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愛情と現実

 必要最低限の荷物をバックにまとめ、部屋の中を掃除した。食事はいつも先生のところで取っていたので、そのままにして困る食料品の類はない。出かけにアパートの一階にあるアレックスの店によって、先生の家に住みこむことになったと告げた。

「ついに新婚生活に突入?部屋はどうするの?出て行っちゃうわけ?」

 アレックスは淋しそうに顔を曇らす。

「しばらくはこのままにしておこうと思うんだ。どうなるかわからないし。その方が気楽でしょう。先生の重荷にもなりたくないしね」

「なに年よりじみたこと言ってるの。後先考えず押しかけるくらいの息ごみじゃなきゃ」

「どうなんだろう。先生にしたらたんなる家政婦さんの延長ってだけかも」

 寝たから恋愛関係だと思うほど、僕は甘くない。それはまた違うことだってわかっている。ただそのせいでごたごたして、一緒にいられなくなることはあるから微妙なところだ。

「あなたはどう思ってるの?」

「好きだよ。だけど深く踏みこむのは気が引ける」

 本気になってしまいそうで。

「恋人は欲しいけどそれを相手に強制するのは嫌なんだ。相手に無理させてるんじゃないかって探りながらつきあうのは辛い。結局僕は気が小さいんだ。いつでも逃げ道が欲しいんだよ」

「相手にとっての逃げ道でしょ。ミッシェルは途中で相手を見捨てたりしない」

「どっちでも一緒だよ」

 意気地がない点では。

「こんなに若いのにずいぶん男で苦労したのね」

 しみじみアレックスは言った。

「だったらしばらくあなたの部屋を貸さない?知り合いが仕事でこっちにくるんだけど、手ごろに使える部屋を探してるのよ。身元は私が保証するし、ミッシェルが戻って来たい時はすぐ別のところに移らせる。留守の間の家賃だってばかにならないでしょ?ミッシェルには絶対迷惑かけないようにするから。ねえどうかしら?」

 こっちにとっては願ってもないことだ。

「そうしなさいよ。大屋さんには私から話しておくし」

 あまりに熱心に勧めてくれるので、僕は素直に好意を受けることにした。

「お願いしてもいいですか?」

「もちろんよ。そうしてもらえると私も助かるわ。ねえいつから来てもらっていい?」

「今すぐにでも。鍵渡しておいた方がいいよね」

 僕は肩にかけていたバックのヒモをおろして部屋の鍵を取り出した。

「顔はちゃんと出して頂戴よ。心配だから」

「うん。ありがとうアレックス」

 感謝をこめてアレックスを抱きしめると、彼女も僕を抱きしめ返して頬にキスした。

「うまくいくように祈ってるわ」

 アレックスの言葉はいつも温かい。


良くも悪くもミッシェルの性格が出た回だなぁと思いました。

いつも明るく過ごせるのは、いつも逃げ腰だから。

そうやって気持ちを守って来たんだろうなぁと、我が作品の主人公ながら切ない気持ちになりました。

登場人物で一番できた人間なのはアレックスなんだろうな。

世話焼きが半端ないです。(笑)

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