来日編Ⅲ
「へぇ~夕星てお家の次期頭首なんだ」
「そんなんです自慢の兄さんです」
夜桜は人前では夕星のことを兄さんと呼び、プライベートのときはお兄ちゃんと呼んでいる。
「それでその古びた風呂敷の中に入っている怪しいものも納得がいくね」
夕星は反射的に風呂敷を握る手を強めた。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。なにも盗って食おうてわけじゃないんだから」
「そうですか」
夕星は未だに少し警戒をしながら風呂敷を握る手を少し緩めた。
なんせあのグリーウィッドのリサである。
世界で五本の指に入る強さの魔力の持ち主。
夕星にとっては警戒するなというほうが無理だ。
「それで理事長室はまだなんですか」
「もう、もうちょっと可愛い先輩とお話したとは思わないの」
「自分のこと可愛いなんていうなんて随分痛々しいですね。まあ実際ずいぶん綺麗で可愛い方だと思いますけど」
夕星のその言葉に嘘はなかった。
実際彼女を百人が見れば百人とも美少女だという容姿だった。
肩までかかった綺麗な金髪、可愛らしい碧眼、整った容姿。
「え、そ、そう」
リサは頬を赤らめ俯いてしまった。
「兄さんこんなところでナンパですかずいぶん浮かれていますね」
あられでもない疑いをかけられた夕星は慌てて否定した。
「違うよ。僕はただ事実を言っただけで」
「っ」
リサはさらに頬赤らめてしまった。
「こ、ここが生徒会室兼理事長室よ」
リサは未だに頬を赤らめていた。
「失礼します」
先陣をきったのは夕星だった
彼を向かえいれたのは椅子に座った子犬だった
「ワン」
「えっと理事長さんですか」
夕星は自分がどれだけ間抜けなことをいったかは自覚したがそれより先に口が動いていた。
「ワン」
「そうなんですか」
「ワン」
夕星には子犬がいっていることが理解できるらしい。
「え、兄さんなにやっているんですか」
「こら夜桜。理事長の前だぞ」
「え、でも」
夜桜は混乱していた。
それもそのはずだ普通の人が子犬の言葉なんて分かるはずがない。
「すいません。妹が」
「ワン」
「気にしなくていい。ありがとうございます」
今まで見たことがない兄の姿をみた夜桜は小声でいった。
「怖いよお兄ちゃん」
その時ドアが開く音がした。
「あ、ノアここにいたの」
理事長だと思われていた子犬が今ここに入って来た女生徒に飛びついた。
「あたな、ノアと遊んでくれたのね、ありがとう」
夕星は今自分がどのような状況になったかを理解できていなかった。
「わたしの名前はシャルロット・フロラよろしくね」
「どーも僕は高峰夕星です。こちらが妹の夜桜です。僕たちのことは紛らわしくならないためにも名前で呼んでください」
もう初対面の人にはお決まりとなったセリフを夕星は言った。
「そう。夕星君、夜桜ちゃん改めてよろしくね」
「くっくっくっく」
夕星の後ろでリサが堪えながら笑っていた。
「はっはっはっは」
遂に我慢の限界がきたのかリサが笑い出した。
「本当に面白い。夕星は本当に面白い。
ノアのこと理事長だって思うなんて本当にはっはっは。
このウリウリ」
リサは夕星の後ろから手に首を回して自分の顔を夕星に擦り付けていた。
これに赤面したの夕星だった。
「な、やめてください」
「その反応も面白い。
もういっそうのこと私と付き合わない」
「どさくさにまぎれてなにとんでもないこと言っているんですか。離してください」
その時夕星の身体に別の力が加わった
「お兄ちゃんは私のものです」
その夜桜の発言に夕星は心の底で叫んだ。
僕はいつから夜桜のものに。
「あらいい度胸ね」
二人の間に火花が散っているように見える。
「ほら、二人とも抑えて抑えて、夕星君が困っているよ」
シャルロットに言われ、二人は自分たちが何をしたかを理解したのか二人はうつむいてしまった。
しかし夕星にとってはこれは助かったという出来事。
「ありがとうございます。ありがとうます」
感謝の言葉をささげる相手はこの場ではただ一人であった
「いいのよ。あなたが困っていたんだし」
シャルロットは一旦視線を夕星から頬赤らめている二人に向けた。
「リサのいきなりの告白宣言。夕星君に一目ぼれ?。
夜桜ちゃんと兄は自分のもの宣言。禁断の恋?」
ぐっはといった擬音でも出したかのように二人は胸に手を押さえていた。
シャルロットは見事に二人にとどめをさした。
「ああ、面白かったしすっきりした」
「は、はぁ」
夕星はこの人にだけは絶対に弱みを見せないほうがいいと思った。
「そういえば夕星君たちはなんでここにきたの」
そういえば
「それはですね・・・・・」
「なるほど。理事長に挨拶しにきたのね、だけど今、理事長はお留守なの」
「まあそうですよね」
夕星は今自分が彼女の使い魔(彼女曰く友達らしい)を理事長だと思ったことを恥じていた。
「ねぇ、夕星君てノアの話してる言葉が分かったの?」
夕星は使い魔の話す声が分かる。
普通の人、魔装使い、魔法使いでも分かる人は数えるくらいしかいない。
「ええ。分かります。もしかしてシャルロットさんも分かるんですか」
「やったー。お仲間発見」
シャルロットは長年の友人を見つけたような顔を夕星に向けた。
「今年は本当に最高」
「あらよかったはね。長年探していたお仲間が見つかって。
それはそうと使い魔のいうことが分かるということは夕星も使い魔と契約してるの」
ようやく復帰したリサがシャルロットに感謝の言葉を口にしたと同時に夕星のどんなに小さな情報でも得ようとしたのかつかかってきた。
「ええ、いますよ。でも・・・・・」
「いいじゃないですか、兄さんみせてあげても」
夜桜は夕星の言おうとしたことを理解したのか夕星がなにか言う前に先手を打った。
これには夕星もさすがにどうするかを迷った。
少し考え自分の妹の頼みだからしかたがないかと納得し、自分のシャツの胸ポケットに話しかけた。
「でてきていいよ。ルー」
夕星の胸ポケットからガサガサとしながら出てくるものがあった。
それは首だけを出すと自分の上にある夕星の顔をみながら言った。
「わーい。久しぶりに吸うシャバの空気だ」
「お前は釈放されたばかりの犯罪者か」
この場にいる夜桜以外の人は呆然としていた。
彼が異質であればまた使い魔も異質であった。
本来使い魔はなにがあったて人の言葉を発さない。しかしここには思いっきり人の言葉を話している使い魔がいた。
「あっ、夜桜ちゃん久しぶり」
その中呑気に挨拶をしていたのが使い魔のルーであった。
「はい。久しぶりルーちゃん」
夜桜はルーの近くに近づきルーの頭を撫でた。
「夕星、外出たい。ここの中狭いし、暑い」
「ごめんなルーすぐに出すから。あっここでルーて出していいんですか」
それにリサがただ首を縦に振るだけだった。
「わーいお外だお外だ」
自由になったルーは机の上ではしゃぎ回っていた。
「って喋る使い魔!!」
ようやく今自分の目の前で起きたことに処理ができたリサが今度は混乱のあまり声をあげた。
「ワン」
いつの間にかノアはルーの近くにいて挨拶をしていた。
「ノア君ていうんだよろしくね。ボクはルー」
「ワン」
どうやら会話は成立しているらしい。
「それはそうと夕星、ルー君は一体なんの動物なの?」
使い魔の姿は基本動物である。
「ウーパールーパーです」
そういわれるとリサも「これがウーパールーパーか」とルーを観察し始めた。
ウーパールーパーこれは一世紀前日本で可愛いと人気になった動物であるが今の日本ではもうそこまで人気がない。
「とても可愛いですよ」
夜桜がウーパールーパーに対してフォローを入れる。
「なんだこの金髪の美少女は夕星の彼女か、日本ではガードが高かったけど国際的になってナンパでもしたのか」
夕星はなぜだと心の中で絶叫した。
たしかに夕星は異性に対してはガードが高かった。
異性とは一定の距離感を作り過ごしていた。
ちなみに日本にいた学校では彼はクラスで気になるといった存在であったが彼が告白などをうけることがなかった。
その原因は主に夜桜であるが。
「違うよ。なんで僕が女性といるとそう判断されるの」
「なんというか雰囲気かな~」
雰囲気で人を決めるなと夕星は思った。
その後一時間くらい理事長室兼生徒会室で騒ぎ、リサから寮の自室の鍵をもらい寮棟にいきそこで男女で建物が分かれていたため夜桜と別れ自室に向かっていた。