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復讐の黒猫達は暗闇に笑う  作者: 本山修一
黒猫のお料理タイム
110/676

九十九圭×料理

今回は短い短編を3本です。

 ここは鳴海和なるみかずと瀬川茉莉の2人が働いている喫茶店『リーフ』。今日はここに圭が来ており、店の厨房を使って何か料理を作っていた。

「ほら、出来た」

 出来上がった料理を見せて圭が声をあげた。皿には綺麗な黄色一色に染まったオムライスがのせられていた。

「相変わらずの手際の良さね。まさにプロ並みね」

 皿の上のオムライスを見て珍しく茉莉が圭をほめた。

「さて・・・仕上げはここからだ」

 圭は最後の仕上げに入るべく鍋の中に入っているデミグラスソースを上から掛けた。普通のオムライスであればケチャップを掛けるのが多いが、圭はあえてデミグラスソースを掛けた。その見た目は喫茶店が出すオムライスとしてはかなりレベルが高い物になっていた。茉莉は圭の作ったオムライスにスプーンを伸ばし一口含んだ。口に入れた茉莉は目が見開きスプーンを離した。

「想像以上よ。中のチキンライスもしっかりとした味が付いていて、卵もふわふわして包み込むよう柔らかさ・・・特にこのデミグラスソースが2つを丁度良い形に包んでくれてるわ」

「だろう?」

 圭はドヤという表情を浮かべて茉莉に答えた。

「ただ・・・マスターがどう判断するか分から無いわね」

「そうだな・・・」

 圭は茉莉が座っていたカウンターの席の隣に座った。

「俺も確かにそこは問題だよ。味を意識するあまり原価の事を全く考えずに作ってしまったからな」

 2人がそんな会話をしていると店のドアが静かに開いた。

「ただいま」

 ドアを開けて入って来たのは両手に紙袋を持った白髪に眼鏡姿の男性であった。

「マスターお帰りなさい」

 茉莉は入って来た男性に近づき手に持った紙袋を抱えに行った。

「ありがとう瀬川さん。おや、そう言えば今日だったね九十九君」

 マスターは圭を見つけると優しく声を掛けた。

「お邪魔してます。今日はこの間頼まれていた件で色々と試したい事があったので

厨房を使わせていただきました」

 圭は普段では見られない丁寧な言葉づかいでマスターに挨拶をした。頼まれていた件というのはこの『リーフ』の新メニューを作って欲しいという物であった。この店ではコーヒーなどのドリンクメニュー以外にも圭が認める程の美味しさを誇るホットケーキやマスター自家製のカレーに以前に圭がアドバイスを与えて作った卵サンドがある。この3品とも絶品ではあるが、流石にいつまでも3品だけというのではお客さんに飽きられてしまう。そこで再び圭の力を借りようという話になったのである。

「それで・・・・どうかな上手くいってるかな」

「味や見た目の方は問題無いですよ」

 茉莉は先程自分が食べていたオムライスをマスタの前に差し出した。マスタも茉莉と同じようにオムライスを一口食べた。

「流石だね。老舗の洋食屋さんにも負けないレベルの味だよ。相変わらず君の腕前には恐れ入るよ」

「ありがとうございます」

 圭は褒められた事に素直に喜んだ。

「ただ・・・やはり」

 その言葉と共にマスターはスプーンを置いて真剣な顔をして圭の方を向いた。

「味は確かに問題無いが、重要なのは値段だ」

 マスターは圭の作ったオムライスは美味しいという事は認めた。しかし、飲食店の場合は味と同じもしくはそれ以上に重要視する物がある。それは儲けである。自営業である為いくら美味しい物を作っても儲けが無ければいくら美味しい物を作っても無駄である。

「ちなみに中の食材はどのくらい掛かってるだ?」

「中の食材や卵、そしてデミグラスソースの食材も全てスーパで買った食材ですけど」

 圭は素直に食材の仕入れ先を正直に答えた。

「デミグラスソースも手作りなのかい?」

 マスターは圭がデミグラスソースの素材も自分で手作りで作ったという事を聞いて反応した。

「ええ・・・まあ、2時間足らずで作った代物ですけど、正直な話・・・1日じっくり煮込んだ物を作りたかったですけどね」

「うーん、そうかい」

 マスターは目を閉じて考え込み始めた。

「なかなか時間が掛かってるわね」

 あれから10分近く経っているがマスターは結論が出ていないようである。腕を組み目を閉じたまま動くこと無くそのままの姿勢を維持している。

「だな・・・・流石に俺が1日煮込むって言ったのがかなりネックになってるのかな?余計な事言っちゃたな」

 圭は自分が余計な事を言ったせいでマスターを悩ませてしまったと罪悪感を抱いていた。

「大丈夫よ。マスターも貴方の意図を理解してくれてるわ」

「にしても・・・かれこれ10分以上あのままだぜ。まさかと思うけど寝てるんじゃないか?」

 圭は10分以上経ってもマスターが微動だに動かない事に寝ているのではないかと思い始めていた。そんな事思い始めていた途端マスターが静かに声をあげた。

「瀬川さん。悪いけど水を1杯くれないかな?」

「はい」

 どうやらマスターの結論が出たようである。圭がマスター近くまで行くとマスターはすぐに彼に声をかけた。

「良いよ九十九君。そこに座りなさい」

 圭はマスターに促され彼の対面に座った。茉莉が水を用意したのを見てマスターは少し口に含んで結論を述べた。

「結論から言うと君の作ったオムライスは私達の店で採用する事にさせてもるよ」

「ありがとうございます」

 圭は頭を下げて感謝した。

「ただ、君が言うような一晩煮込むのは無理だ。カレーの方もある事だから2つも手間を掛けてたらどちらも中途半端になってしまう。カレーは我が店の名物だからそれをおろそかにする訳にはいかない。そこは分かってくれるね」

「はい、それは分かっています」

「けど、君がやったように2時間程度煮込みなら家でも出来るよ。まあ、赤ワインはそこまで高いのは使えないけどね」

「それは構いませんけど」

 圭はマスターの要望に関してすべて了承した。

「そうなると今度は我々が君から色々と教えてもらわないといけないね」

「それは良いですよ。マスターと茉莉なら教えたら出来るようになると思いますよ。まあ、和は無理ですけどね」

「ハハハ・・・・彼は少し不器用だからね。まかないで作るならまだしも人前に出すレベルには難しいからね」

 圭の言葉を聞いてマスターは大きな声で笑って答えた。

「それと今回の謝礼だが・・・・」

 マスターはそう言うと財布の中から2万円を差し出した。

「本当にこれだけで良いのかい。前もそうだけど殆ど君が考えたのにこれだけの謝礼で良いのかい?」

 マスターは謝礼が少なくて良いという圭に対してそれでは申し訳ないと思っているようだ。

「良いんですよ。僕は別に金儲けの為にやってる訳ではありませんから。これだけの謝礼を貰えるだけでも満足ですよ」

「そうかい・・・・いやはや、君には参ったよ」

 圭の言葉にマスターは感心していた。

「こんな事知ったら透は怒るんじゃないかしら?」

 茉莉が圭の側で耳打ちをした。

「別に関係ねえよ。アイツらは俺がボランティアでやってると思ってるんだから金なんて貰ってないと思ってるんだから。これは俺の小遣いになるって訳だ」

 圭はマスターに聞こえない声で茉莉に呟いた。

「マスターが聞いたら悲しむでしょうね。貴方って悪知恵だけは働くのね」

「だけは余計だ!!」

 その後、圭は2人に対してオムライスの作り方を伝授した。彼の作るオムライスは卵の包み方は特殊だがそれ以外は普通の物と変わりないので2人はすんなりと理解出来た。









「本当に圭ちゃんて料理が上手だよね。どうせなら、どこかでも店でも出したら良いんじゃないの?」

 夕食の時間、咲は圭の作った料理を食べながらそんな事を言った。

「そうね・・・九十九君にとって数少ない特技だものね。これを有効利用しないのは宝の持ち腐れなってしまうわ」

 悠も同じ意見だと言った。

「やだよ。そんなめんどくさい事が出来るかよ。趣味でやるからこういうのは楽しいんだよ」

「けれど、どこかでバイトくらいはして欲しいわね。いっそのこと調理師免許でも取ったら?」

 透が圭の特技をもう少し生かしてみないかとアドバイスをした。

「そんなこと言う暇があったらお前も少しばかり料理が上手くなったら。悪いけど、このままじゃあお嫁の貰い手はいないぜ」

「別にそんな物必要ないわ。私には・・・・貴方や・・・・仲間と過ごす時間方が・・・大事だも・・・の」

 透は最後の言葉は何故か恥ずかしそうにしてしゃべった。

「何だよ・・・よく聞こえねえぞ」

 圭の言葉に透は完全にキレた。

「チッ・・・うるさい。兎に角、私は今は結婚なんてする気はさらさら無いの分かる?だから、料理の腕なんて今は必要無いの!!」

 そう言い残して透は怒りながら皿を片付けて2階に上がって行った。

「透ちゃん完全に怒っちゃったね」

 咲は透の様子を眺めながら呟いた。

「何が必要無いだよ。隠れて練習してるってのによ」

「あら?九十九君知ってたの?」

 悠は圭が透が隠れて料理の練習しているの気付いていた事に驚いていた。

「当たり前だろ。食材が急に減っていたり、生ごみが多かったら流石の俺でも気付くよ」

「まあ、透ちゃんいっぱい失敗するからね」

「けど、アイツさっきは何で言葉を詰まらせていたんだろうな?」

 圭は透の言葉が上手く聞き取れていなかった事に悠と咲は驚いた。

「圭ちゃんて・・・・意外と鈍感なんだね?」

「どういう事だよ?」

 圭は咲の言っている意味が全く理解できていないようである。

「ほっときなさい。九十九君に説明して一生理解できないわよ」

「何だよそれ・・・」

 圭には聞こえなかった透が漏らした本音。その本音の言葉の意味を理解しるのはまだまだ時間が掛かるようだ。


九十九圭×料理 Fin

後、2話あるのでそちらもお楽しみに

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