終章 途理顧視苦労
ぽむっ。
可愛らしい音がした。
視界に真っ白な煙が立ち昇る。
少しして煙が晴れて、髪型が崩れている愉衣が見えてくる。と。
「お兄ちゃん、なにそれ、アフロっぽいけど髪の量が少なすぎるよっ」
「お前だって似たようなもんじゃねーかっ」
「あははははっ、アフロってっ、あふろっ、祭り出られるよーっ」
「なんの祭りだよ」
「アフロ祭り」
「変な祭りを勝手に作るな!」
「あるのに……あるのに……」
爆発の余波か、俺も愉衣も漫画みたいにアフロっぽくなっていたのだった。
あ、そういえば、途理先輩はどうなったんだ?
「きゅー」
途理先輩は、目をバッテンにして気絶していた。
ポニーテールは少し焦げているものの、全体的には変わりはなかった。
というか、微妙にところどころカールしていて更によくなっているようにも思える。
「可愛すぎる……っ」
「確かにコレは可愛いかも……」
軽く伸びをして、空を見た。
いつの間にか少しずつ明るんできている。
どうやら、無事に夜明けを迎えられたようだった。
色々恥ずかしい事を言ってしまった気がするが、一件落着だな。うん、忘れよう。
「いやーまさか爆発がこんなに、しょっっっっっぼいものだったとはな」
「ほんとだよー、私、泣いたのなんて久しぶりだよ」
「でも、しょっぼい爆発で良かったろ。それに」
「それに?」
「お前のついた嘘が本当にならない事も完全に証明出来たからな」
「あっ……、そういえば」
「爆発しないとか言ってただろ? これからは気兼ねなくバレバレの嘘を吐けるぞ」
「いーっだ。匂いなんて嗅いでお兄ちゃんの変質者。あー、なんか爆発したら眠くなって来ちゃったよ」
すっげー発言だ。
「でさ、どうするの? 途理さん。このままって訳にはいかないよね」
俺が運ぶのか? 運べそうなの俺しかいないしな。途理先輩の体を……体を……。
と、何やら途理先輩が呻いている。
「……うーん……仁人くん……」
「な、なんでも! なんでもないすよ!」
「うわぁ気持ち悪い。途理さん無意識で言ってるだけなのに。下心ありすぎ」
愉衣から、いつも通りの歯に衣着せない毒舌が飛んでくる。
「『楽しかったぜ、人生!』」
「やめてくれ!」
勢い任せだったとはいえ恥ずかしすぎるセリフだ……。
しっかし――考えてみれば。
この程度の爆発なら、病気の時の歩歌みたいに放っておいても大丈夫だったな。
嘘を完全につかないより、ちょっとくらいは嘘をつくほうが自然かもしれないし。
幸せの話にしたって、結局リモコンボタンを使っても使わなくても一緒だったし。
なんだよ、俺なりに解釈なんてしないでも途理先輩の解決した通りでどうとでもなってたじゃん。なんつう空回り感。
いや、あと何か一個あったよな。
『終焉の日が何百年も前から定められていた世界』の話。
オチこそ教えてもらったものの、途理先輩がどう行動したかは殆どわからない。それに、世界の終焉というシステムに疑問を覚えた奴らはどうなったんだ?
気にしだしたらキリが無いけど、気になるな。まぁ、それは今度話して貰えば良いか。
「よっし」
気合いを入れ直して、途理先輩をとりあえず家にでも運ぼう。
無心だ。何も考えない。俺はただ、運ぶのみ――
「お兄ちゃん酷い顔になってるよ?」
俺の妹はこれだから締らないんだよ。
「酷いっていうのは嘘だけど。でも、だらしないのは確かだよ?」
紛らわしくなりやがったなぁ。