第26話 反応
エロ本のことを報告し終えて遥とプリシラは渋谷のダンジョンに入った。
渋谷のダンジョンは難易度Bランク中位で30階層ある石造りの迷宮型ダンジョンとなっている。出てくる魔物はゴブリンなどの人型や狼型の魔物が多い。
遥は再びスマホの電源を入れて探索者協会が提供しているダンジョン用の地図アプリを起動する。ダンジョン内に電波は入らないが事前にダウンロードしてあればオフラインでも地図情報は見れる。プリシラにスマホの画面を見せる。
「これがこのダンジョンの地図よ。スマホを使えば紙の地図を持ち歩かなくても地図を見れるわ」
「………便利」
「ここのダンジョンは最下層まで9割くらいは情報があるわ。最短ルートも示してくれるの。この赤い線が最短ルートね」
「………罠がどこにあるかはわからないのね」
「さすがにそこまではわからないわ。渋谷ダンジョンはあまりないみたいだけど罠の場所は毎回変わるらしいの。どういった罠があったとかの記録は見れるけどね。入ってすぐのここは1階のセーフエリアになってるわ。渋谷のダンジョンは五階層おきにここに戻ってこれる転移陣があるの。今ちょうど戻ってきたわ」
遥が壁の方を指刺して転移陣の発動した場所を示した。地面に魔法陣が浮かび上がり、光がいくつも柱のように立ち上がり五人が魔法陣に現れた。
「あんな感じで戻ってこれるの。プリシラのいた世界にもダンジョンあったんでしょ? あんなのはなかった?」
「………同じのがあった。魔法陣に乗って魔力を流せば発動する」
「じゃあ同じね。それじゃあ私たちも行きましょうか。カメラのスイッチ入れてと…じゃあ最短ルートを通るわ」
遥と一緒に歩いていくプリシラ。プリシラはいつも通りの装備だ。遥はスタンピードの時と同じように刀と防弾チョッキのようなベストに迷彩服だ。ブーツには鉄板が仕込まれている。さらに鎖帷子の進化版のような薄い軽量金属鎧のようなものを着込んでいる。自衛隊のアタッカーとしては標準的な装備だ。役割分担がしっかりされている自衛隊のアタッカーは身軽さを優先している。
カメラは探索者活動の記録とともに犯罪に巻き込まれた時等の証拠などに使用する。探索者の多くがカメラを使用して探索している。証拠がなければ言った言わないの水掛論になるのを防ぐためと自身の潔白を証明するためである。
「………資料を読んだ限り五階層くらいまでは遥一人で大丈夫だから進む速さは任せる」
「ちゃんと援護してよね。私にはまだこのダンジョンは早いくらいなんだから」
「………死なない限りは治してあげる」
「…どういう反応をすればいいかわからないわ」
プリシラの治癒スキルの高さに驚けばいいのか、最低限の援護しか来ないのかがわからない。遥は考えるのをやめて最善を尽くすことにした。事前に低階層では遥に任せるということを決めてはいたが不安な立ち上がりだった。
1階層は魔物が出てもほとんど単体で出てくるためそこまで苦労はしない。しかしBランクのダンジョンということもあって魔物はかなり強い。ゴブリンエリートというゴブリンの上位種が出てくる。ジョブにもよるが最低レベル100以上でないと倒すのは難しいと言われている。
エンカウントしたゴブリンエリートを倒してさらに進む。
「一体なら問題ないわ。多分三体になるときつくなるから援護してちょうだい」
「………危なそうな時にする」
「ちゃんとして!」
どこか不安な言葉を返してくるプリシラ。遥は不安で仕方なかったが戦闘ではしっかりと援護をしてくれた。二階層からは複数体出てくることも多くなりゴブリンエリート以外にも体の大きなオークエリートや体長2メートル程度のグレイウルフが複数体など出てくる。プリシラはそれらに対して魔法で足止めをしたり引きつけなりなど遥が動きやすいように援護していた。
プリシラの援護もあり魔物を倒すのにあまり時間はかかっていない。最短ルートを通っているため進行はかなり早い方で五階層まで来た。戦闘ではプリシラが援護しているが遥が1対1でも厳しくなってきていた。
「さすがに厳しくなってきたわね。私がメインでいけるのはここまでかしらね」
「………じゃあそろそろ代わる」
「お願いね。ちゃんと守ってよ。私足手まといなんだから」
「………私の用で付き合ってもらうのだから当然」
「といっても私監視みたいなものなんだけどね?」
「………気にしない。遥はここに座って」
「え?」
進行役を交代して進んでもらおうと話すと座るように指示を出すプリシラ。そこには半透明の椅子のような物が出来ていた。
「何これ?」
「………結界で作った椅子。ちゃんと背もたれと肘掛けも足置きもある。座ったらさらに結界で蓋をする」
「座ればいいのね?」
「………うん」
マジックバッグであるバックパックを前に持ち直してプリシラの作った椅子に座る遥。遥が座ったのを確認するとさらに椅子全体を半透明の結界で覆った。
「………そこに居れば安心。遥は道案内をお願い」
「そうなんだけどね? 私何もすることってえええええええええええ!?」
プリシラが猛スピードで走り出すプリシラ。それと同時に椅子型の結界に座っている遥ごと移動した。プリシラが戦う時ほどの速さではないが時速50キロはありそうな速さで曲がり角まで来ると止まった。
「………このくらいの速さで進む」
「…わざわざ実演してくれてありがとう!」
「………? どういたしまして」
その後もどんどん進んでいくプリシラ。道中の魔物はすべて一撃の元に倒していく。遥の役割は道案内とドロップアイテムを受け取るだけだった。
道中各階層にあるセーフエリアで休憩を取り進んで10階層まで来たところで今日はセーフエリアで休むことになった。
セーフエリアにはすでに何組かの探索者パーティや20人規模の探索隊がいた。渋谷ダンジョンのセーフエリアは広く場所は十分に空いているため壁際で休むことにした。当然二人は注目の的である。世間を騒がせたエルフに自衛隊の広報活動で顔が知れている遥の組み合わせは目を引いた。しかもBランクダンジョンを二人で攻略するという暴挙に出ている。
「ここにしましょうか。テント出してから夕食にしましょう」
「………わかった」
遥がマジックバッグから二人用の大きさのテントを出す。ワンタッチ式なのですぐに設置できる。ダンジョン内なので地面に固定する必要もない。中に寝袋を敷いて終了である。濃い紺色のテントなので外からは見えない。
「これでいつでも寝れるわ」
「………便利」
「こういう道具は昔からあるわ。キャンプ用品がそのまま使われているわね。缶詰になるけど夕食にしましょう」
夕食用にいろいろと買い物はしたのだが、手間がかかる上に周りには自分達以外にも休んでいる者たちがいるため調理すると匂いがどうしても出る。周りに迷惑をかけないために今回は缶詰にした。食べるのはレトルトのミリ飯だ。簡易テーブルと椅子をテント前に出して食事にする。
プリシラはガントレットをつけたまま器用にスプーンを使って食べている。
「………美味しい」
「最近のミリ飯は美味しいのよね。温めるともっと美味しいんだけど周りにも人がいるからね」
「………昼食の時にも思ったけどダンジョンでこれだけ美味しい食事を食べられるのなら十分」
十分満足したようなプリシラを見て遥は安心した。研究所では病人食が多かったが今では普通の食事を摂っている。研究所の食堂で食べており食堂のメニューは美味しい物ばかりだった。日本の技術と味を知ったプリシラがダンジョンでも良いものを食べたいと言わないか不安だった。王族ということを考えると野営などでも良いものを食べていたのではないかと予想したが杞憂だった。
食事を食べ終えた頃に男の探索者が二人に声をかけてきた。
「自衛隊の一条さんとお台場で有名になったエルフの方ですよね?」
「…そうですが。何か?」
警戒気味に返事を返す遥。プリシラは当然のように無視。見向きもしない。
ダンジョンの中はある意味無法地帯だ。バレなければ何をしてもいい状態。ダンジョンを利用した犯罪は後を絶たない。ダンジョンが出来て民間に解放された当初は行方不明者が数多く居た。それは魔物に殺された者もいれば犯罪に巻き込まれた者もいる。セーフエリアとはいえ警戒するのは当然のことなのだ。
彼はBランクダンジョンに潜っている者だ。高レベルで高位と言われるジョブだろう。
「良ければ俺たちと一緒に食事にしませんか? 缶詰じゃ物足りないでしょう?」
「いえ、もう食事は取りましたので」
「そんなこと言わずに遠慮しなくていいですよ! エルフさんもどうぞ!」
遥は断り、プリシラは再び無視。見向きもしない。
「彼女もいらないと言ってますので」
「いやいや遠慮せずに! それに二人じゃこのダンジョンは危ないですよ! 俺たちの探索隊と一緒に行きましょうよ!」
しつこく話を続ける男性探索者。遥は内心焦っていた。プリシラが暴走しないか不安になってきたのだ。遥の推測ではこの男性探索者はプリシラの実力を知らない。エルフだと知っているのは予想か誰かから聞いたか。おそらくスタンピードが起こる何日か前からダンジョンに潜って素材を集めていたのだろう。
プリシラの実力を知らしめた自衛隊との模擬戦を見ていればこんなことは言ってこないだろう。自衛隊の安藤隊はBランクダンジョンの下層を探索できる実力がある。世間ではAランクの中層までいけるのではとも言われている。
模擬戦をした安藤隊は探索者に人気のある加藤がいるため有名だ。隊長が加藤から安藤に代わる時はニュースにもなったくらいだ。
遥はどうするか悩んでいると反対側から今度は女性の探索者がプリシラに話しかけた。
「あ…あの~」
「………何?」
「え?」
プリシラは反応した。先ほどの男性探索者は自分は無視されたのにと驚いている。
「自衛隊との模擬戦見ました! その……握手してください!」
「………ん」
右手を差し出すプリシラ。ガントレットを付けたままだったがまあいいかと思い手を出すと女性探索者は握手するというより両手でガントレットを掴んだ。
「ありがとうございます!」
「………どういたしまして」
女性探索者はお礼を言うとすぐに仲間たちの元へと戻っていった。戻っていった先には男性四名に女性三名が居た。八人パーティで潜っているようだった。戻ると嬉しそうに話している。
「なんで……俺は無視されたのに」
「あの子極度の男性嫌いなの。だからあなた達の誘いには乗れないわ。そういうことだから帰ってちょうだい」
落ち込んでいる男性探索者を見て好機が来たと言わんばかりに誘いを拒否する遥。男性探索者はガッカリしながら戻っていった。戻っていった先にいる探索隊の面々にナンパが失敗したことをいじられている。「今度は俺が行く」など聞こえてくるためプリシラをさっさとテントに入れてしまおうと遥は考えた。
「プリシラ。さっさと休みましょう。先に休んでいいわよ。私が見張りするから」
「………遥も一緒に休めばいい」
「え?」
プリシラに濡れたタオルを渡そうと思い準備していたが予想外の返答が返ってきて戸惑う遥。
「ダンジョンの中なんだからどちらか一人は見張りしないといけないでしょ。二人だからキツイけどそうしないとダメでしょ」
「………結界を張る。こんな感じに」
テントと簡易テーブルを箱で覆うように半透明の青い結界を作るプリシラ。結界が張られると外からの音もしなくなった。
「………これでいい」
「その……寝てる時も発動させてられるのね。MP……魔力は消費しないの?」
「………消費するけどダンジョンの中にいると自然回復するから大丈夫。魔力貯蓄分もあるから問題ない」
「そうなのね……でも………目立つわね」
遥の言う通りセーフエリアにいる探索者全員がこちらを見ていた。先ほどの男性探索者の探索隊の者にいたっては何名かこちらに歩いてきていた。結界前まで来ると一人が結界を触ろうとしたその瞬間に弾かれた。弾かれた男性は驚いて後ろに飛び退いた。その後に一人が無理に触り続けて膝をついた。
「触ろうとするとああなるのね」
「………だから安心して眠れる。この程度の結界を触ってるだけで膝をつく者たちには破れない」
「なるほどね……ちなみにこの結界を破れそうな魔物はスタンピードにいた?」
「………ミスリルゴーレムなら破れると思う。もっと強い結界にする?」
「それなら安心ね。体拭いて寝ましょうか。寝袋もう一つ出すわ」
テントの中に寝袋をマジックバッグから出す。テーブルでタオルを濡らして絞ったものを持ってテントに入る。
テントのチャック式の入り口を閉めて装備を外して二人で体を拭いているとプリシラが遥を押し倒した。
「…嘘でしょ?」
「………今日の分を揉んでない」
「ここダンジョンよ?」
「………結界があるから大丈夫」
「………………」
遥は諦めてされるがままに揉まれるのだった。いつも通りプリシラはおっぱいに顔を埋め幸せそうな顔をしていた。表情が変わるのはこの時くらいである。




