#20
あれから2日後の日曜。今日は警備員の仕事も無く自由な時間である。そんな中九十九圭は1人渋谷の街に来ていた。プリントTシャツの上にカジュアルなシャツを羽織った春らしい格好に下はいつもようにジーパンである。髪も普段のように左右後ろが寝ぐせのように跳ね上がっていた。仲間達はだらしなく見えるから直せとよく言うがくせ毛の為どうしようも無いらしい。彼が今目的としている場所は渋谷のセンター街にある。しかし、彼が行く場所はそんな大通りにある店では無い。大通りから1本入った路地裏の薄暗い場所にあるミリタリーショップである。
店の名前は『ミリタリーショップ ジン』こんな名前を付けたからには店のご主人はよっぽどお酒が好きなのだろう。こんな場所に店があるせいか一元さんやミーハーの客は入りづらいだろう。店の中に入るとマニアらしき客2人がこちらを気にせずヒソヒソと話している。
「いらっしゃい」
店のカウンターに居る男性が声を出す。店員は声を出すが雑誌を読んでいるままだった。圭はその店員の前に向かった。
「よう、久しぶりだな圭」
圭が現れると読んでいたミリタリー雑誌を捨てて顔を出す。その姿は圭や悠達とさほど変わらない年齢である。春だというのに厚手のミリタリージャッケトを着ている。この男性はこのミリタリーショップの店員の1人鬼島健斗である。とは言ってもこのお店は彼の父の鬼島慶三の2人で切り盛りしている。
「悪い。射撃場を借りるぜ」
「ああ良いぜ。ちょうど今は誰も居ないから貸し切りだ。それとこの間お前が頼んでおいた代物が届いたぞ。試してみるか?」
「ああ、後で持って来てくれ」
そう言って圭は店内の奥にあるドアを開け地下に降りていく。地下には映画やマンガなどで見る射撃場のような風景が広がっている。的もよく見る人の上半身の絵である。
「さて」
圭は持っていた鞄の中から銃を取り出す。もちろんこの銃はエアーガンでも無ければモデルガンでも無く本物の銃である。彼が愛用するのはスプリングフィールドXD。この銃はクロアチアで製作された銃でありクロアチアの軍や警察で制式拳銃に採用されたこともある。特徴としてはグロックと同じくフレームやグリップの材質にポリマーを使用いるためプラスチック製よりも強度も固い。使用弾薬9㎜だけでなく45口径弾や357SIGや40S&Wなども使用できる為アメリカでも人気の銃となっている。
圭は手慣れた手つきでマガジンに弾を入れていく。そしてマガジンを銃本体に入れ。スライドを手前に引いて装弾し。安全装置を外して発射可能状態にして射撃を開始する。トリガーを引き1発、2発、3発と的の頭部分と体の中心部分に的確に撃っていく。16発全弾発射し終えるとマガジンを落とし先程詰めておいた別のマガジンと入れ替える。先程同じように的を正確に捉えていく。
「流石の腕だな」
圭が2回目の銃を撃ち終える頃健斗が紙袋と黒いアタッシュケースを持って降りて来た。
「これくらいは朝飯前だぜ。それより例の奴は?」
「ああ、ほれ」
健斗がアタッシュケースを開けると中に入っていたのは短機関銃H&K UMPである。俗に言うサブマシンガンと呼ばれるものでドイツのH&K社が開発した短機関銃であり。SWATを始め多くの国の特殊部隊でも使用されている実績のある銃である。
「いや、やっぱり良い味出しているよな」
いつも以上に圭の目が輝いているように見える。
「で?どの弾で打つんだ?」
「45口径で頼む」
「あいよ」
そうすると紙袋の中から予め込められていた45口径弾のマガジンを圭に手渡す。
「まずはセミオートで2,3発撃ってみな」
「分かった」
弾を装弾してセミオートにレバーを合わせる。そしてトリガーを引いて3発撃っていく。
「どうだ?」
「撃ちやすいよ。45口径って感じさせないし」
「じゃあ次はフルオートで行くか?」
「ああ」
フルオートにレバーを合わせてトリガーを引くと一気に10発以上の弾が発射される。あっという間に残りの22発を撃ち終わた。
「すげえな。これ振動もそんなに無いからブレないし。45口径がここまで撃ちやすく感じるなんてまるで奇跡だよ」
「買うんだろ。それ」
「ああ、勿論」
圭の回答は即答であったまあ、答を聞くまでも無いが。
「でもどういう理由だ。今までハンドガンしか買わなかったお前がサブマシンガンなんて」
「別にいずれは必要になるだろうからさあ。遅かれ早かれ買う運命にある事は変わらないし、それにこれより強力な銃なら前に買っただろうが」
「そうか買ったなデザートイーグル。いつ実戦に使うか知らねえけど整備はばっちりしておくぜ」
「ああ毎回悪いな。それで親父さんは?」
「親父は今買い出しだよ」
「そうか」
このお店は表向きにはサバイバルゲームなどで使うエアーガンや弾や防具などの品や観賞用のモデルガンなどを販売しているが裏では秘密ルートで手に入れた実銃や実弾などの本物の武器も売っているのである。無論どんな連中にも売っている訳で彼の父である慶三が認めた少数の人間にしか取引していない。圭を含めた黒猫探偵社もその1つである。
「買うなら。さっさとお会計しないとな。今は誰も店内に居ないがあんまり店員が居ない時間が多いと・・・ウチはサツに疑われている立場だし」
「そうだな」
そう言って彼らは階段を上がって店内に戻った。
「それでこれ御いくらするんだ」
「諸経費込みで25万だな」
「なあ、健。もうちょっとだけ安くならねえか」
「お前な・・・」
「お前と親父さん立場も分かっているけどもう少しどうにかならないか・・・」
「無理だな。この銃を手に入れるのに苦労した親父の意見として『絶対に圭の奴にまけてやるなと』言われているからな」
「クソ。しゃあねえな」
健斗の意志も固いので圭は渋々その価格で払うことを決心した。鞄の中から封筒を出した。しかし、そこに入っているのは5万円だけであった。
「まず頭金5万円で後は20回払いで良いよな?」
小さな紙に残りは20回払いで払うという文字と本人のサインを書いていた。
「ハァー、お前またか。払いきれるのか?」
「払える・・・多分」
「分かったよ。まあ、だいたい予想していたよ。良いよそれで」
健斗は圭の出した書類にサインを終えた。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ。今度の作戦もあることだしな」
「そうか、気負付けろよ。それと今回のローンで今お前が背負っているローンはこの間のデザートイーグルの10回分を加えて合計40回分だ」
「ああ・・・」
「まあ、しっかり払えよ。まあ、払えねえなら。親父の仕事を手伝ってもらえば良いからな」
「あれだけは・・・・。まあ、払えるようにするよ。じゃあな」
そう言って圭は店を後にした。
その頃事務所に残った他の3人もそれぞれの時間を過ごしていた。
「ねえねえ。圭ちゃんはいつ帰ってくるの?」
「さあね。そろそろ帰ってくるんじゃないかしら。咲。ゴメンちょっと、そこどいてくれる?」
「はーい」
事務所の1階には咲と透がいた。咲はいつものように自分のパソコンに向かっており。透は掃除機を掛けていた。
「そう言えば悠ちゃんはどこに行ったの?」
「地下に降りて行ったわよ」
この事務所は地下1階地上2階の構造になっている。地下には畳張りの部屋があり。そこは悠、圭、透の鍛錬の為に作った部屋である。その部屋には悠が1人部屋の真ん中で目を閉じて正座していた。その左横には日本刀は鞘に収まった形で置いていた。
まさに部屋は無の一言に尽きる状態であり。その場所に居る悠の集中力は非常に高く。さらには彼女から発せられる殺気も相当なものである。並の人間なら入っただけで胸が痛くなってしまいそうである。静まり返った状況が続く中悠が目を見開く。そして目にも止まらぬ速さで刀を抜き去る。周りには何も無いがその一太刀は周りの空気を一瞬で切り裂く威力である。
「ふうー」
悠が一息つくと額から少しばかり汗が出ていた。その汗を拭い剣を鞘に戻した後今度は連続で剣を振るう。まさにその姿はいくつも決闘を戦い抜いた歴戦の剣士のように見えた。
「はあー」
先ほどよりも多くの汗をかいておりその汗はシャツ越しにも見てとれる。
「やっぱり良い汗じゃないわね」
そう言って鍛錬場を後にする。
「ちょっと、シャワー浴びてくるわ」
悠は1階に上がってそこに居る2人に告げて2階に上がる。それから僅か数分後。
「うぃーす」
「おかえり」
「おかえり。どこ行っていたの?」
2人が事務所に戻った圭に問いかける。
「健の店。悪いけど、汗かいたからシャワー浴びてくるわ」
そう言って圭は2階に上がって行く。
「ちょっと、圭ちゃん。待って今浴室には悠ちゃんが」
咲は急いで止めようとしたが掃除機の音が合わさったのか圭には全く聞こえていなかった。
「どうしたの?あわてて」
「その圭ちゃんが浴室に・・・」
「ウソ、圭。ちょっと戻ってきなさい。中にはまだ悠が」
透の声も全く圭に届いていなかった。その透の声が上げてから数十秒後いきなり圭の叫び声が聞こえる。
「待て、知らなかったんだ。本当だって・・・ぐはっ」
「遅かったか」
咲は手で目を隠しながら言った。
「そうね・・・生きていると良いわね」
冗談だと思うが透がそんな事を静かに言っていた。
次回の投稿は10月4日を予定しています




