女王と冬の密室
肌寒い。
風は木々の梢を揺らし、海の頬を撫でる。
かじかんだ手に、震える体。
積もりそうもない雪が、パラパラと降っている。
吐いた息は白かった。
紛れもない、冬だ。
今年も冬が「やってきた」。
季節がちゃんと巡ったのだ。
王は満足気に目をほそめると、その豊かな顎髯をなでた。
そう昔のことではない。
この国が「季節」を取り戻したのは、つい最近のことなのだ。
その労苦を思えば、自然と温かいものが胸にこみ上げてくる。
高くから見下ろす王に、地上で作業をしている国民が時々笑顔で応える。
なんとも平和だった。
「おじいちゃん!!」
足音がした。
振り返ると、長い回廊を、ぱたぱたとポローナが駆けてくる。
今年10になろうかという、王の孫である。
王は目尻を下げると、この小さな孫の体を抱きかかえた。
「おじいちゃん!!」
「おお!!ポローナ、来ていたのか!!」
王が住むこの古城は、息子夫婦の城からは大分離れている。
築数世紀にも及ぼうかというこの居城は、空を裂くように屋根が屹立した堂々たるものだが、少々手狭なのが欠点だった。
地方の治世を任している関係もあり、育ち盛りの孫達とは、離れて暮らしている。
一人で住むと、重厚な鉄門も、左右対称にどっしりと構えた両翼も、冷え冷えとして、感じられたものだ。
孫の顔を見る機会がそう多くない彼にとって、ポローナが自分から来てくれるのは、望外の喜びだった。
「うん!!お父さんが、一年の終わりだから、挨拶していこうって」
「そうかそうか」
全身で感情を表す孫に、王の顔もほころぶ。
「わあ、すごく白い!!」
ポローナが人差し指を窓の外に向けた。
相変わらず緩慢な速度で降るしきる雪。
綺麗な顔立ちをしたポローナには、この白い雪が良く映える。
孫の金髪を優しくなでながら、王は尋ねた。
「雪が珍しいのかい?」
「うん。」
キラキラした目で、「わあっ!!」やら「ほおっ!!」やら、はしゃぎ回るポローナ。
そんな孫を見て、王はふと思う。
この子は、はたして自分が務めた役割を、覚えているのだろうか?
閉じこもっていた冬の女王を連れ出し、見事、春を連れてきた自分のことを?
まだポローナが、五歳の時だった。
「おじいちゃん。行こう!!」
孫に手を引かれながら、王の思考は過去へと向かっていった。
*・*・*
「ふう……」
お触れを出し終わった王は、深いため息をついた。
執務室でのこと。
肌寒さに耐えかねて、いつもより余計に着込んだ彼は、いっそう太って見えた。
渋面をつくった大臣の一人、アルバートが口を開く。
「これで、どうにかなればよいのですが……」
王は首を振り振り
「分からんよ。国の中枢が集まって、何の解決も思いつかなかったのでは……」
自らが出した指示にもかかわらず、王の胸中には、既に絶望が去来していた。
王国には、「季節」がなかった。
勿論、最初からなかったわけではない。
王国の行政を担う王は、国の管理においても最適化を進め、天気を司るのは、「女王達」に任せていた。
春・夏・秋・冬。
それぞれの季節を司る彼女達は、人間ではない。
妖精。
この科学の時代に、不合理の塊である彼女達の存在は、しかし、季節の管理には不可欠だった。
王国の中心にそびえる、一つの高い塔。
女王達は、それぞれ順番に、その塔にこもる。
彼女達の妖精としての力と、塔そのもの力が合わさって、相応しい天候が生み出されるのだった。
今まで相当な対価を払い、上手くやってきたつもりだったのだが……
「妖精というのは、どうにも扱いにくい。」
王が腹立たしげに、拳で机を叩く。
「人間ではない。しかし、魔法で自在に何でも出来るわけではない。年頃の娘らしく、相応な悩みを抱いたりもする。問題は、それを季節の担当中にやられては、困るということだ。」
嘆くように、首を左右に振る。
アルバートはすかさずそれに答えた。
「して、冬の女王の悩みというのは……」
「知らん。儂に分かるものか!!」
季節は、冬
もう一年余り、王国はずっと冬だった。
冬の女王が塔にこもったまま、出てこないのだ。
他の季節の女王がかけあおうにも、そもそも塔の扉を開こうとしない。
まるで思春期の娘みたいに、頑なに出てこない。
理由も言わず、ただ引きこもって、ずるずると冬を続けている。
今はまだ良いが、食料の備蓄もそろそろ尽きようとしている。
これがあと何か月も続きでもしたら……
王は寒さからくるのではない震えを感じた。
アルバートが相変わらずの渋面のまま話す。
「女王と言えども、特殊な体質を兼ね備えただけの若い女です。ここはやはり、彼女達と同世代の国民が動いてくれるのを期待しましょう」
「……うむ。」
いかにも気のない返事。
アルバートは肩をすくめると、王の肩ごしに、降り積もる雪を眺めた。
一面銀色の世界。
日の光を受けて輝くそれは、まるで巨大な鏡のよう。
軟らかな雪が、王国の領土全体を覆っているのだ。
これでは作物が育ちようがない。
家臣としても、どうにも絶望的な気分だった。
年寄り二人がそうやって憂鬱に浸っていたところ。
「王様!!大変です!!」
扉を開けて飛び込んできたのは、まだ年若いキャンピョンだった。
いつもはきちんとした身なりをした青年だが、今はすっかり取り乱し、髪もぼさぼさになっている。
「なんだ、キャンピョン。そんなに慌てて」
二人の老人に対して、言葉にならない釈明を繰り返す青年。
「まあまあ、落ち着け。」
王が慈悲深い眼差しをよこしたところで、キャンピョンは落ち着きを取り戻した。
「はあはあ……す、すみません。」
髪をかきあげ、息を整える。
老人達は黙って彼を見つめていた。
キャンピョンは居住まいを正す。
王は笑って先を促した。
青年は口を開いた。
「お、お孫さんが……」
今度は、王が目を見開く番だった。
*・*・*
ポローナは、散歩に出かけていた。
といってもまだ五歳の子どものこと。
付き添いに、「春の女王」が、一諸について回っていた。
ポローナは彼女に手をひかれながら、国土をのしのしと見て回る。
時々「きゃあ!!」だとか「わあ!!」だとか声をあげるポローナの姿は、「春の女王」の目から見ても実に愛らしかった。
こんもり積もった雪上を歩くたび、足跡が出来ていく。
自分のそれを追いかけるようにしながら、ポローナは進んでいった。
「楽しい??」
「うん。楽しい!!ありがとう、お姉ちゃん!!」
「お姉ちゃん」という言葉に、照れとももに一抹の笑いがこみ上げてくる。
「春の女王」という仰々しい名で呼ばれる彼女も、子どもの純粋な目から見れば、一人の「お姉ちゃん」なのである。
実際、彼女は塔に籠って力を発輝する時以外には、他の人間と変わるところのない存在だった。
正確に調べたわけではないから、色々と異なる点もあるのかもしれないが、少なくとも、自分の中ではそんな自覚はない。
普通の女の子なのだ。
「冬」のあの子が出てこないのは、そんな「普通」の彼女に、やたら仰々しい肩書がつけられたストレスからではないだろうか。
そんなことを考えながら、道行く人々とすれ違う。
ほら、また。
なにしろ「女王」と「王の孫」の組み合わせである。
素朴な国民達でさえ、腰を低くして彼女達が過ぎるのを大人しく眺めている。
そのむずかゆさに何とも言い難い感情を抱いたところで、ポローナが「わあっ!!」という喚声をあげた。
「?どうしたの?」
ほほえましい気持ちで、ポローナの方を向くと、その小さな体を精一杯伸ばしながら、前方を指差している。
「春の女王」はそちらに目をやった。
途端、悪寒が走る。
一面の銀世界。
その中でも、ひときわ寒さが立ち込める場所。
季節を司る、例の塔だ。
今は、「冬」のあの子が引きこもっている。
どうやら無意識のうちに、こちらに歩いてきてしまっていたらしい。
「春の女王」は慌てた。
「こ、ここは危ないから、別の方向に行こう?」
ぐいっと思わず強く手を引くが、それに反発する力が逆に働いた。
「!?」
「すごい大きな塔!!」
子どもらしい無警戒さで、塔にぺたぺたと近づいていく。
「ダメッ!!」と声をあげようとしたところで、さらなる異変に見舞われた。
ゴオォォォッ。
地鳴りのような轟音。
耳元を寒風が吹きすさび、視界を銀色の幕が覆う。
目前。
突如、地面から雪が舞い上がり、そのまま渦となって、辺りを支配した。
「!?……あっ!!」
凄まじい風力に負けて、掴んでいた手を放してしまう。
「わあっ!!」
愛らしい喚声とともに、ポローナの姿が視界から消えてしまった。
「坊や!!」
必死で呼びかけるも、ものすごい吹雪で、自分の居場所さえ定かではない。
「坊や!!」
女王の叫びは、「ゴオォォッ」という轟音に呑まれて、そのまま消えていった。
*・*・*
ポローナは、5歳にしては、剛胆な性格だった。
いや、むしろその年齢だからこそ、これだけ無頓着でいられたのかもしれない。
突如巻き起こった吹雪に、彼は特に焦ることもなく、「春の女王」の手をふりほどいて、そのまま前進した。
そしていつの間にか、塔の中に入り込んでいたのである。
何の装飾もない、ただらせん状に、階段が続いているだけの建物だった。
それでも持前の好奇心を発輝して、きょろきょろと物珍しげに見回すポローナ。
この塔とそこに引きこもっているはずの冬の女王が、王国全体の悩みの種であることなど知る由もない。
ただ自分の関心を惹く物事に、「わあっ!!」と喚声をあげるのみである。
ポローナがその小さな体を駆使して、高さのわりにきつい階段を昇ろうとしたところだった。
「何者!!」
声がした。
びくっとして左右を見回すが、塔は窓もない、のっぺりとした壁に覆われているだけだ。
「春のお姉ちゃん」かと思ったものの、それにしては口調が違いすぎる。
「何者だ!!答えよ!!」
微かに含まれる冷気。
本来ならそこで気がついてしかるべきだが、残念ながら、この時のポローナにそこまでの頭はなかった。
「ポローナだよ!!」
無警戒に自身の名を口にし、そのままよちよちと階段を昇る。
「ポローナ……?王の孫の?」
初めて、声にかすかな戸惑いが混ざりこんだ。
「そうだよ!!」
相変わらず、場違いな明るさ。
軽快な足音を響かせながら、らせん状の空間を昇る。
「!?っま、まて、来るな!!」
どうやら、声は上方から聞こえてくるようだ。
そう遠いところにいるわけではない。
それだけ分かると、後は子どもらしく、ひたすら猪突猛進するだけである。
ダダダダッと駆け抜けるポローナの靴音と、冷徹な、それでいて焦りを含んだ声が重なる。
「ま、待てと言っているだろう!!そもそも、どうやって入ってきた。戸はかたく閉ざされていたはず……」
「なんかね、自然に開いたんだよ!!」
まるでそれが通常の会話であるかのように、違和感を持たず返答を重ねる。
姿の見えない相手に対して、恐怖というものがまるでないようだった。
「お姉ちゃん、だあれ!?」
「!?わ、我は、冬の女王」
虚をつかれ、正直に答えた女王に、ポローナが「ふーん」と応える。
「知ってる!!引きこもりのお姉ちゃんだ」
一方、「冬の女王」の方は、声にますます混乱が混じる。
「な、誰が好きこのんで……」
「ねーねー、お姉ちゃん、どこにいるの」
「く、くるな!!と、扉をどうやって」
「だから、自然に……」
「そ、そんな馬鹿な!!あたしは確かに……」
「なんか吹雪が吹いてね、それでビューって」
「な、な、……」
「いつの間にか扉が開いてたから、それでね、入ってみたんだ~~」
「う、あ、あたしが上手くコントロール出来ていなかったせいか。むう、そ、それというのも……」
何やらぶつぶつ唱えだした「冬の女王」をよそに、益々元気よく駆け上がるポローナ。
冷気が強まり、「女王」の声が心なしか近くなる。
「お姉ちゃん、どこにいるの!?」
「そのお姉ちゃんというのも止めろ!!」
姿の見えない女王は、かなり取り乱しているようだった。
にんまりと笑みを浮かべ、ポローナは近づいていく。
やがて。
わめきたてる女王の声と、ガサゴソという音。
階段を昇り終えたポローナの前には、一つの巨大な扉があった。
「お姉ちゃん、ここ?」
トントンと、扉を叩く。
「ま、まて、少年!!まだあけては……」
「こんにちは~~」
ガラっと扉を開けた。
一瞬視界が塞がれる。
「!?……」
再び開かれた視界。
「お姉ちゃん……?」
塔の装飾とは異なった空間。
異様な広さが四方に続く。
ポローナは、目を精一杯にこらした。
「冬の女王」の姿はなかった。
*・*・*
「それで、そのお孫さんの話が、この国が『季節』を取り戻したのと、どう関係しているのです?」
来賓の隣国の王子は、不審げに眉をひそめた。
王はにこにことほほ笑む。
一年の終わりにやってくるのは、憩いを楽しむ家族だけではない。
隣国とのつながりをはじめ、外交上の交流も欠かせないのだ。
贅を尽くした来賓室に、諸大臣と、隣国の大使達が居並ぶ。
王は、ポローナが来たことで思い出したエピソードを、丁度披露しているところだった。
外では雪が大きなものに変わり、やや白い絨毯が敷き詰められつつある。
ソファに深々と背中をもたせかけ、銀のカーテンを窓越しに眺めるのは、中々心地よい体験だった。
王子はひそめた眉を戻そうとしない。
王は笑った。
「まあまあ、もう少し、辛抱してください。……それはそうと、実に不可解だと思いませんか、王子」
王子は首を傾げた。
「何がです?」
まるでこんな話を聞かされること自体が不可解だと言わんばかりの口調である。
王はその巨躯をガハハと揺らした。
「いやね、儂は最初に部下から話を聞いた時、実に驚いたんですよ。孫が――ポローナが塔に入りこんだのは、まあ、考えられないことでもない。そういうトラブルもあるでしょう。しかしですよ」
ここで王は体を乗り出して
「ポローナが、塔の最上階、女王の居室に足を踏み入れた時、彼女は『そこにいなかった』のです。塔に引きこもり、直前まで、ポローナと声を交わしていた、「冬の女王」が、ですよ。一瞬の吹雪の後、すぐに踏み込んだというのに」
「……消えてしまったと?」
「その通りです」
王は頷いた。
「孫は、不思議な飾りつけの空間を見回しただけでした。どこにも、女王の影も形もない。消えてしまったのですよ!!窓もない、塔の中で。消失事件です!!」
王が笑う度に揺れる顎鬚を、王子はまるで汚いものでも見るような視線を寄越す。
苦々しげに吐き出した。
「しかし……女王は天候を司る妖精でしょう?姿を消すくらい、そんなのいくらでも」
「いやいやいや」
王子の態度にもかかわらず、王はどこか楽しげだった。
人指し指を「チッチッチ」と揺らす。
「『季節』を司ると言えども、彼女達は何も特別なところのない、ただの女性です。塔に篭って、はじめて、その力を発輝する。むしろ不思議な力を秘めているのは、彼女達の方ではない……塔の方なのですよ。」
「じゃあ、塔に何か仕掛けがあったのでしょう」
煩わしそうに答える王子。
王は左右に首を振る。
「いやいやいや。塔に『力』があるといっても、それはあくまで天候に関するものだけで……」
「じゃあ、何だと言うんです?」
いらただしげな視線を、王は毅然と受け止める。
「実に不思議じゃないですか!!どこにも逃げられたはずがない。塔には窓はない。入口はポローナ自身が塞いでいた。しかし、孫は誰も見ていないのです。……では、「冬の女王」は、どこに消えたのか?」
王子は肩をすくめた。
王子はにやりと口角を吊り上げると、諸大臣を見回す。
当時を知るアルバートは、つられてにやりとした。
隣国側は益々困惑したようだった。
おずおずと、王子の傍に仕えている眼鏡の青年が言う。
「あの……それが『季節』のお話とどう関係するのか、そろそろお教えいただければ」
「関係大ありなんですよ。」
王はにこやかな笑みを浮かべた。
二国の間で、沈黙がわだかまる。
表情は穏やかなものの、王とアルバートを除いて、どちらの陣営にも、一抹の不安がよぎっていた。
「そろそろネタ晴らしといきましょうか?」
王はそんな彼等には頓着せず、自分のペースを守って続ける。
「……ほう」
それでも興味ありげに、王子はごくりと唾を呑み込んだ。
一瞬の「ため」の後、王はその言葉を、まるで極上の秘密であるかのように、ゆっくりと口にした。
「……飲み込んだのですよ。」
「飲み込んだ?何をです?」
「つまり」王は破顔する。「孫を。冬の女王が」
「…………は!?」
驚愕の視線が、王に集中した。
あんぐりと口を開けたもの。
信じられるものを見たように、目をこらすもの。
聞き違えたのかと、自分の耳を
王は実に愉快そうに体を揺らす。
そんな事件が笑い事になったことそのものが、彼にとっては平和の証だった。
「冬の女王は、自分が太っていることに、とても悩んでいたのですよ」
*・*・*
「冬の女王」と言えども、ちょっと不思議な体質を持った、普通の「女の子」である。
しかし、事情を良く知らない人々が、「女王」と呼んで自分をもてはやし、重圧をかけた。
自分の番が来て、塔に入り、「冬」の営業を始めた彼女は、そんな重圧に、ますます悩むこととなる。
で、食べた。
食べるに食べた。
通常の女性が許される範囲を超えて食べた。
そして、「普通の女の子」と言えども、やはりそこは「妖精」、ある程度の体質の違いはあったのだろう。
信じられない速度で、激太りしてしまったというわけである。
典型的なストレス太り。
自分の見た目を気にした女王は、結果、一年間引き籠ることになった。
「そういうわけで、彼女は塔を出ようとしなかった。王国に「季節」はなくなり、「冬」が支配することになったのです。」
「……そ、そんな理由で」
「馬鹿げた話でしょう?儂も当初はそう思っとりました。しかし、今では笑い話です。」
「僕にとっては、そうは思えない。」
イライラした口調の王子。
隣国の大使が先を促した。
「それで、その、飲み込んだというのは」
「ああ、それですな」
王は「ククっ」と笑うと、にやにやと笑みを浮かべた。
「ずかずかと入り込んできたポローナに、女王が、非常に焦ったんですな。何しろ自分の体型を恥じているから、子どもといえど、いや、むしろ子どもだからこそ姿を見せることは出来ない。といって、もうあと一秒後には、部屋に入られてしまう。」
まるで当時の女王の気持ちを慮るように、重々しい口調の王。
しかしどこかに滑稽味は漂っている。
アルバートはくすくすと体を揺らしていた。
王子は「?」と不可解な表情を浮かべていた。
「で、女王は止むを得ず、一瞬吹雪で視界を塞いだのちに……」
王は満面の笑みを、居並ぶ全員に向けてから、言った。
「思わず、パクっと飲み込んだんですよ。」
「…………はぁ」
もう間もなく入り込んでくるポローナ。
女王は焦りの余り、まったく常識外れの行動をしてしまった。
「自分の姿を見られない為」に、「自分の体内に取り込んだ」のだ。
内からは、外を見ることはできない。
「まあ、体内でポローナに暴れられて、結局吐き出さざるを得なかったようですが……おかげてスリムになったらしい」
立ち上がり、窓から外を眺めながら、「ククっ」と笑いを漏らす王。
屋外では、降り積もる雪の中、元気なポローナが走り回っている。
傍には「青髪」の女性が、神妙な面持ちで見守っている。
塔から「女王」が出たのだから、また再び、「春」がやってくるのだろう
王の胸中にも、「冬」が溶け、穏やかな春がやってきていた。
*・*・*