プロローグ
リィー....リィー.....リィー.....
虫の鳴く声が遠くで聞こえる。
ふ、と目を開けると森の中にいた。
またこの夢か。
はぁ、と小さくため息を零し、森の中を歩き始める。
物心ついた時にはこの夢を見ていた気がする。
毎日ではなく、また、定期的に、というわけでもなく、本当に時々、と言う感じで。
自分以外に目に見える生き物は居らず、虫の鳴く声は聞こえるが、どこで鳴いているのかはわからない。
本当にただ一人の空間なのだ。
夢、というには少々リアル過ぎるここにももうなれた。
.....まぁ、慣れざるを得ない、と言った方が正確か。
もうずっと何年もこの"世界"には来ている。
前に記したように、物心ついた時には、だ。
そんな時から来ているので、気味悪いと思ったりした事はない。
ただ、不思議な夢だ。それで終わる。
適当に時を過ごせば気がついたら何時もの自室に戻っていることだろう。
今までのように。
サァ、と暖かくもなく、冷たくもない風が頬を撫でる。
木々の葉が舞い、空へと登る。
それを追って視線を上げれば、またいつも通りの空が広がって_______.......おや?
いつもと違うそれを見て目を細める。
いつもなら、宝石箱をひっくり返したように綺麗な星星が散らばっており、ポッカリと5つほど月が浮かんでいたのだが....
青空が眩しい。
ここにも昼があるのか。否、朝かもしれないが。
どちらにせよ、夜以外、というのは初めてだ。
いつもより少し晴れやかな気分で歩を進める。
しばらく歩くと泉がある。
澄んだ水に足を浸し、ぼーっとする。
どうして夜ではないのだろうか。
青い空を眺めながら考える。
すると、どこからか笛の音が聞こえた。
虫の声以外で初めての音。
高い澄んだ音だ。
フルート.....ではないようだ。
なにかもっと別の.....いい例えが思い浮かばない。
それなのに何故か懐かしくも感じる。
泉から足をあげ、その音のする方へと進む。
歩くに連れて不思議な笛の音は大きくなる。近付いている証拠だ。
とても高い音なのに、耳障りではなく、心地の良い音。
大分進むと急に木々が開けた。
広間のようなそこの中央に、白銀に光る笛が浮いていた。
誰が吹いているわけでもなく、一人でに音が鳴っている。
近付いて見てみると、細かい装飾が彫られている。
素材は銀かプラチナか、それとも全く別種のものか。金属のような物であるのは確かだ。
触れようか、止めておこうか、自分の中の欲と理性が天秤に掛かる。
.......少し、ほんの少しくらいなら、さわってもいい.....よね?
誰も居ないことなどわかっているのに、キョロリと周りを見渡し、息を吸い込む。
手を笛へと伸ばす。
『_____後悔しない?』
リン、と何処からか声がした。
「え?」
伸ばしていた手を引っ込め辺りを見渡す。
『本当に、後悔しない?』
再び声がする。
「だれ....ですか?どこに居るんですか?」
そんな自分の質問に答えず、また声がした。
『それを手にした瞬間、貴女は自由になれる.....けれど、それと同等.....いえ、それ以上の覚悟が必要です。
___それでも貴女はそれを手にしますか?』
訳のわからないことを言い出した声に少し眉間に皺を寄せる。
自由?覚悟?何を言っている?
頭の中がクエスチョンマークで一杯になる。
けれど、自分の本能が少しだけ、告げてきた。
______どのみち、元の生活には戻れそうにないぞ。
と。