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復讐の黒猫達は暗闇に笑う  作者: 本山修一
case5 偽りの仮面女優
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#5

「それでは今日はよろしくお願いします」

 現在の時刻は午前7時半。圭は今日の朝に姫川玲子が出演する情報番組のスタッフに挨拶をしていた。番組制作には演者などの見えない所で多くの人間が働いて成り立っている。その人達がいなければ番組という物はこの世から生まれない。これがテレビ制作の基本である。

「君が新しく入ったマネージャー君かね。いや・・・随分と若いね。新卒かね?」

「ハイ、今年の3月に大学を卒業したばかりです」

 圭はこの番組のプロデューサーに挨拶をしていた。

「へぇ・・・新卒で芸能事務所のマネジャーねえ・・・」

 プロデューサーは圭を物珍しそうな顔をして眺めていた。

『あんまりジロジロ見るなよ。こっちは好きでこんな事してんじゃねえんだよ!!』

「その首に付けてるアクセサリーは何かね?」

 プロデューサーは圭の首元に付けられていた黒のチョーカーに注目していた。スーツを折り目正しく来ている中で首元に付けられているチョーカーは目立たない訳が無い。

「これはちょっとした自己アピールみたいな物ですかね・・・」

 圭は本当の事を言う事が出来ないので苦し紛れの言い訳を言ってしまった。咄嗟の言訳なのでかなり苦し紛れの言い訳である。

「そうかね・・・まあ、芸能人のマネージャーってのは結構変わった人もいるからね」

「そうですか・・・」

 圭はプロデューサーの言葉を聞いて少しだけホッとしていた。一通り挨拶を終えた圭は玲子が来る予定の楽屋に戻った。それから3分後、玲子が楽屋に入って来た。

「おはようございます。おっ、ちゃんと来てたんだ」

「おはようございます」

 圭は最後の一言だけは少し気になったが、そこは我慢した。

「こんな朝早くから何してるの?」

「新人ですから・・・色々な人に挨拶をしないといけないですから」

「ふーん・・・意外と律儀なんだねえ。さてと、次は私の方が挨拶にしないとね・・・」

 次は玲子が今日の共演者に挨拶をしに行くべく楽屋を後にした。圭はその様子を見ながら1人考えていた。

「昨日、今日で分かるとは思えないけど、やっぱりあの子には何か裏がある感じなんだよな。やっぱり気になるのはあの時の・・・・」

 圭が気になったのは昨日の夜に彼女から聞かされた言葉である。圭の長年の経験であの言葉にはどこか彼女の本心が見え隠れしていた。もし仮にあの言葉が本心ならいずれはその怒りが爆発する危険性がある。それは圭達がこの仕事をしている内に嫌でも見てしまう物である。

「本日のゲストは女優の姫川玲子さんです」

 ナレーションの紹介の後に玲子がスタジオに現れた。

「おはようございます」

 玲子は笑顔で元気よく挨拶をした。

「去年はドラマに出演するなど大活躍でした姫川さんは今、業界大注目の女優さんと業界でも注目の的です」

 ナレーションの説明が後に司会者の男性が彼女に母親の事を聞き始めた。

「お母さんとは普段どんな感じなんですか?」

「普段は優しいんですが、やはり演技の稽古となると厳しいですね」

「叩かれたりするの?」

 1人のパネラーの男性が意地悪な質問をした。

「いえいえ、そこまではありませんよ」

 玲子は笑みを浮かべながら答え、スタジオ内も笑いで包まれ非常に良い雰囲気になっている。

「やっぱり人前だと雰囲気が違うな・・・」

 遠くの方で収録の様子を眺めていた圭は彼女の言動や立ち振る舞いを見て感じていた。普段自分や他のマネージャーの時と見せる態度とは明らかに違う。

「これが芸能人って事なのかな・・・」

 圭も何度かこういったギャップがあるというのを本やドラマなどで見たことあるので知っていたが、まさか現実であったと思うとやはり驚きよりもショックの方が大きい。

「ところで今度お母さんの舞台があるそうですが・・・・」

「そうなんです。まだ、全部完成していなくて。母は作品へのこだわりが強いせいで脚本が完成するのも稽古中ってこともよくあるんですよ」

「ええ!!そうなんですか?」

 玲子の発言に司会者や出演者も全員が驚いていた。

「それだと途中で話の構成や展開が変わったりする事もあるんじゃないですか?」

「大まかな展開や方向性は変わる事は無いんですけど、それでも場面が増えたり減ったりと色々な事が怒るんですよね」

「いつかはお母さんと共演したいと思ってはいるんですか?」

 女性アナウンサーが玲子に淳子との共演の願望はあるのか聞いた。

「やっぱり・・・いつかは母と同じ舞台に立ちたいと思っています。私にとって母は憧れの存在ですから」

 玲子は薄く笑みを浮かべながら答える。その様子に出演者達の心は和まされていた。

「いや・・・良いね。あそこまで良い表情や返しが出来るなんてね?」

「そうだよな・・・まだ、デビューして4年だろう。しかも、殆ど舞台ばかりでテレビに出始めたのは去年からだろう?恐れ入ったよ」

 プロデューサーとディレクターは2人で多くの画面が映っている部屋で収録の様子を眺めていた。

「やっぱり伊達に姫川淳子の娘って訳じゃないですよね?」

「バカだな知らねぇのか?あの子は姫川家に養子で入ってるんだぞ。だから、血のつながりなんて1ミリも無いんだぞ」

「そうなんですか。それなのにあんな2世だの七光りだの言われて叩かれてる訳ですか?」

「かわいそうなもんだよな。真実を知ら無い奴らが面白半分に言われるなんてさあ。まあ、今の芸能界で万人に好かれるような人間はいないさ。どんな人間にも好きになれる人間もいれば嫌いになる人間もいるのが理だからな」

 プロデューサーはタバコを灰皿に押し付けて火を消した。

「それより、お前も会ったかあのマネージャー?」

「会いましたよ、変わった子ですよね。大学を出てすぐに芸能人のマネージャーになるなんて・・・」

「俺も驚いたよ。それに首に付けてるあのアクセサリー」

「ああ・・・チョーカーですか。あれには驚きましたよ」

 2人は玲子のマネージャーである圭の身なりについての話をしていた。やはり焦点になっていたのは彼の付けていたチョーカーの事である。

「まあ・・・・元々あそこのマネージャー変わった奴が多いですから?ほら・・・1番の古株の彼も・・・」

「ああ・・・アイツか。あのノーネクタイの奴だろう?あれでも早稲田なんだろう?」

「そうなんですよね。早稲田なら芸能事務所以外にも働き場所は幾らでもあるでしょうにね」

「まったくだよ・・・」

 




「お疲れさまでした」

 圭は楽屋でメイクを落としていた玲子に声を掛けた。

「いや・・・朝の生放送は大変だね。あの人達は月曜から金曜まで毎日続けてる訳でしょう。私には絶対に無理だな」

 メイクを落としながら玲子は冗談交じりに圭に返した。それから2人は事務所に向かうタクシーの中にいた。後ろの席で女性と2人きりの状況に圭は少し息苦しかった。

「あのう・・・」

 苦しくなった圭は玲子のある事を聞いてみた。

「どうしたの?」

「さっきの収録で言っていた話って本当なんですか?」

「さっきの話?」

 玲子は圭に何の事か聞き返した。

「社長の脚本の話ですよ」

「ああ・・・アンタも異常だと思ってる?」

「ええ・・・まあ」

 逆に異常だと思わない方が不思議だと圭は思っていた。普通の舞台やドラマでも脚本が出来上がった上で稽古を始めるのが常識である。脚本が完成していないのに稽古を始めるというのは合理的では無い。

「だよね・・・収録の時には配役が変わる事もあるからね。皆大変なんだよ」

「玲子さんも経験したことあるんですか?」

「私は無いけど、中にはママの相手役だったのに途中で変えられた人もいたかな」

「それは大変というより・・・かわいそうですね」

「そうよね。まあ、ママは妥協しない人だからね。今回の舞台も一応私が主役だけど最後まで分から無いのよね」

「そうなんですか・・・」

 人には人の苦労がある。圭はその現実を改めて知る事になった。しかし、自分達の苦労に比べればそんな苦労は小さく見える。彼らの苦労とは普通では背負えない苦労である。人殺しという大きな十字である。

次回の投稿は5月14日を予定しています

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