圭は透の肩に手を置いた。
「咲・・・私達にとっては貴方は黒猫探偵社の一員でかけがえのない仲間よ。それなのに・・・貴方がそんな風に思っていた事を分かってあげなくて・・・ごめんなさい」
「いつも電子系の案件の時は1人で頑張って、俺達が制裁に行く時も1人で留守をして、いつも肝心なところでお前だけ1人にさせて悪かった。俺達にとってお前は最高の仲間だ!!足手纏いなんて1度も思ったこと無いさ」
「悠ちゃん・・・・圭ちゃん」
4人は改めて黒猫探偵社として絆を再確認していた。
「電話ですか?」
夜、自分の自宅に戻った巽はいきなり電話が掛かってきた山王会組長の堂間辰夫の言葉に驚いていた。
「ああ、どうもウチの若いのが先生に電話したらしいんだが、別の人物が出たって話だ。しかも、そいつがウチの若いのを煽り立てたって話だ」
「それで・・・何か問題でも」
堂間からの直接の電話事態そんなにある事では無いので巽はかなり動揺している。
「実はその時ウチのがついカッとなってウチの組の名前を出しちまったようなんだ。幸い案件は言わなかったらしいから。俺達の秘密のお仕事がバレた訳じゃねえみたいだ」
「ですが・・・」
「分かってるさ。ウチの方の子には今は厳しい教育を教えてる最中だ。そっちの方も電話の応対した男には厳しくしつけを頼むぜ先生」
「分かりました」
静かに電話を切った巽の顔には怒りがこみ上げてきていた。
「あの、バカ秘書が」
「貴様、昨日何をした?」
「どういうことですか?」
朝いつものように職場の巽の部長室に向かった圭は自分より先にその部屋に来ていた巽に来てて早々に胸ぐらを掴まれた。圭は普段なら来ているはずの無い巽の存在にも驚かされたが来ていきなり胸ぐらをつかまされた事も驚いた。
「私の携帯に電話があっただろう昨日?」
「昨日?ああ、あれは単なるタチの悪いイタズラ電話ですよ」
「イタズラ電話?」
「そうでしょう。だって先生の下にヤクザが電話するなんてあり得ないでしょう」
「・・・・・」
巽は焦った。昨日堂間組長から話は来ていたがその通りになっていたからである。巽自身まだこの男が秘書になってまだ1週間ちょっとであり、優秀か無能かもはっきり分かっていない。
「そうだとしても報告はするのは常識だろう。報告、連絡、相談という社会人として当たり前の事も出来んのかお前は」
巽は怒りをぶつけるように圭を来客用のソファーの方に投げた。
「イテ」
圭はそのまま腰をぶつけた。
「先生。そろそろ」
「分かった」
間の良い事に事務長の篠原が部長室のドアを叩いた。今日は毎週行われる教授会議の日だった。
「今後は携帯を含め私の部屋にあるものは一切触れるな。お前が触れて良いのは自分の職場にあるものだけだ」
そう言い捨てた後巽は部長室を後にした。巽が出た後に圭は立ち上がって自分の崩れた身なりを整える。
「クソ、物に触れなかったら今後、お前の部屋はいったい誰が掃除するんだよ」
そう思いながらも掃除をしてなかったらどうせまた巽に怒られるだろうし、今日の態度からして今度はただじゃあ済まないのと考えたので結局いつも通り掃除を開始した。
「けど、随分と堪えたみたいだな。けど、アイツが昨日の事を知ってたという事は・・・・おそらく昨日の相手が上の連中にしゃべったて事かな」
「先生の横にいつもいる人ですか?」
「はい、あの側近の方です。どういう方なんですか?」
午後にたまたまやって来た篠原事務長を捕まえた圭はある人物の事について聞きだそうとしていた。
「乾聡先生は元々別の病院で働いていたですが、巽先生が乾先生の才能に惚れこんでスカウトして自分の側近として置いているんです」
「それってあの手術の時もですか?」
「そうですよ。巽先生が執刀する手術では必ず乾先生が第一助手ですし、最近では巽先生の代わりに執刀医として手術を行うこともあります」
「そうなんですか。でも、その割にはよく先生に怒られてませんか?」
圭がそういうと篠原事務長は一瞬表情が曇った。
「まあ、厳しくなるのもそれだけ巽先生が乾先生の事を買っていますから愛情だと思いますよ。ですが・・・」
篠原事務長は部長室のドアを開け外に誰も居ないか確認していた。その後圭の近くまで来て小さな声で話した。
「実は乾先生は実力は確かなんですが、手際がどうも悪いみたいで。その事は巽先生だけでなく他の先生や教授の方にも苦言を呈される程です。外科医として手際が悪いのはかなり致命的です。幾らちゃんと手順通り踏んで完璧な手術をしたとして時間が掛かればそれだけ患者に負担が掛かるということになってしまいます。巽先生としても自分が自ら見込んで呼び寄せた側近がそんな腕では先生の将来にも関わりますからね」
「はあ」
ドラマの世界でもあるような病院内での権力争いは現実の話だったのかと圭は理解した。
「それに・・・・乾先生も」
「乾先生も?」
「いえ、何でもありませんよ」
篠原事務長は圭が聞き返した事にかなり焦っているように見えた。この態度が圭には怪しく見えた。
「篠原事務長。乾先生は今日はお暇ですか?」
「えっ。まあ、今日は特に立て込んでいる仕事はありませんが」
「でしたら、ここに連れて来てもらえませんか?巽先生にはまだ話してませんが、実が乾先生に取材したという話があるんです」
「それなら、私が聞いて来ますので」
「いいえ、私にやらせてください。巽先生は他の先生と接近する事は別に禁止してませんし。どうか、お願いします」
「どうなっても知りませんよ?」
篠原事務長も今朝圭が巽にどんな事をされたの分かっていたからである。
「別に構いません。それに痛いのには昔から慣れてるんで」
「そうですか・・・・分かりました本日に午後4時半には必ずこの部屋に居て下さい。分かりましたね
篠原事務長はこれ以上言っても彼は自分の意見を変えないと思い。圭の提案に折れてしまった。
「ありがとうございます」
圭が何故いきなり乾に会いたいのかと思ったのか、それは篠原事務長のあの一言である。あの一言で圭は『この病院中には巽が臓器売買に手を出しているという事を知っている人物が何人か存在する。そして、乾がその1人である』と考えたからである。
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