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目を覚ますと

毎回すぐ読めるように短くまとめています。


白いレースのカーテン越しに、夕暮れのオレンジ色の光がにじんでいた。頬をあててもたれかかっていた先生の胸からそっと離れ、無心に目を閉じている少し疲れた横顔を眺めた。

 このまましばらく寝かせてあげよう。

 身をかがめて頬に口づけし、物音を立てないように気をつけながらベッドから降りた。シャワーを浴びて、夕食の準備にとりかかる。材料を取り出して野菜を切っていると、先生は黒い艶やかな髪をくしゃくしゃにしたまま、素肌にバスローブを羽織ってやってきた。

「目、覚めたんですか」

 キッチンに立っている僕の姿をみつけると、ほっと息をついた。

「いたのか」

 わざわざ不機嫌そうに顔を引き締める。隣に僕がいないことに気がついて、探していたようだ。そのあわてぶりがおかしくて、つい肩がゆれてしまう。

「なんだ?」

 先生はじろりと僕を睨んだ。

「いいえ何も。夕食もう少しかかるので、着替えてきていいですよ」

 日が暮れるとまだ肌寒い。先生は自分の格好をみおろしてさすがにあんまりだと思ったらしく、着替えるためにキッチンを出て行った。

夕食の後片付けも終り、明日の朝市場で買ってくるものを確認していると、先生が半分ドアの陰に隠れるようにして顔を出した。

「帰るのか?」

 相変わらず上から口調だが、予想以外の答えを待ち望むような気弱な響きが混じっていた。

「ええ、これが終わったらそうするつもりですけど。何か?」

「・・・いや」

 不安そうなまなざしに僕は引き止められる。

「もうしばらくいましょうか?先生の秘蔵のワインをあけてくれるなら付き合いますよ」

「そんなどぶに捨てるようなまねができるか。お前相手ならいつものランクでも高すぎる。お子様に飲ませるような代物じゃないんだぞ」

「そんなにむきになることないじゃないですか。年寄り用じゃなくてもいいですよ。どれか一本あけましょう」

「何をえらそうに。俺のワインだぞ」

 先生はぶつぶつ言いながらチーズでも切っておけと命じ、ワイン貯蔵庫に足を向けた。

  ほとんど僕がどうでもいいような話をし続けて時間がたち、ほろ酔い気分でアパートに戻ってくると、店を閉めていたアレックスが目ざとくみつけて冷やかしてきた。

「こんな時間までどこで夜遊び?またどっかにかわいそうな男でも転がってた?」

「まあね」

 画家先生とそんなことになるとは思わなかったけど。

「相手はモデルやってる例の画家でしょう。一人暮らしで寂しそうって、いかにもミッシェル好みじゃない。喜ばせすぎて心臓麻痺でぽっくりいっちゃったりしてね」

「先生はまだ三十前だよ」

 はっきりとは聞いていないし、最初の頃はかなり年上かと思ってたけれど、きっとそれくらいだ。

「えっそうなの?五十過ぎの気難しいおじいさんかと思ってたわよ」

 ひどいなあとは思いながら、若さは確かに足りないかもしれないと正直思ってしまう。

「いつも気難しいってわけじゃないんだよ」

 どうにかフォローしようと口を開いた。

「そりゃあ、こんなかわいい子と楽しいことしたんなら機嫌もよくなるでしょうよ」

  アレックスはからかう目で笑ってみせる。

「それで今度は大丈夫なの?殴りこんでくる恋人とかいなさそう?」

「たぶん。家にくるのはパスカルっていう画商だけで」

 一瞬二人の関係を想像してみたが、それはないとため息交じりに打ち消した。

「かっこいいの?」

「うん。背が高くて彫像みたいにスタイルいいんだ。それで目がね、とっても綺麗で」

 まるで月の光のように冴え冴えとした深い藍色。

「それで恋人いないなんて、よっぽど性格が悪いか怪しい趣味があるんじゃないの?」

 確かに謎の多い人ではあるけど悪い人じゃない。それにもう、名前は知ってる。

「どうだろうね。でもとってもいい人だよ」

 僕が言うとアレックスは肩をすくませた。

「ミッシェルにかかったら、ほとんどの人はいい人になっちゃうからねえ」

 その点についての信用度はかなり低そうだ。


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