能力者達の休日③
喫茶店を後にして西ノ宮グリーンパークへと向かった鏡矢達の間には、会話らしい会話というものがなくなっていた。
話す事がないわけではない。ただ、お互い気恥ずかしさに言葉が出てこないのである。
(お、俺は一体何を意識しているんだ。神崎さんはただ単に、友人として俺と一緒に行きたいと言ってくれているだけなのに)
先程までいた喫茶店にて神崎に言われた言葉が脳内にてリフレインする。その度頬が熱くなり、なんだか気持ちが落ちつかない。
もしかしたら自分に恋心を抱いてくれているのでは? と一瞬でも考えてしまうのだから困ったものだと鏡矢は思う。今まで女の子に告白されたり、付き合ったりした事のないこんな自分に、そのような感情を抱いているわけがない。
雑念を払うように首を小さく振り、鏡矢は何も考えずにただ歩く事にした。
神崎へと視線を向けると、彼女も頬が紅潮していた。わずかに俯いているその横顔がとても美しく見える。
無言のまましらばく歩くと、目の前に西ノ宮グリーンパークの入り口が見えてきた。入り口へと向かっているのは鏡矢達だけでなく、老若男女の大勢の人々が鏡矢達の周りを歩いている。
「すごい人の数だね。乗り物に乗るにしても、これだと時間が掛かるかもしれないな」
「そ、そうですね」
神崎が自分の言葉に返答してくれた事にほっとしながら、鏡矢は神前へと手を指し伸ばした。
神崎はその指し伸ばされた手を見て、鏡矢へと視線を向ける。
「きょ、鏡矢さん? これは?」
「手を繋ごう。はぐれたりすると、合流するのが大変だからね」
恥ずかしくはあるが、合流するのに時間を掛けると乗り物に乗る時間が減ってしまう。ここに来るのを楽しみにしていた神崎の事を考えての行動だった。
しばし鏡矢の手を見つめて、神崎は手を伸ばそうとしては止め、手を伸ばそうとしては止めを繰り返す。
そして、神崎はゆっくりと鏡矢の手を取った。
「じゃあ行こうか。乗りたい乗り物があったら言ってね」
「は、はい!」
先程までの沈黙が消え、鏡矢は安堵の笑みを浮かべる。はぐれないよう手をしっかりとお互いに握り、鏡矢達はグリーンパークの入り口へと歩みを進めた。
◇ ◇ ◇
「うええええん! ついには手を繋ぎ始めたよ!? このままじゃ奏ちゃんルートにカガミンを誘導出来なくなっちゃうよおおおお!」
「……言ってる事がよく分からないぞお前。そして落ち着け」
人目をはばからず大声を上げる瓜生に、村雨は呆れて嘆息する。
「これが落ち着いていられますか! 好きな人を他の女の子に取られるんだよ!? この泥棒猫!」
「俺が泥棒猫みたいになってるんだけど。つうか、こんだけ人が多いんだからはぐれないために手を繋いだんじゃねえの? もしカップルとして出来上がってて手を繋いだんなら、駅の辺りから普通に繋いでるだろ」
「むむ、そう言われれば確かにそうかも。イツキって意外に頭は回る方なんだね!」
「意外ってなんだよ意外って」
「いやあ、てっきりただのバトルバカだと思ってたからさ~」
「少しは言葉をオブラートに包め!」
まるで漫才のようだとツッコミながら村雨は思う。それがなんだか少しだけ楽しいとも感じている。
鏡矢達の方へと視線を向けると、どうやら行き先は西ノ宮グリーンパークらしい。入り口には巨大な緑色のアーチが設置されていて、入場者達は皆そのアーチの下を潜っていく。
「で、俺らもグリーンパークに向かうのか?」
「もちろん! ここまで来たら二人の監視を最後まで続けるよ! まあ、イツキにはこれ以上強制はしないけどね」
一見人を振り回してそうな瓜生ではあるが、相手の事はちゃんと考えている。
神崎が男子に人気な理由を上げさせれば以上の三つが上げられる。明るい、人懐っこい、そして優しい。
村雨は瓜生のそんな一面を垣間見た気がした。
(まあ、帰ってもやる事もないし、別にいいか)
我ながら人が良いと思いながら、村雨は瓜生へと視線を向けた。
「最後まで付き合ってやるよ。俺も少し気になるし」
「おお! イツキのノリの良さに奏ちゃんは感動したよ! よおし、引き続きカガミン追跡作戦を実行する!」
「お、おい! いきなり走りだすなよな!」
駆け出した瓜生に文句を言いつつ、村雨はその後を追う。しかし、彼の表情はどこか楽しげに見えた。