第4話 「灰色の空の下で」
だが結局、俺は一睡もできなかった。約三秒後に、予期しない来客があったからだ。
「坂原く―ん、大丈夫ぅ?」
永塚先生だ。カーテンを開けて、中に入ってきた。
「もう一回、熱、測ってみる?」
「あ、はい」
体温計を受け取り、脇にはさむ。
「どうしたのぉ? なんか酷い顔してる」
「そう……かもしれませんね」
「あら、何かあったのねぇ? あ、もしかして彼女と喧嘩とか? 私で良ければ、相談に乗ってあげてもいいのよぉ?」
「いや……、大丈夫です。相談するほどのことでもないですから」
「そう……、ならいいけど……。でもほら、誰かに話すと意外とすっきりするってこともあるからねぇ? 私はいつでも聞いてあげるから」
「はい、ありがとうございます……っと」
体温計がピピッと鳴った。三十六度四分、平熱だ。
「熱、下がったみたいです」
「そう、それは良かったわぁ。じゃあ、午後の授業はどうするのぉ? 帰る?」
「ちょっと今日は……、帰ります。……あれ、まだ俺学校来たことになってないですよね?」
「うん」
「じゃあ今日は欠席ってことにしといてくれませんか」
「えぇー、いまさらぁ? 面倒くさいなぁ……。まあでも、坂原君の頼みなら頑張るわぁ。任せといて」
「……どうもです」
大きく伸びをして、起き上がる。荷物をまとめようとかばんを探したが、すぐにまとめるものなどないことに気づいた。
「ふぅ……、あ、今何時だろう」
「もうすぐ十二時半だから、まだ授業中ねぇ」
「あ、そうですか」
なら誰かに見つかる心配はないだろう。かばんを持って立ち上がり、ドアまで歩いた。
「じゃあ先生、今日はお世話になりました」
「ふふっ、いいわよぉ。私も久しぶりに坂原君に会えたしぃ」
幸せそうな笑顔の先生に俺は苦笑いを返し、ドアに手を掛けた。
……そうだ、永塚先生に聞いてみようか。
「先生は、幽霊って……いると思いますか?」
……と。
「幽霊? んん……幽霊ねぇ……、会ったことはないけど、でもどこかにはいるかも、とは思うよぉ。でも……どうして?」
「いえ……、会ってみたいですか?」
「うん、会ってみたいかもなぁ……。でも幽霊って、霊感とかが強くないと見えないんじゃないのかなぁ?」
「ああ……、そうかもしれませんね……」
「あ、分かったわぁ。もしかして坂原君、幽霊を見たのぉ?」
「いえ……、まさか。じゃあ先生、また来ますね」
「あ、うん……。気を付けてねぇ」
先生に微笑みを返して、ドアを閉めた。少し頭痛がするが、きっと寝すぎたせいだろう。靴をはき替えて、駐輪場へ向かった。
ふと空を見上げると、どんよりとした灰色の曇り空が広がっている。
――それはまさに、今の自分の気持ちだった。