表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双極の聖女は、滅びの空に祈らない~感情を削除された私の涙を、傷だらけの反逆者だけが受け止めた~  作者: ししのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

第16章 初期化(リセット)

 光は、音を伴わなかった。


 爆発でも、破壊でもない。

 世界を構成していた定義コードが、一行ずつ、静かに削除されていく。


【SYSTEM: SHUTDOWN PROCESS STARTED】

【進行状況:12% → 34% → 58%】

【PRIMARY CONCEPT: "完全幸福化" …… DELETED】

【SECONDARY CONCEPT: "痛みの愛" …… DELETED】

【ROLLBACK: 不可】


 ノアの掌から広がった白い光が、聖堂を満たしていた黄金の魔力を中和していく。

 金色の蔓が砂のように崩れ、拘束されていた少女たちがゆっくりと地面に降り立つ。

 光の中で、無数の声がほどけていくのが聞こえた。


【解放済み:98名】

【精神汚染:除去中】

【意識回復:順次進行】


 ――怖かった。

 ――自分で選びたかった。

 ――愛されるために、心を殺していた。


 それは悲鳴ではなく、解放された魂の吐息だった。

 個々がバラバラになり、自分自身の輪郭を取り戻していく。


「……終わるよ」


 ノアは、崩れ落ちる聖母神のコアに手を置いたまま、誰にともなく呟いた。


【ノア:魔力残量 8%】

【生命力:73%】

【状態:限界接近】


「もう、誰かの代わりに生きなくていい。……痛みも、迷いも、全部あなたのものだ」


 ドクン、と核が最後に大きく脈打った。

 眩い光が収束し、怪物の巨体が霧散する。

 その中心に、一人の女性が立っていた。

 飾り気のない白いドレスを着た、等身大のユードラだった。

 彼女の体は半透明に透け、光の粒子となって消えかけている。


【対象:ユードラ】

【状態:実体消失進行中】

【残存時間:推定 38秒】


「……ノア」


 ユードラが、震える手を伸ばした。

 ノアは避けなかった。

 その手が、ノアの頬に触れる。冷たくて、でも、どこか懐かしい感触。


「ごめんなさい。……そして、ありがとう」


 ユードラは微笑んでいた。

 支配者としてでも、狂った聖母としてでもなく。

 ただの、不器用な一人の母親として。


「あなたは、私の失敗作なんかじゃなかった」


 彼女の指が、ノアの涙を優しく拭う。

 その指先が、既に光の粒子として崩れ始めている。


「私を止めてくれる……たった一つの、希望だった」


 ノアの胸が軋んだ。

 憎かった。怖かった。でも、求めていた。

 その複雑な感情が、母の温もりと共に溶けていく。


「……さようなら、お母さん」


 ノアが告げると、ユードラは満足そうに目を閉じた。

 その唇が、最後に何かを呟く。


「――幸せに、なりなさい」


【消失:完了】


 次の瞬間、彼女の姿は光の粒子となって弾け、風に溶けて消えた。

 ノアの手のひらに、温もりだけが残った。


 パリーンッ……。


 高い音が響き渡った。

 頭上を覆っていた「偽りの青空」に亀裂が走り、ガラス細工のように砕け散ったのだ。

 破片がキラキラと降り注ぐ中、本当の空が顔を出した。

 煤けた雲。荒涼とした風。

 けれどそこには、上層の人工太陽よりも力強い、本物の朝日が昇っていた。


【SYSTEM: OFFLINE】

【管理者権限:消滅】

【世界管理プログラム:完全停止】

【世界状態:自由(FREE)】

【新しい時代:開始】


 赤い警告灯が消え、聖堂に静寂が戻る。

 世界は神を失った。

 だが、その代わりに「明日」を手に入れた。


 ノアは、瓦礫の中に立ち尽くしていた。

 勝った。終わった。

 けれど、隣にいるはずの温もりが、ない。


【心拍数:急上昇】

【感情値:……恐怖】


「……カイル?」


 ノアは、はっと我に返り、血の海に沈む少年の元へと駆け寄った。


【残された課題:1つ】

【優先度:絶対】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ