#13
まさか、この内容の話数が13話で投稿日が金曜日になるとは・・・・・
午後10時。首都高速道路環状線を飛ばす。1台のオープンカー。
「まったく、こんな時間に急患とは・・・こっちの楽しみが全部台無しだ」
車を飛ばす主は井領動物病院の院長井領永生である。その表情はかなり苛立っていた。彼は先ほどまである実業家によって開かれたパーティーに参加していた。このパーティには日本代表する実業家や芸能人や政治家までまさに日本のトップ階級の人間が集うパーティであった。そのパーティーに参加している井領も日々の忙しい日々を忘れる程楽しんでいた。しかし、そんな楽しいひと時に水を差す電話が掛かってきた。
「こんな時間に呼び出しやがって、その分治療費をふんだくってやるからな」
井領は悪態を付きながらオープンカーを飛ばし病院へ急いだ。病院に到着してみるとまだ患者とその家族は来ていなかった。
「チッ、人が急いで帰ってくれば、たく、動物もバカなら飼い主もバカってのは本当みたいだな」
井領は車から降りて裏口から鍵を開けて中に入る。しかし、その途中ドアにある物が挟まっていた。
「何だ?」
それは小さな黒い封筒だった。その中には黒いカードが入っていた。
『自身の私欲の為に罪を重ねる悪徳売人。井領永生
自らの欲望を満たすために罪無き者の大切な物を奪いその命する自らの私欲にする傍若無人な姿は悪魔そのものである。今宵、貴方の罪を裁くべく、参らん 黒猫探偵社』
「フン、どうせ私に対するくだらん噂を聞いた連中の嫌がらせだ」
井領は手にしたカードを丸めて背広のポケットに入れ中に入った。誰も居ない病院だから院内は真っ暗である。現在、この病院は院長の井領ただ1人である。先週まではただ1人の助手がいたが、先週の金曜日で解雇した。その為この病院に誰もいるわけが無い。そう思った矢先。
パチーンという音共に診察室内の全ての電気が点灯した。
「何だ?」
いきなりの点灯に井領は驚き声をあげた。井領の目の前に3人の人物が居るの見えた。しかし、先程まで暗い中に居たのでいきなりの明るさに視界がついてこれなくなっていた。
「誰だそこに居るのは?」
井領はその場に居る人物に聞いた。
「お久しぶりです。井領永生先生」
「貴様は」
視界がようやく安定した井領の目の前に居たのは彼に取って忌まわしい存在の3人である。
「なぜ、お前らがここに居る?あの電話」
彼が焦るの無理はない。その3人は以前自分の病院に取材として訪れた礼儀知らずの新聞記者3人である。また、横の2人の女性はその後以前勤めていた助手と共に病院内に侵入した2人の女性も居た。
「あれか?アンタをここに来させるために罠だよ。貴方が知る人物の力を借りてね」
ニタニタしながら圭は井領にここまで来させた真実を言った。
「貴様ら・・・・こんな事してタダで済むと思うか。解雇じゃあ済まないぞ、このまま警察送りにしてやるからな」
そう言って井領はポケットに入れた携帯に手を伸ばそうとした。
「したければどうぞして下さい。ただ、警察にお世話になるのは私達じゃなくて貴方の方じゃないですか?」
透が電話をしようとした井領を止める為なのか強い口調で言った。
「何が言いたい?」
「あのカードを見てまだ理解できませんか?」
「カード?」
井領は丸めたカードを背広から取り出した。
「そこに書いてある内容を見て分かりませんか?」
改めてカードに書いてある内容を読む井領、内容もそうだが彼が気になったのは最後の言葉である。
「復讐・・・・探偵?貴様ら一体?」
「そのまま書いてある通りです。その反応からすると貴方は私達の存在を知ら無いようですね」
「知るはずないだろうお前らなんぞ。ただ、分かったのはよく居る人の膿を曝け出そうとする汚い連中だという事だ」
「へーえ、俺らの事をそう思ってるんだな。しかし、随分な身分だよな自分が汚い事をやってるていうのにな」
「何だと?」
「分かりませんか?動物の闇取引及び薬品の架空請求という自分の犯した罪を?」
「バカな、そんなでたらめな事を・・・・以前にも言ったが私がやっているという証拠はあるのか」
「ええ、勿論です。まずは架空請求の方から以前狩野さんと共に調べた時は使用票と在庫を照らし合わせれば在庫が合わなくなると言っていましたが、それはハズレでした」
「当たり前だろう」
井領が強気で答えるが悠は動じない。
「しかし、あの薬の入っている箱に答えがありました。私は在庫が合わないと知った時点である仮説を考えました。使用票と在庫が合うように別の薬をその袋に入れて数を水増したという事です。この時、この薬の水増しように使用させれる薬は普段から使用し価格が安い薬品です。狩野さんの話によると薬剤の管理はあなた自身がやっていて、彼女を含めた助手の人達にはよほどの事が無い限り触らせなかったらしいですね。ただし、使用票やカルテは助手の方に書いてもらっていたらしいですね。この方法なら助手の皆さんに気付かれずに済む、仮に自分を疑う者が現れても使用票と在庫の関係で相手にただの思い過ごしと思わせることが出来ますしね。まあ、それで気付く方も居たみたいですけど」
「フン、それが何だ単に入れ間違えただけかもしれないじゃないか?それに君はその事が怪しいならカルテを直接調べなかったのか?」
井領の言うことも強引ながらあり得ない話では無い。疲れや不慣れな助手のミスなどでそのような事が起こる可能性も少なからずはある。
「調べる必要もありませんよ。だってカルテは貴方が書き換えているんですから」
「書き換える?その証拠はどこにあるんだ?それにカルテは助手が書いていたと君に狩野君が話したんだろう。だったらカルテと在庫の違いに気付いて書き換えた可能性は彼女達にもあるんじゃないのか?」
「その事ですが既に分かっています。貴方がカルテを書き換えたというとっておきの証拠と共に」
「なに・・・?」
悠のセリフに今まで強気な表情だった為か井領の表情が歪んだ。その横で悠は透からある2つの資料を手渡され、それを井領の前に広げた。
「こちらはどちらも同じ日のカルテです。本来は1種類しか存在しないはずなのに2種類存在していました。よく会社などが所得隠しや負債隠しの為に行う2重帳簿のような物ですね。ちなみにこの2種類の紙は貴方の院長室のパソコンで作られた物です。ちなみに狩野さんはこの部屋のパソコンは院長しかパスワードは知ら無いだけでなく、意味も無く院長室に入ることすら禁じていたようですね?それは彼女達がこの存在を知ら無いようにする為ですよね?」
「それは・・・・・・」
井領からは先程までの自身に満ちた表情が薄れていた。
「けど、結局は彼女を含め助手の人達は気付いてたみたいだから、アンタの努力も無駄な足骨だったて訳だな」
「黙れ。あの女・・・・情けを掛けてやった恩を仇で返しやがって」
圭はお前が言うなと言わんばかりに呆れていた。
「それは貴方が言うべきセリフでは無いわ。情けを掛けたと言いながら結局は彼女の獣医の道を断つような事を言っておきながらよく言えますね」
「うるさい。このアマ」
悠のセリフに井領は汚い言葉で返す。
「悠、早く全部話であげましょう。これ以上伸ばすとこの男さらに聞きたくないようなセリフを吐き続けるわよ」
透が悠に早く済ませるように促す。
「ええ、そうね。それではもう1つの貴方の罪。動物の闇取引についての話もしましょう」
「クウウウ・・・・」
井領は悠を殺すような勢いで睨むが悠にはまったく通じていない。
「この事件に関しては貴方やこの取引を行っていた商売主も含めてかなり慎重に行われていた為なかなか尻尾が掴めませんでした。しかし、僅かな証拠が貴方のパソコンに残っていました。それがこれです」
悠は井領が闇取引の商売主の連絡役だった角野と連絡メールを彼の前に差し出した。
「貴様は・・・・それは」
「この内容は2年前に行われた取引の謝礼と別の取引の催促の連絡です。この内容を見るだけで貴方がこの闇取引のバイヤーだという事が立証できます」
「・・・・違う・・・・・」
小さな声で井領が呟く。
「確かにあの時はやっていたが・・・今はやってないんだ。それにあの時は無理矢理やらされたんだ。だから、私は・・・・・」
「そうですか、井領さん。もう貴方の嘘は聞き飽きました。井領さん貴方は今も闇取引のバイヤーですよね?」
「違う!!」
「浅井さんからディッキ―を狂犬病と偽って引き離して売りさばいた」
「違う!!」
「そして、今度は診断で訪れた柴犬を今度は・・・・・」
「黙れ!!」
井領は手を伸ばし悠に向かって突っ込んできた。しかし、悠は井領が自分の首を締めようとするのを予測し自らの首に迫る手を左手で素早く払い、そのまま井領の体に近づき体重を掛け右手の手刀で井領の溝に叩き込む。全体重を乗せた手刀がヒットした井領は後ろの医療器具が収納された棚に衝突する。
「ごば」
腹を抑える井領。そんな姿をよそに悠は続ける。
「次に私達は貴方とやり取りしている人物が誰だと言うのが気になりました。それで調べると、この2年前のメールはどちらも同じ人物が連絡相手だという事が分かりました。幸いパソコンのメールアドレスがこの2年間変わっていなかったのでこの人物を特定することが出来ました。その人物は角野清吾。この人物が貴方と組織の連絡を担っていた人物ですよね?」
「知らない。そんな奴は」
この状況でまだ自分の罪を認めない井領。
「残念ですけど、角野さんは自ら罪を認めました。そして、全て語ってくれました。組織の事も、貴方の取引のことも全て。角野さん自身この組織に関わってしまった事を非常に後悔していました。それでも、守るものがあるからそれを捨てることが出来なかった。それに銀行を解雇されて今の仕事に就けたのもこの組織のおかげだった、だから逆らえなかった。それでも、彼は全て話すことを決めました」
透は井領に自分が接触した角野の話をした。
「どういう事だ?」
「自首したんです」
「・・・・・・・」
透の答えに井領は開いた口が塞がらなかった。彼自身も組織のバックにどんな恐ろしい連中や取引相手が居たのかを知っている為組織に異を唱える者のなどいないと思っていたが、あの角野が・・・
「バカな・・・バカな」
「これ以上私から言う事は無いです。井領永生、貴方に問う。貴方は動物の闇取引や薬品の架空請求といった罪の為に犠牲になった者達への償いとして罪を認め償う意思はありますか?」
悠は1歩1歩井領に近づいて行く。
「うわわわわわ!!来るな。来るな」
先程の悠から受けた痛みが色濃く残った井領から見て悠はまさに自らを殺しに来た人物にしか見えなかった。それに彼女の左腰にぶら下げている刀がさらにその凄みを増させる。
「答えろ、償うのか?償わないのか?」
悠の言葉に先程のような柔らかな言葉が薄れていた。
「来るな、来るな、来るな、ヒィ」
井領の両足の股の間に悠の剣が振り下ろされた。
「どうなんだ?」
震える井領とそれを冷酷に睨む悠。圭と透はいつもの悠の姿と違う事に心配していた。もし、このまま井領の声を聞くこと無く悠が井領を殺す可能性も考えられる。その可能性もあって圭は悠に近づいていつでも彼女の刃を止める準備をしていた。
「私も言いたかった!!」
院内に井領の大声が響く。
「私も最初はこんな事はしたくなかった。この闇取引に関わるようになった理由は私が2年前に獣医として力を伸ばしていった時期にある週刊誌に私が学生時代に獣医師になる時に裏金を使ったや大学生時代の素行などが記事になった」
「それは本当のことなのか?」
圭は井領に尋ねた。
「学生時代の素行や成績が悪かったのは事実だが、裏金は全く事実じゃなかった。すぐに訴訟を起こそうと準備したがテレビで面白可笑しく取り上げられていく内に事態が大きくなって私や両親を含めた嫌がらせ酷くなっていき私自身もこのまま獣医を辞めようとも考えた。ただ、そこに救いの手が差し伸べたんだ」
「それが組織の人間ですね」
剣を鞘に戻した悠が答えた。先程と違い落ち着いていた。
「ああ、それでこの問題を円満に解決する方法提示したんだ。その交換条件で闇取引のバイヤーになるように命令されたんだ。最初はこんな非人道的な事をするのは嫌だった。だが、自分の獣医としての道を断たれと考えるとやらざる得なかった。これ1回だけだと思ったが奴らはどんどん私に取引のバイヤーを勤めさせていった。その過程で数多くの助言をしてきたが、どれも常識的では無い物だった。それが今回の浅井さんに行った物もその1つだ」
「そうですか・・・」
3人はこの組織の恐ろしさを知って、怒りに溢れていた。
「その方法でいくつか非合法の薬が必要になってその金がどうしても足りなくなった。そのお金を稼ぐ方法として奴らが教えたのが架空請求だったんだ。こんな大胆な物が通じるのかと思ったが、通じていくのを見ていく内にこの組織の恐ろしさを知っていき、余計逆らえなくなっていった」
「・・・・・・」
3人は何も言葉が出なかった。クズ人間だと思った井領の内面には実はそんな葛藤があったのは全く予想できなかった。
「井領さん・・・・。もう1度聞きます。貴方は今回の自分の犯した罪に対して償う意思がありますか」
「ああ、私は全て話す。今までやってきた自ら罪。それと組織の実態やこの取引に関わった人物も全て話す」
「最後に今回の私達の依頼者の浅井さんと先日解雇した狩野英孝さんに言わなければならない事があります」
「ああ・・・・、済まなかった。いつか必ず彼らの下にディッキ―が帰ってくるように努力する。それに狩野君には辛い事ばかり済まなかった。君のおかげでこの病院は色々と助けられたと伝えてくれないか」
「ええ。必ず」
罪を認めた井領の顔はどこか爽やかな表情をしていた。今まで自分の抱えていた闇と向き合えたことよるものだろう。3人も彼の答えの謝罪の言葉を聞いたことで今回の依頼終了である。組織の解体は井領と自首した角野の証言が全てだ。2人が全てを話すとは限らないが、彼らは2人の証言を信じることにした。自らの闇と抗えない強い力による圧力に負けずに真実を話そうと決めた2人の覚悟に賭けた。
病院を後にした3人の顔はいつもと違い少し穏やかだった。それは殺さなかったという事が関係しているのかもしれない。
「それにしても・・・」
透が悠の頭を軽くて手で叩いた。
「悠があそこまで感情的になるなんてね」
「ごめんなさい。私もどうしてあそこまで熱くなったのか分から無いの」
悠は視線を下げて透の問いに答えていた。
「それだけ、狩野さんがお前にとって大切と思える人物だったんだよ」
「九十九君・・・・・」
唐突な圭の言葉に悠は立ち止まった。
「今回はちょっと焦ったけど、別にそれは悪い事じゃない。それはお前も俺も人間だからさ。大事な大切な事や夢を奪う事は許せないことだ。そんな事をする人間に対して感情的になることは当たり前な事さ。だって大切な友達を傷付けたんだから。その友達を守る為なら悪いことじゃないとさ」
「圭・・・・・」
「悠は俺達や和や茉莉以外の人間で始めての大切な人だったと思う。悠としては今回は彼女を守れなかったことが感情的になった理由だったんだろう」
「・・・・・うん」
悠は小さく答える。
「悠、今回は色々と反省することもあるけど、この経験を大事にしてくれたら良いと思う。なあ、透」
「そうね、悠としては良い経験だったと私も思うわ。まあ、ちょっと心臓に悪かったけどね。ただ、圭に関しては感情的になることは少し抑えて欲しいわ」
「今、悠の話をしてるのに俺が怒られなきゃいけないんだよ」
「あら、今回の悠のを見て何か感じるの物は無かったのかしら?よく言うじゃない、人の振り見て我が振り直せって」
「だからって、悠は悠で、俺は俺で良いじゃねえか。お前は一々口うるさいんだよ」
「貴方の場合は悠と違って心臓に悪いだけじゃない済まないじゃない。それと口うるさいって言うのは私に対して事かしら?」
「何だよ、違うのか?」
「フーン、いい度胸ね。どうも、最近体がなまっているようだから、ちょっと付き合ってもらえるかしら?」
「おいおい、待てよ。何でそうなるんだよ」
ボキボキと指を鳴らしながら圭に近づく透と距離を取ろうとする圭。
「ウフフ」
「悠?」
2人の姿を見て笑う悠。
「ありがとう2人とも。それより疲れたから。どこか寄って行かない?」
2人の間に入ってスタスタ進んで行く悠。
「ハイハイ、分かったから。先に行かないの」
「今回は俺も疲れたし。付き合うぜ」
「あら、九十九君は何もしてないじゃないの?」
「お前のせいで使いたくない気を使ったからだよ」
「あら?いつも私達は貴方が潜入捜査してる時はこんな感じよ」
「勝手に人がいつも問題を起こすみたいに言うな」
「でも、毎度何か問題を起こすじゃない」
「透・・・・・」
「ほら、早くいくわよ九十九君」
「ヘイヘイ」
次回の投稿は明日12月2日です。




