入学編Ⅰ
四月九日
この日がエスペラル学園の入学式だった。
これには当たり前ながら僕こと高峰夕星も参加している。
式が始まって過ぎること一時間
もう理事長の挨拶とか来賓の挨拶とかいらないからもう終わってくれよ。
これが僕の思っていたことだった。
自分でもすごく不真面目だと自覚はしているがどうもこの手の式は苦手だ。
特に卒業式あれはもう面倒くさいを軽く通りこして死にたいという状態だ。
そういう面ではまだ入学式はマシだが。
この一時間の間で僕はもう何十回も欠伸をかみ殺している。
しかしそのかいあってか式はもう終盤だ。
ちなみに僕の隣にいる夜桜は今、すやすやと眠っている。
まあコレが僕の今眠れない理由でもあるがそのほかにもう一つ理由がある。
それはクラス発表があるからだ。
この学園のクラス発表は変わっていて、理事長がじかに新入生に触れそれで魔力を測りクラスを伝えるといった感じだ。
しかし問題が一つあった。これは主に僕たち男子であるが、理事長が若く、推定でも二十歳前半である。
その上美人であるのだから思春期の男子にとっては色々と大変なものである。
僕は頃合をを見計らって夜桜を起こした。
「次はクラス発表です。名前を呼ばれた生徒から壇上に上がってください」
最初に名前を言われたのはいかにも日本からみてら外国人の名前の人だった。
初めての日本人が呼ばれたのはその三十人後だった。
そろそろつまらなくなってきたころ
「高峰夜桜」
と自分の妹の名前が呼ばれた。
「は、はい」
夜桜は少し緊張していた。
無駄かもしれないが一応一言声をかけた。
「落ち着けよ」
夜桜は無事壇上までたどり着いた。
夜桜は理事長に手を握られた。
「高峰夜桜。あたなをA組にする」
夜桜は一礼をして壇上から降りるだけ。
しかしそこでアクシデントが起きた。
壇上に上がるところにある階段につまずたのである。
「キャァーー」
バタン夜桜が綺麗に転んだ。
今は講堂の床に顔をつけている。
会場内の空気もシーンとしていた。
僕は仕方なく立ち上がり夜桜のところに向かった。
かなり目立っていたと思うが夜桜のためだと自分に言い聞かせた。
「夜桜。大丈夫か」
夜桜はこちらに顔を上げた。
「痛かったよ。お兄ちゃん」
夜桜は目から涙が出ていた。
「大丈夫か、ほら席に戻ろう」
「うん」
その後夜桜が席に戻るまで式は進まなかった。
「つ、続いて・・・・・・えっと。高峰ゆうせい」
名前間違えられた挙句に再び壇上に向かうのか。
後者は仕方ないとしよう。夜桜が呼ばれた時点で予想はしていたし、だけど名前はどうよ。
あの詰まりって僕を再び前に来させる申し訳ないというものと僕の名前の読みが分からなかったためか。
あえてそこには僕はなにも言わずに向かった
壇上に上がるなり僕は高々と宣言した。
「僕の名前はゆうほでゆうせいじゃない」
これまた会場全体の空気が凍った。
それを気にしないのか理事長は僕の手を握っていた。
これで僕の魔力を測っているのだ。
「高峰夕星。あなたをA組にする」
それに続いて小声で言われた。
「あの時、お留守でごめんなさい」
あの時とはたぶん僕と夜桜がここにはじめてきた日のことだろう。
僕は一礼し、壇上から去った。
今僕はこれから一年間は過ごすであろう教室にいた。
教室の席はよく大学にあるみたいなタイプだ。
そして今、クラスではひそひそと声がしていた。
無論その原因であるのは僕なんだが、やっぱりあそこに名前を宣言したのが不味かったらしいって当たり前じゃないかともう外面では無表情でいるが、内面がありえないくらいハイテンションだった。
「おーい。お前高峰夕星だよな」
そんな注目の的である今の僕に話しかけるバカがいた。
「はい。そうですが」
「お前、すげぇーかっこよかったぜ。全校生徒がいる前で大声で自分の名前を訂正するやつ初めてみたぜ。いまじゃお前は名前に命を賭ける男になっているぞ」
初めてじゃなかったらある意味それはそれは面白いな。
「おっと、自己紹介忘れてたな。俺の名前は神無月零谷。よろしくな」
名前から見て僕と同じく日本人のようだ。
「もう知っていると思うが僕の名前は高峰夕星。呼び方は苗字が妹の夜桜と一緒だから夕星で構わない」
本当にこれ自己紹介の定番になったな。
「呼びました。兄さん」
僕が夜桜といったのに反応しこちらに顔を向けた。
「お、あれがドジっ娘か」
どうやら夜桜にもいやな二つ名ができたらしい。
「私はドジッ娘なんかではありません」
「まあ、それは冗談だがな、まあこれで機嫌を直してくれよ」
そういう神無月の手の中にはいつの間にか小さなパンダのぬいぐるみがあった。
「え、あ、ありがとうございます」
夜桜はその小さなパンダのぬいぐるみを自分の手に持ち撫でていた。
どうやらきにいったらしい。
だがそのため夜桜は気がついていなかった。
そのぬいぐるみに魔法の痕跡があることを。
けどその痕跡は危険なものではなく魔法を使用した後のものだった。
「神無月。そのぬいぐるみ魔法で作ったろう」
もし仮に魔法で作ったとしたらかなりの魔法使いだ。
《具現化》でここまで早くそれで形が綺麗なものは僕も出せないし、夜桜でも無理だ。
「半分正解でもう半分回答不足かな。正解はこれだ」
そういうと彼は自分の手を見せた。
そこには一本の針と糸があった。
「俺の魔装。《神針》と《魔糸》だ」
こいつも僕と同じ二刀流いや装だから二装流か。
「まず、こうして《具現化》の魔法でおうよその形を作成する。あとは《魔糸》と《神針》を使い、思い描いたパンダの図をこうして縫う」
そこにはさっきと同じパンダのぬいぐるみが出来ていた。
「ほい。もう一匹」
神無月は出来立てほやほやのぬいぐるみを夜桜に渡した。
「ありがとうございます」
僕はぬいぐるみを愛でる夜桜を一目見て再び視線を神無月にもどした。
「お前、すごいんだな」
「高峰家次期当主よりはすごくはないさ。魔装、得意魔法全て謎のお前よりかはな」
「あらご主人様。こんなところでなにしているんですか、あら、同じ日本人に自分の魔法の自慢ですか」
神無月の後ろから大人びた女性の声がした。
「うるさい。秦。ただあいさつしていただけだ。あ、夕星コイツは俺が作り出した人形の中での最高傑作《秦》」
僕は自分の目を疑ったそこにあった人形はどうみても人間としてしか思えなかった。
そしてこの人形にはさっきのパンダのぬいぐるみとは桁違いの魔力が保有されている。
「ちなみに秦は俺が魔力提供をしてこうやって普通の人間みたいに暮らせるだ」
いってることは単純かもしれないが、コイツがやっていることはすごいことだ。
神無月は今、このときも《秦》に対して魔力を供給している。コイツは意外とすごいやつかもしれない。
「まあ、とにかくこれからよろしくな。夕星」
そういうと神無月は自分の席に戻った。
それと同時に前の教室のドアが開いた。
そこから入ってきた人物に僕は驚愕した。