表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SCGの魔眼使い  作者: 西城優
第一章
5/37

任務遂行

「あんちゃん達、カップルで喧嘩をするにしても、場所を少し選んだ方がいいんじゃねえか?」


 振り向くと柄の悪そうな男が三人立っている。そして、神崎の背後、つまりは鏡矢の正面には四人の男が立っていた。神崎と鏡矢は柄の悪そうな男達に取り囲まれたという事になる。


「なあ姉ちゃん、そんな頼りなさそうな男と一緒にいるより、俺らといた方が楽しいぞ? これから一緒に遊ぼうぜ。ッヒヒ!」

 

 最初に話しかけてきた男は別の人物が、ギラリと目を光らせながら鏡矢と神崎を見る。

 どうやら神埼と鏡矢はカップルと勘違いされていて、それを見つけたこの柄の悪い男達は神崎を目当てに絡んできたらしい。

 確かに、神崎はルックスを評価するなら間違いなく美少女だ。お淑やかで可憐なその相貌に、目を奪われる男性は少なくないだろう。柄の悪い男達が行動を起こすのも分からなくはない。

 鏡矢はそんな男達を見渡して、慌てるでもなく冷静に状況を分析する。


「おい、あんちゃんよお、何とか言ってみたらどうだ? もしかしてビビッちゃって、声を出そうにも出せないってか?」

 

 ギャハハハ! と下品に笑う男達の言葉を無視して、鏡矢は神崎に目を向ける。

 囲まれたという事に危機感を覚えているのか、その表情からは焦燥の色が見て取れる。しかし、彼女は能力者の中でも最高ランクに位置づけされるレベルAだ。男達が接近してきても、その身に宿す能力、軌道迷走を使えば男達は神崎に触れる事さえ出来ない。


(にも関わらずこの様子。やはり彼女は、自分の能力を使って人を傷つける事を躊躇っている)


 軌道迷走を使えば、接近してきた男達は動きの軌道をずらされる。本来ならそれだけなのだろうが、ここは狭い裏路地だ。向かってきた人物の軌道をずらさせるとその人物が壁に激突してしまう。

 とは言え、その程度なら怪我は悪くても骨折、軽ければ多少の腫れぐらいで済むだろう。身を守るためという理由もあるし、能力者専門学校でもこの状況での能力使用は許される筈だ。

 

「しかし、姉ちゃんの方は見れば見るほどいい女だよなあ。くっくっく」


 リーダーのような男が、神埼へとゆっくり近づいてくる。

 あと三、四歩で神崎を掴める距離だ。これなら軌道迷走を発動出来る範囲内だろう。

 だが、神崎はただ身を強張らせるだけだった。目を硬く瞑り、スカートの裾をぎゅっと握る。


(……あくまで能力は使わない、か)


 リーダー格が神崎に触れそうになり、ニヤリと笑みを浮かべたのと同時。

 二人の間に割って入る黒い影が現れる。

 それはリーダー格の男の手を弾き、神崎を守るように背に隠す。

 

「なっ!? てめえ! どうやって割って入ってきた!?」


 少し離れた距離にいた鏡矢が突然目の前に現れた事に、リーダー格の男は驚きの声を上げる。


「そんな事はどうでもいい。俺は神崎さんに用があるんだ」

「んだとてめえ!」

 

 激昂したリーダー格の男は、ゴツゴツとしたその腕を遠慮なく振るう。相手の事を一切考えない無遠慮なその一撃を、鏡矢はいとも簡単に受け流す。

 

「!? ……調子に乗んじゃねえぞ小僧が!」


 攻撃を受け流され、吼えるようにリーダー格の男が言うと、周りにいた男達も次々と戦いに参戦し始める。


(少々乱暴だが、神崎さんを守る事を優先すれば仕方がないな)


「神崎さん、ちょっと失礼するよ」

「え? あっ」


 鏡矢は神崎を横向きにして抱え――お姫様抱っこというやつだ――、向かってくる男達の方へと駆け出す。

 

「死ねえ!」

 

 一人の男が拳に嵌めたそれはメリケンサック。命中すれば骨折は必須な一撃が鏡矢へと迫る。


「悪いな。お前らの相手をしている暇はない」

 

 その場にいる誰もが考えもしなかった動きで、鏡矢はその攻撃を避けた。

 攻撃の直前に、右の壁へと軌道を変えて跳躍、右の壁を蹴り、左の壁へ移り、また左の壁を蹴って右に移る。この一連の流れを繰り返し、空中をジグザグの動きで進む。

 男達に包囲された状況は崩され、鏡矢は神崎を抱えて路地を駆ける。

 男達が呆然としている間に、鏡矢は常人では考えられないような速度で裏路地を抜けていた。



  ◇  ◇  ◇



「ここまで来れば追ってこないだろう」

 裏路地を抜けて道をデタラメに走り、鏡矢達は駅前へとやってきていた。

 かなりの速さで走っていたにも関わらず、鏡矢は息一つ乱していない。

「……あ、あの、もうそろそろ下ろしてもらえませんか?」


 駅前は人の出入りが激しい。そんな場所でお姫様抱っこを未だにされていた神崎は、顔を赤くして身を縮こませる。


「あ、ごめんごめん」


 神崎をそっと地面に下ろして、鏡矢は小さく溜息をつく。


「悪かった。逃げる為とはいえ、いきなり抱え込んだりして」

「そんな、気にしないでください。私の方こそ迷惑を掛けてしまいましたし」


 神崎の頬は未だに赤い。周りの人物がジロジロとこちらを見てきているからだろう。

 鏡矢は一拍間を置いて、神埼に本題についての話を始める。


「男達の乱入で話が飛んでしまったから話を戻そう。神崎綾さん、僕は任務で君の迎えに来た。一緒に来てくれるかな?」


 同意を求める必要などないのだが、無理やり連れて行くのはやはり気が引ける。鏡矢は神崎を見つめ、彼女からの返答を待った。


「はい」


 短い返答だったが、そこには不満や憤りといった感情は全く含まれていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ