心
「よし!」
僕は意を決して、高橋に話しかける。
「なぁ、高橋・・・・・ちょっと話があるんだが・・・・・」
「えっ?」
一瞬驚いた表情をした高橋だが、すぐに笑顔を作った。
相変わらずうまい作った表情だ。
だが、今の僕には嘘だってことが分かる。
「高橋、昨日は悪かったな・・・・・その、僕の妹が迷惑をかけて・・・・・」
エルは別に妹じゃないけど、エル自身も僕のことを「お兄ちゃん」って呼んでいるし、妹という決定にしておこう。
「ううん、全然平気だよ!全く気にしてないし。話ってそれだけ?」
「いいや、まだだ。昨日は妹が迷惑をかけたが、僕の妹が言っていることは本当なんだろ?」
「えっ?」
僕がそう言った瞬間、高橋の表情が変化した。
だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を戻す。
「な、何言ってるの?あんなの嘘に決まってるじゃない」
「うん、そう言うと思ったよ。でも、僕は本当のことだと思ってる」
「藤崎君まで私を悪者扱い?みんなみたいに私を突き離すの?だから私は・・・・・」
「それは違う」
そう、僕が本当のことだと思っているのはそこではない。
確かに、高橋はみんなを侮辱するような言葉を発した。それは塗り替えようのない事実だ。
だが、僕が本当のことだと思っているのは・・・・・。
「高橋は今までに、人の何倍も努力して、かわいくなったんだろ?」
「そ、そんなの・・・・・知っているように言わないで!」
「知ってるよ」
「えっ・・・・・?」
「知ってるよ。高橋の中学の時の写真を見たよ。中学の時よりもすっげーかわいくなったと思う。だから、知ってるんだ」
そう、僕は事前に、高橋の中学からの友達に写真を見せてもらった。
どう見ても普通の中学生。高橋には悪いが、今とは全然違い、最初は全く高橋とは分からなかったくらいだ。
「・・・・・たのよ」
「えっ?」
「見返したかったのよ!!」
そう言った高橋の目は、怒りと悲しみに満ちあふれていた。
「見返したい?」
「そうよっ!中学の時、私は初恋相手に思い切って告白したのよ!でも・・・・・『地味だから』って言われて、ふられて・・・・・。それで思いついたの、かわいくなって見返してやるって。それでいろんなファッション雑誌とか買って、努力して・・・・・。今の私になったの。そしたら、私の告白した相手が、今度は向こうから告白してきて。その時思ったの、だれも私の外見しか見てないって。私の内側を見てくれないって・・・・・!そしたら、今の友達も、本当は私のことどうでもいいって思っているんじゃないかって・・・・・不安になって・・・・・」
そう言った、高橋は泣きだした。
自分が今まで抱えてきた悩みを打ち明けたからだと思う。
僕にでも分かる。この涙は本当の涙だと・・・・・!
だから、僕が高橋の支えになる。
「大丈夫だよ。僕がずっと見てるから・・・・・。高橋の心を」
「嘘っ!どうしてそんなことが言えるのよっ!」
「これを見て」
そうう言って、僕は自分のケータイの連絡先を見せた。
「何よこれ・・・・・誰のアドレスもないじゃない?」
そう、僕のケータイには誰のアドレスもない。
「そうだよ、僕は今まで友達を作ったことがない。前までは、僕は居ないのと同じだった。今ではそんな生活に慣れていた自分が怖いくらいだよ」
「・・・・・嘘よっ」
「・・・・・・・・」
「嘘じゃないなら、私を助けれるのっ?」
「ああ、もちろん」
「なんでも!?」
「ああ」
「・・・・・嘘っ!」
そう言い残して、高橋は僕から走って離れていく。
まだ信用ができないのかもしれない。
でも僕は助ける。
その日の夜は、いつもより寒かった。
いろいろなことを考えていた僕にとってちょうど頭を冷ますことができる気温だったので、僕は少し歩くことにした。
フレアたちには考え事があるからと言って、僕一人で歩いている。
「少し薄着しすぎたかな?」
少し肌寒さを感じながら、僕はある公園に到着する。
「久しぶりだなぁ」
この公園は、僕が小学生のころよく遊んでいた公園だ。
周りに廃工場がたくさんあるので誰も近寄ってこない公園だから、僕はここで一人で遊んでいた。
「全然変わってないな・・・・・」
よく僕が遊んでいたブランコに座り、空を見上げる。
今日は少し曇ってているから、満天の星空とまではいかないが、雲の隙間から顔をのぞかせている星はきれいだった。
その星空に、僕は吸い込まれるような感覚に襲われた。
「クシュンっ」
相当冷えてきたのだろうか、ついくしゃみをしてしまった。
「そろそろ帰るか・・・・・」
十分頭も冷えたし、あまり遅くまで帰らないとフレアが心配するしな。
僕がブランコから立ちあがったとき、向こうの方から声が聞こえた。
「やめてくださいっ!」
声のした方を見ても、暗いのであまり顔を確認できない。
だが、声が妙に高橋の声に似ていた。
まだ確定はしていないが、もしものことがあるかもしれないので、僕は声のした方へ向かった。
近づくにつれ顔がはっきりと見えてきた。
「た、高橋!?」
そこには高橋がいた。
だが高橋だけではない。
周りに四人の男がいた。
どうやら高橋をナンパしてたらしい。
「藤崎君!」
高橋が男たちをよけて、僕の方へ行こうとする。だが、一人に腕を掴まれ、身動きが取れなくなった。
「ねぇ君ぃ、俺たちの話を無視しないでくんなぁい?」
高橋の腕を掴んでいる男以外は、僕を囲むように配置を変えていた。
「おい、お前!その子から離れろ!」
僕の声に気付いたのか、高橋の腕を掴んだままこちらを見てきた。
「なぁにぃ?あんた誰?」
「僕はその子のきょ・・・・・」
僕は兄弟と言おうと思ったがやめた。
なぜなら、高橋が『藤崎君』と僕のことをいったからだ。
そこでとっさに思いついた言葉が。
「・・・・・彼氏だ!」
そう言って、僕は高橋の腕から男の手を離した。
「ちょっと、何してくれてんの?」
男はイラついた表情で僕を睨んできた。
「女の子が夜道を一人で歩いていたから、危ないと思って家まで送ってあげるって言っただけじゃん?」
「でも嫌がってんだろ!」
「でも人が親切を受け取らない方もどうかと思うぜ」
「いや、お前らのは親切じゃない。ただのセクハラだろ?」
「だれがセクハラだっ!」
いきなりキレだしたその男は、右手で僕の顔面を殴ってきた。
「マジうっとい」
「藤崎君っ!」
「・・・・・ける」
「えっ?」
「・・・・助ける。絶対助ける!」
僕は無意識にその言葉を発していた。
そして、今度は僕が男の顔面に向かって拳を突き出した。
「何やってんだてめぇ!」
当然のごとく、他の三人が僕に襲いかかる。
「いっ!」
口の中を切ったのだろう、口の中に鉄の味がする。
「やめてっ!」
突然高橋がそう叫び、一人の男を蹴る。
もちろん、女の蹴りなのでダメージはないようだ。
「邪魔だっ!」
だが、蹴られた男が高橋の方を向き、殴ろうとする。
「!?」
僕はとっさに、高橋を包み込むようにようにかばう。
「ぐっ・・・・・!」
背中に痛みが走る。
だが、そんなことより、気になることがあった。
それは、高橋の体が震えていたのだ。
相当怖かったのだろう。
とても勇気を振り絞ったのだろう。
「これじゃあ、僕の方が助けられてたな・・・・・」
「えっ・・・・・?」
だけど、もう僕の体が言うことをきかなくなっていた。
男の一人が、どこからか鉄パイプをを持ってきた。
そして男は鉄パイプを大きく振りかぶった。
「うっ・・・・・もうダメか・・・・・・」
僕は、衝撃に耐えようと、全身に力を入れた。
「グホッ・・・・!」
なぜか男が妙な声を出した。
あれ?殴られていない?
見ると、そこに全身黒色の服装をした人がいた。
その人はまるで忍者のように、顔の目の部分しか出していない。
だが少し、目の上の部分に赤い髪の毛が見えた。
・・・・・あっ、フレアだ。
僕が見る限り、100%フレアだった。
フレア(?)は男たちをあっという間に倒していった。
「では、拙者はこれで!」
そう言って、フレア(?)は走って行く。
だが、走っている最中。
ズッテーン!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・転んだ。
・・・・・あのこけ方はフレアだ・・・・・。
「うっ・・・・・」
めまいがする。今さら殴られたところが痛い。
「藤崎君!?」
高橋が、心配そうに僕の顔を覗く。
「ごめん・・・・・僕の方が助けられたね」
僕がそう言うと、高橋が大きく首を横に振る。
「ううん・・・・・ちゃんと藤崎君は守ってくれた・・・・・嘘じゃなかった」
「それはよかった」
そう言って僕は高橋の頭を撫でる。
「それでね藤崎君・・・・・」
「何?」
突如、高橋の顔が赤くなった。
「今日、もう遅から家に入れてもらえないかもしれないんだ・・・・・」
「・・・・・うん」
「だ、だから・・・・その・・・・・一晩泊めてくれる?」
「・・・・・へっ?」
「ダメ?」
「・・・・・・い、いいんじゃないかな?」
「やったー!」
高橋の顔が、パッと明るくなる。
さすがの僕でも、高橋のあんな今にでも死んじゃいますよ?みたいな顔をされては断り切れなかった。
僕が歩いていると、高橋が腕を組んでくる。
だけどひっつきすぎて、肘に胸が当たってるんですけど!?
なんだかんだで、やっと家に着いた。
「ただいま」
「おかえりなさいましゅえっ!?」
もちろんフレアがいつも通りいる。
「ど、どうしてフレアちゃんがいるの!?」
高橋もびっくりしている。
そりゃそうだろう、同じクラスメイトが一緒に暮らしているんだから・・・・・しかも異性同士で。
「それはこっちのセリフです!」
フレアの僕に対する目線が痛い。
「「説明してください!!」」
二人のセリフがはもる。
「こ、これはですね・・・・」
結局一時間も説明した。
なんとか理解はしてくれたけど・・・・・機嫌が悪い。
「それじゃっ」
高橋が手を振って僕も家を出ていく。
「バイバイ」
そう言って僕も手を振る・・・・・左に居るフレアの目線が痛いけど。
高橋を一晩だけ泊め、フレアの機嫌メーターは最悪の状態だった。
「フレア」
キッチンへ向かうフレアを呼びとめる。
「はい、何でしょう?」
「昨日、助けてくれただろ?」
僕がそう言うと、フレアは脂汗を浮かべる。
「ななな何のことでしょう?」
「そうか、フレアじゃなかったのかー。もし、フレアだったらお礼をしようと思ったのになー」
「はい私がやりました」
なんだか殺人犯がいいそうな言葉だな・・・・・。
「そうか、じゃあお礼に・・・・」
僕はフレアに近づき、おでこに唇をつける。
「ごごごごごごご主人様?」
「迷惑だったか?」
「いえ、全然!!」
すると、今度はフレアが僕の胸に飛び込んでくる。
「!?フレア?何をし・・・・」
「大好きですっ!」
「!?」
そこまでドストレートに言われると、なんだか恥ずかしい。
無意識に僕はフレアの頭を撫でていた。
「えへへ」
フレアは顔を綻ばせる。