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第1章 優しい人(3)

 1日の授業が終わると、教室は部活やバイトに追われて飛び出していく者と特に何もなく自分のペースで帰宅準備をする者に分かれる。俺は後者で、桐斗と一緒に帰るのが日課だった。体育の授業もあるのにそれでも体を動かすクラスメイトのやる気には正直ついていけないものがある。俺はのんびりした時間を過ごせればそれで十分だ。


「あの、こんにちは」


天使の様な声が聞こえた瞬間心臓が止まりかけた。勢いよく顔を上げると、そこには岸さんが立っていた。あまりにも突然の事過ぎて声が喉で支えて出てこない。飛びぬけてかっこいいわけでもないのに、岸さんが今俺に話しかけているだと!


「あの、藤沢君、だよね?」


恐る恐る尋ねてくる岸さんに、声が出ない代わりに首が千切れそうなくらい頷いた。岸さんが、俺の名前を呼んでる! できれば下の名前も! いや、今下の名前呼ばれたら絶対失神するからやっぱり名字で! 名字をもう1度!


 岸さんの目をずっと見ている事ができずに目が合っては下を向き、下を向いてはまた目を合わせた。ダメだ! 直視できない!


「ど、どどどうしたの?」


待て。落ちつくんだ。さすがに噛み過ぎだ。挙動不審すぎる。あくまでも俺はクールな男を演じるんだ。そうだ。できるぞ。


「俺、帰るとこだじょ?」


ここで噛むかぁぁぁ! こんなところで盛大に噛むか? じょって何? そこは変えるところだぜって決めろよ俺! 逃げ出したい! 今すぐここから逃げ出したい!


 心の中で叫んでいた俺に岸さんが問う。


「藤沢君、私に話があるんじゃないの?」


話? それは一体何の話だ?


 困ったような顔で俺を見る岸さんの後ろで何か見慣れたものが動いた気がして、視線をそっとそちらに移してみる。そこには、桐斗が輝くような笑顔で親指を立てていた。声こそ発さなかったが長年共にいた幼馴染だからこそ口の動きで分かる。


「告白してから始まる恋もあるんだぜ」


ウインクしてくる桐斗に、もう少しで中指を立てるところだった。


 初対面で告白して上手くいくはずねぇだろーが! 心の中で叫んだ。ダメだ。あいつは次から次へ話をややこしくしてくる。これ以上は危険だ。俺は岸さんに少し待つように言ってから桐斗の元へ歩いていくと、桐斗に鬼の様な形相で詰め寄った。岸さんに聞こえないように自然と小声になる。


「何勝手なことばっかりしてんだよお前は!」


桐斗の顔は真剣そのものだ。


「恋なんてな、当たって砕けろなんだよ。お前は慎重すぎるんだ」


それに対し、できる限り小声で桐斗に言う。


「俺は砕けたくないから慎重になってんだよ」


「俺は初対面で告って成功したぞ」


「それは2次元だからだろーが!」


「あの……」


桐斗の肩を掴んで激しく前後に揺さぶっている俺に、岸さんが不安そうに声をかけてくる。咄嗟に手を止めると、桐斗は笑顔で岸さんに言った。


「ごめんね姫香ちゃん。直人チキンだから」


「鶏肉?」


急に3人同時に黙った。岸さん、合ってるけど全然違うよ。


「じゃあさ、3人で一緒に帰ろ」


一度俺を見てから、桐斗は優しく岸さんに提案した。


「いいの?」


と、顔色を窺う岸さんに、激しく頷いた。


「ありがとう」


天使の笑顔に、桐斗を掴んでいた手を離す。結果オーライである。


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