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SCGの魔眼使い  作者: 西城優
第一章
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麻薬密売の三人組②

 扉を開けて入ってきた人物は、黒装束を身に纏っていた。

 サングラス越しに見るその相貌は十代のように思える。手に握られている黒いトランクには約束の数百万もの金が詰め込まれている事だろう。

 しかし、一つ妙な点があった。買い手側の人物は、トランクを手に持っている彼以外には一人もいないのである。


「お前以外には誰も来ていないのか?」

 

 川寺が怪訝そうに訪ねると、若い男は首を縦に頷かせる。


「はい。万が一にも何かあった場合の事を考え、今は工場の外で待機してもらっています」

「そんな必要はないだろう。俺らが能力者であるということ、その内の一人が探知能力を持っている事は事前に説明済みなのだからな」


 田島の周囲探知があれば、五十メートル以内に侵入してきた人物の存在を探知する事が出来る。わざわざ買い手側でそのような配慮をする必要は全くない。

 若い男は申し訳なさそうに頭を下げ、サングラス越しに愛想笑いを浮かべる。


「すいません。何分、常にこちらも気を張っているものでして」

「ふん、まあいい。それより、約束の金はちゃんと用意してあるんだろうな?」

「はい。こちらのトランクの中に用意してあります」


 ひょいと黒いトランクを持ち上げ、若い男はがちゃりと施錠を外して中身を公開する。

 そこには、万札がぎっしりと詰まっていた。


「五百万円です。どうぞお納めください」

「よし、では早速トレードだ。そちらのトランクを渡してもらおう」


 川寺がトランクへと手を伸ばすと、若い男はすっと手を後ろに引いた。


「そちらのトランクと同時に交換させていただけませんか?」


 金だけを受け取り、麻薬を渡されない事を警戒しているのだろう。川寺は小さく息を吐く。


「随分と警戒しているのだな? 俺達が金だけを持って逃走すると?」

「そんな事はありません。ただ、可能性はしっかり消しておきたいだけですよ」

「へー、若い割にはしっかりしてるじゃん。いや、若いからこそ警戒してんのか?」

「仕事柄、というやつです」


 会話に割り込んできた紅に、若い男は簡単に答える。

 川寺は床に置かれていたトランクを手に取り、若い男の前に立つ。


「これで文句はないだろう」

「はい。ありがとうございます」


 にこりとサングラス越しに笑みを浮かべ、その若い男は引いていた手を前に出した。

 五百万もの金が目の前にある。川寺、および一歩後ろにいる田島、紅は歓喜の表情を隠そうともしない。

 川寺の手がトランクに届きかける。笑みが顔一杯に広がった瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。


「!?」


 地面に背中を強く叩きつけられ、肺から空気が吐き出された。咽て上手く呼吸が出来ない状況で、川寺は自分が若い男に投げられたのだと理解する。

 いきなりの出来事に呆然としている二人に、その若い男は拳を叩き込んだ。


「ぐおおっ!?」

「うおっ、危ねえ!」


 田島はなす術もなく腹部への攻撃を受けて気を失った。紅はその身に宿す能力、電光石火にて若い男の奇襲に反応し、バックステップにて回避する。

 その隙に、若い男は麻薬の入っているトランクを手に取った。


「て、てめえ! 一体何しやがる!」


 額に青筋を立てて、紅は襲撃者に問うた。呼吸を整えている川寺も襲撃者へと目を向ける。

 片手に二つのトランクを持ち、余ったもう片方の手でサングラスを地面に放り捨て、男の素顔が明らかとなる。


「SCGの高天原鏡矢だ。お前達、麻薬密売人の能力者三名を確保する」


 トランクを持ったまま鏡矢は駆ける。開いていた紅との距離が一瞬にして縮められた。


「ざけんなよ! この若造が!」


 紅は鏡矢によって放たれる拳を、いとも簡単に受け止める。

 パパパン! と更に連続で放たれた拳を受ける音が工場内に響き渡る。

 電光石火によって体の速度が上がっている紅にとって、この程度の攻撃を防ぎきるのは片手で十分だった。

 余った片方の手が高速で放たれる。鏡矢はトランクを使ってそれを防ぎ、下から顔面へと向けて蹴りを繰り出した。

 

「ちいっ!」


 体を仰け反らせ、紙一重で蹴りを交わす。


(電光石火の動きについてきてやがる!? こいつも俺と同じ身体能力向上系か!?)


 距離を取る為に後方へ飛び、紅は鏡矢の後ろに視線を向ける。


「小僧、よくもやってくれたな。俺の火炎地獄を持って、その身に苦しみを刻み込んでやろう」


 呼吸が整い立ち上がった川寺は何もなかった空間から炎を顕現させる。それが火球を形作り、鏡矢へと高速で放たれた。

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