過去と今
女の子なら誰でも憧れるお姫様。どのお伽噺のお姫様も王子様と結ばれるのを期待している。
そんな私は、王子様だった。運命の相手に出会ってはいなかったけれど結婚もして人並な幸せを掴んでいた。
その人の噂を聞いたのはそんな時。
各国の姫君を弄んでいる不埒もの。惹かれる姫君も馬鹿だなとバカにしていた。
けれど出逢えば当然。悲しそうに、儚げに笑うその姿を見て、『俺』が笑顔にしてあげたかった。
王子様は王子様に恋をした。
けれど妻子のいる、一国の王子が好き勝手出来るわけない。たとえ王位継承権のない4番目でも。
親しくなればなるほどに恋しくなっていった。恋とは穏やかなものだとばかり思っていたからこんなに激しい思いを抱くとは思ってなかった。
女ならばいいんだ。嫉妬しない。自分が女になれる訳でもない事は分かっていたから。
けれど、男と喋るのを見るのはとても辛かった。嫉妬に狂いそうな自分を、自分自身で傷付けることで抑えてた。
そんなとき、一人の魔女と出会った。
「あら、王子様がこんな所になんのようかしら。」
外ヅラだけはいい自分に妬むやつは山ほどいた。森に狩りに出れば吹き矢で足を刺された。
正直自分で自分に傷をつけるのには限界があった。だからこそ、他人に傷つけられてこれは使えるかと考えてたところだった。
「うわ、血だらけじゃない!ちょっと待ってて!」
待っててなんて言われても立てないんだから待ってるしかないけど。
薬草を持って走ってきた彼女は包帯を足にまいて、手をかざした。傷口が熱くなって治った様だった。
『治したのか。ありがとう』
きっと今の俺の顔はとても情けないのだろう。この時の顔は、俺が好きになった王子と同じ顔だったらしい。
「うっざい。そんな顔して笑うなよ。」
ビックリした。そんな事言われるとは思わなかった。
「王子様は幸せだろうね。なんの闇も知らずにすんで。」
嘲るように言った彼女はどんな気持ちだったのか分からない。けれど少なくとも俺が見てきたのは光だけじゃなかった。
『君が見てきた闇とは別の闇を見てきたよ。人間の汚い闇だ。』
きっとあの王子も、そして俺も闇をもってる。汚い人間の欲望を。
『でも、本当に綺麗なのはもしかしたら君たちなのかもしれないね_______。』
こんな感情間違ってる。そんなこと知ってるさ。けれどもう、恋と呼ぶには汚い、愛と呼ぶには程遠い醜い執着心を持て余すしかないんだ。
「………しんどくなったならここに来なよ。話ぐらいは聞いてあげる。」
そういった彼女はすくっと立って森の方へと走っていった。
しばらくして俺も立ち上がる。城に帰らなければ。
城に帰るといつもより騒がしい。何かあったのか。門番に聞くと遂にあの王子が恋に落ちたらしい。
『………そうか。』
実るはずもない恋に少し期待していたらしい。もう、いいと思えた。どうせ第四王子。なんの責任もない。
死のう、と。ストンと落ちてきたそれを抗うことなく受け入れた。
『久しいな、姫。』
妻に最後に会いに行った。もともと好かれてはなかったからかとてつもなく睨まれてる。
「はっ、いいご身分ですね。自分はほっつき歩いて。私にも休憩が欲しいですわ第四王子?」
辛辣な言葉にもう心を歪ませたりはしない。少し晴れ晴れしい思いになった。
『すまないね。姫が私を嫌いでも私は姫が嫌いじゃないから。それだけ覚えていて。』
そう言って子供の部屋に向かった。
「おとーさま!!」
「ととさま!」
『おー、よしよし。元気だな、私の子は。』
「あたりまえです!だってとおさまの娘だもの!」
「ととさまの絵を書いたんです!見てください!」
元気に育った彼等はもう立派だった。
かわいい俺の子供たち。
『お前達は私の………俺の誇りだよ。』
「ホコリ?ゴミなの?僕ら」
「バカ!違うわよ!もっとすごい意味なの!」
あぁ、お前達を置いて行く事を許してくれ。
『愛しい愛しい俺の家族。もし俺が死んだら俺のことを憎んでほしいんだ。憎めばきっと俺を忘れないだろう?誰の目にも映らない第四王子の俺をお前達だけが覚えていて。』
独白にも似た独り言を呟いた。子供たちは何かわかってないけど俺の様子がいつもと違うのがわかったようで俺の服をギュッと握っていた。
『ラッセル。お前はお姉ちゃんだ。だがお姉ちゃんばかりしていたらダメだぞ?お姉ちゃん以前にお前は女の子だ。本当はお嫁になんて行かせたくないんだけどな。』
『ソウナル。お前はお姉ちゃんに甘えすぎだ。男は女を守るもの。俺がいなくなればお母様やラッセルを守れるのはおまえだけなんだ。だがな、泣いてもいいんだ。つかれたら。』
そういって頭をなでて。
パチッと目が覚めた。
『夢か。』
今までのは夢。いや、実際にあった事なんだけど。あれは前世の頃の話。
『さて、行くか。』
高2の今日、引っ越してきた。ほんとは高校なんて行かなくてもいいんだけど。そこの理事長がどうしてもって言うから。
『…………いってきます。』
返ってくる言葉はなく、バタンとドアは閉まった。
無心で歩くにはデンジャラスな道だった。例えばバナナの皮が綺麗に30個ほど並んでいて避けて通るのか分からなかった。もちろん踏んでいったが。
他には信じられないほどのカラスが私を襲ってきたり。たまたまビー玉を持ってたからそれを遠くに投げればそれに集まって言ったけど。
あとはおばあちゃんが荷物を持ってほしそうにしてたから無視したり。話しかけられたら持ってってあげるけど自分からは動きたくないもの。
「ほぉ?そのデンジャラスな道を通ってたから転校初日から昼過ぎ登校なのか?」
『yes』
「アホか!もっとましな嘘つけ!とりあえず帰りのホームルームで紹介しようか。」
『えぇー。自己紹介は苦手なんだけど』
「文句言うな」
この人は私のクラスの担任の鳴海センセー。鋭いツッコミは右に出る者はいないらしい。
「それにしても女子には見えねーな。どっちかっていうと王子様みてーだな。」
私の容姿は何故か前世と全く一緒だった。あ、仄かに一緒………とかじゃなくて。全く一緒。
でも私の両親は純日本人だから母親の浮気が疑われて。でもDNA鑑定の結果100%両親の子供だったらしいし。
外国人の様な金髪の髪に碧い瞳。170cmと女にしてはデカすぎる身長のせいで髪の毛を伸ばしても男にしか見えなかった苦い思い出。
今は諦めて短い髪にしてる。そっちの方が似合うしね。
【キミノスベテハワタシノモノ】
呪詛のごとく頭に聞こえるそれは現世にも前世にも記憶のないもの。
得体の知れない恐怖に身を焦がしながら生活していくだけ。