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SCGの魔眼使い  作者: 西城優
第一章
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朱い月②

「そ、そんな馬鹿な!?」


 認識不可は人に己の存在を認識されなくする能力だ。ただ透明化するのは違い、相手の脳が青谷の姿を認識する事を拒む。ゆえに、自分の攻撃を受け止められるどころか、どの位置にいるかさえ分かる筈がない。

 しかし、鏡矢は赤い双眸でしっかりと青谷を捉えていた。


「やはり襲撃者は遠野だけじゃなかったな。事前に予想しておいたおかげで手を打つ事ができた」

「貴様、一体どうやって俺の認識不可を!」 


 驚愕で目を見開く青谷に、鏡矢は無表情に返答する。


「俺の能力で周囲に潜んでいる人間がいたら姿を現すように操った。結果、お前はこうして俺の目の前へと現れている」

「やはり、相手の行動を操る能力だったか。そして、その力で俺の能力を無効化したというわけだ」

 

 だが、青谷は鏡矢の言葉に納得できなかった。


(俺は高天原と視線を合わせていない。それに、目が合っていないのなら俺の姿は認識されていない筈だ)


 視線を合わせる事が条件なのならば、青谷に鏡矢の能力が適応される事はない。そう、条件が仮説通りだったのなら。

 実際の所、鏡矢の朱い月は視線を合わせる事で発動する能力などではい。鏡矢が相手そのものを見る。もしくは相手が鏡矢の体の一部分でも見た瞬間に発動するというものだった。

 つまり、能力が発動した時に鏡矢を見ていた時点で、遠野や青谷は朱い月による洗脳を受けていた事になる。

 鏡矢は視線を外さぬまま、青谷を睨みつける。


「お前には俺の質問に答えてもらうぞ。誰に俺を殺すように依頼されたかを」


 そんな質問に答える筈がないだろう。そう青谷が返答した瞬間、鏡矢の赤い瞳が強く瞬いた。

 その怪しげな朱色の光は、青谷の瞳から脳へと伝達される。脳の思考回路が一瞬で書き換えられた。

 朱い月の支配に堕ちた青谷は、自分の知っている依頼者の情報を語りだす。

 

「……依頼者は眼鏡を掛けた男だった。歳はまだ若い。お前を殺すように依頼されたが、お前という人間に興味を抱いている様子だった。それ以外の情報は俺も分からない」


 青谷自身に操られている自覚はない。朱い月がレベルSと断定されているのは敵を操るからという理由だけではない。発動条件の満たしやすさに加え、相手が脳を操作されたという事実に決して気付かない事にある。

 いつ朱い月を掛けられたのか、どこで掛けられたのか、本人では決して分からない。そして洗脳を受けた人間は、それをさも自分の意思のように勘違いして行動を起こすのだ。


「一応問うが、本当にそれ以外の情報を知りえないんだな?」

「ああ、俺が知っているのは今の情報だけだ」

「そうか……なら、もうお前に用はない」


 掴んでいた相手の手首を離し、鏡矢は傷みを堪えて体を回転させる。左手に力をいれ、体重を乗せた裏拳が青谷のこめかみを捉えた。


「ぐうぅ!」


 あまりの衝撃で横へ数メートル飛ばされて、青谷は背中を引きずりながら地面へと仰向けに倒れた。

 姿を現したのが青谷だけという事は、これ以上自分を狙っている敵はいないのだろう。辺りを確かめながら鏡矢はそう結論づけ、インテリジェント・デバイスのセーラに声を掛ける。


「セーラ、SCGの人間に連絡を入れてくれ。あと、ついでに救急車を頼む」

「分かりました」


 パートナーへの頼み事を終えると、鏡矢は地面に膝をついた。それと同時に、今まで赤かった鏡矢の瞳が元の漆黒へと戻る。

 今までの様子を見守っていた神崎、村雨、瓜生が鏡矢の元へと一斉に駆けてきた。


「鏡矢さん、大丈夫ですか!?」

「おい、しっかりしろ!」

「カガミン、死んじゃ嫌だよ!」


 心配そうな表情を浮かべている三人に、鏡矢は少しだけ口元を上げた。


「大丈夫。死ぬほどひどい怪我じゃないから。……けど、少し疲れたから寝るね」


 そう告げると、視界がじわじわと黒色に塗りつぶされていく。三人の言葉がはっきりと聞こえなくなってきた。

 暗闇が、やがて鏡矢の意識を遮断した。

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