最後のピロートーク
「……ねえチサト、もう寝た?」
「……ん? まだ起きてるよ?」
「ちぇっ、起きてたか」
「おい、寝てたら何かしようとしてたんか?」
「んいや別に~、オーちゃんに悪戯してやろうなんて、一切思ってないよ~」
「じゃあチサトが寝るまで、絶対寝てやらんからな」
「ふふ、頑張れ~」
「んじゃあ、眠気覚ましに煙草でも吸うわ」
「ついでに私のも取って~」
*
「……なあチサト」
「……なあに?」
「……ごめんな、お前を巻き込んじゃって」
「別にいいよ、私はオーちゃんの彼女なんだから、一心同体みたいなもんだよ」
「マジで取り返しのつかないこと、しちゃったんだな。でもすべて俺の蒔いた種。罪を軽くしようと誰かのせいにしようとしても、結局責任の矛先が自分に向かう。この堂々巡りが……」
「しょうがないよ。あんまり自分を責めちゃだめ」
「本当にごめん。俺、罪の重さに耐えれる気がしない。これから死ぬまでずっと、この罪を抱えて生きていかなきゃいけないと思うと、俺……」
「オーちゃんは一人じゃないでしょう? 私がいるじゃない。だから大丈夫! 私に任せてれば、絶対楽になれるから!」
「……何をしてくれるの?」
「う~ん、とりあえずおっぱいでも揉んで、元気だしな!」
「……お尻の方がいいな」
「なーんだ、元気じゃん。ほら、揉め揉め~」
*
「……」
「どう? 黙々と揉んでるけど、満足した?」
「…ありがと、でもやっぱり息が詰まって苦しいや」
「そっか」
「……なあ、キス、してもいい?」
「オーちゃんはかわいいこと言いまちゅねえ~。いいよ、いっぱいしよ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……どしたん? なんかいつもより激しくない?」
「……いや、あまりにも胸がずきずき痛くてさ」
「……」
「なんか、俺たち二人、なす術もなく海の底に沈んでいるみたいだ。すげー眠たくて、すげー苦しくて、意識も薄まっていく中、二人でわずかな酸素を分け合いながら、何とか生き延びている感じ」
「なんだかポエミーだねえ。そんな恰好いい理由つけても、本当は私とチューしたいだけなんでしょう?」
「……」
「……ふふ、いっぱいしよっか。酸素が尽きるまで、ね?」
*
「……ねえ、チサトは、なんでそんなに優しいの?」
「……」
「……俺はチサトの優しさに甘えてたんだ。俺がいなければ、チサトは無駄な業を背負うこともなく、幸せに生きられたはずだ。自分で抱え込んで、一人どこかで死ねばよかったんだ」
「……でもそれが出来なかったから、私を巻き込んだんでしょ? 君が一人で抱え込む度胸も、一人で死ぬ意気地もなかったから。私がいないとどうしようもない人間のクセに、後悔したって今更遅いよ」
「……」
「そんな物悲しい顔すんなよ。全部自業自得なんだ。逃げたり他人に頼っても、どの道その先の運命は受け入れなきゃいけない。どうせ悪い結末なんだから、その先導は私にさせてくれよ」
「……お願い……します」
「……大丈夫。私も、同罪になるんだから」
「……?? 本当に何を……」
「ほらほら、チューするんでしょ? 早くしないと、窒息して死んじゃうよ」
*
「……」
「……ふふ、どうしたの? 舌の動きが鈍くなってるよ?」
「……ごめん、本当に眠たすぎて……」
「ね、顔見れば分かるよ。明らかに目がほっそくなってるもん」
「……」
「あはは! ちょっ、くすぐったい! 指で私の体なぞるのはやめてよ!」
「……なんか、チサトが遠くに行っちゃう気がして。ちゃんと今目の前にいるのかなって思って……」
「……安心して、私はどこにも行ったりしない」
「……」
「……だから、何も考えず、ゆっくり息を吐いて、力を抜いて。最後にキス、してあげるから」
「……うん、ありがと……」
「……」
「……チサト、おやすみ…………。大好きだよ」
「……おやすみ。私も大好きだよ、オーちゃん」
「……」
「……」
*
「……」
「……」
「……ねえ。……もう、寝た?」
「……」
「……寝ちゃったか」
「……」
「……ごめんね。でも、こうするしかなかったの。もうオーちゃんの辛そうな顔、見てらんなかったよ」
「……」
「……ふふ、君はやっぱり、寝顔が一番綺麗。穏やかで清々しくて、希望に満ち溢れてる顔。このままどこかに飾っておきたいなあ。……まあもう意味ないんだけどさ」
「……」
「……よかったね、オーちゃん。もう悩みも恐怖も、強迫も不安も感じなくていいんだよ。今までよく頑張ったね。やっと、幸せになれるね」
「……」
「……さて、私もそろそろ限界かな」
「……」
「……大丈夫、絶対オーちゃんを一人にはさせないから。その覚悟くらい、できてるから」
「……二人で堕ちよ? どこまでも、どこまでも一緒だよ?」
「……」
「……じゃあ、またね。大好き」
*
「……」
「……」
「……」
「……」
…………。




