幕は下り、二人は笑い合う
「あっはっはっは!! 何あれっ! 最高なんだけど!!」
オレは屋敷に帰ってくると、堪えていた笑い声をあげた。
だってまさか王太子と義妹を「悪しきもの」に乗っ取られた者呼ばわりするとは思っていなかったから。
「もうっ! 笑いすぎですわ!」
「ごめんごめん。まさか本人に直接言ってのけるとは思わなくて。……一応聞くけど、あれ、いやみとかじゃないんだよね?」
「もちろん! わたくしなりに一生懸命考えて導き出した答えですわ!」
「あっはっはっはっは!!」
「もう! ゼノ様!!」
エレモアは赤くなって怒っていたけれど、ダメだ。笑いが収まらない。
だって建国神話になぞらえるのなら、「悪しきもの」は「国を滅ぼさんとするもの」。
つまるところエレモアは、悪しきものから国を守る立場である王族、並びにその婚約者がそんなものに乗っ取られていると言い切ったのである。
レイドやセレシアにとっては、侮辱以外の何物でもないだろう。
思わず口を滑らしてしまうほど怒ったのも納得だ。
けれど言った張本人であるエレモアには侮辱した気などないらしい。
つまり天然だ。ピュアな彼女だからこそ出た発言なのだろう。末恐ろしい。
「……でもゼノ様の反応を見る限り、わたくしまた間違えてしまったのですね」
「いや? ある意味じゃ大正解だよ」
エレモアはシュンとうなだれたけれど、すぐに否定できた。
「だってあの発言があったからこそ言質がとれたようなものだし。ああなった以上、真実を調べようとする人は大勢出てくるだろう」
常に刺激のある記事を探している新聞社や、王家に不審を抱いている貴族や国民。
あの場にはいろいろな人がいたから、いくら王族と言えどすべてを隠蔽することは不可能に近い。
そうなればいずれすべてが白日の下にさらされることになる。
「王家は今回の件の責任を追及され、厳しい目にさらされるだろう。少なくともしばらくの間はこれ以上腐ることはないはずだ。……告発するという目的は果たされたんだ。胸を張りなよ。君は見事にやりとたんだから」
「……はい」
ポンと頭に手を乗せると、エレモアは顔を赤く染めほほえんだ。
それがあまりに可愛すぎて、思わず引き寄せてしまった。
ポスンと胸に収まったエレモアは少しの間ポカンとしていたけれど、次の瞬間には湯気を出す勢いで赤く染まった。
「ゼ、ゼゼゼッゼノ様ッ!?」
「あ、ごめん。つい」
慌てて離すけれど、自分でもどうしてそんなことをしたのか分からない。
けれど今すぐエレモアを抱きしめたいと思ってしまった。
オレは気恥ずかしさを払うように咳払いをした。
「そ、それよりもさ。君、やっぱり演技すごく上手だったね。おかげで作戦を実行できた」
もう分かっていると思うが、あの劇団そのものがオレ達の作戦だった。
誰も話を聞いてくれないのなら、話を聞かざるを得ない状況を作ればいい。
ぱっと思い浮かんだのが、エレモアの演技力を活かしたやり方だった。
エレモアは家族にも恋人にも、周囲の誰にも本当の自分を悟らせなかった。
本人は不本意だったのだろうが、見事に極悪令嬢を演じ抜いていたのだ。
それなら演じるべき役をこちらで調整してあげられれば、どんな役だってできるはず。
エレモアは想像通り、みごとに憐れな少女になりきっていた。
「観客は皆、君の演技に夢中になっていたよ。君がいたからこそ成功したと言ってもいい。本当に助かったよ。ありがとう」
頭を下げると、エレモアは慌てて手を振った。
「わたくしこそ、ゼノ様には感謝しております。こんなわたくしのことを信じてくれた。話を聞いてくれた。わたくしにかけられた嫌疑を晴らそうとしてくれた……。そんな人、今までいなかった。だから」
少しだけうつむいてから顔を上げたエレモアは、晴れ渡るような笑みを浮かべていた。
「わたくしはこれからもゼノ様のお傍にいたい。あなたがどんな秘密を抱えていたとしても、一緒に背負いたい。そう思っています」
「……それが危険を伴う秘密だとしても?」
たぶん、彼女はもう理解している。
オレとこれ以上一緒にいるのが何を意味するのか。
けれどあまりに純粋な目で見てくるものだから、聞いてみたくなった。
「はい。例えあなたが王族の血を引いていて、魔法の力を持っているとしても」
エレモアは迷いなく答えた。
じっとオレの目を見つめ、笑みを浮かべる。
「……やっぱりバレてたか」
彼女の笑顔とは対照に、オレは苦笑を浮かべた。
「ええ、さすがに。だって瞬間移動なんて、魔法の力以外に考えられませんもの」
「だよね」
そう。
オレは魔法を使うことができる。
王都の会場からアルエット辺境伯領の屋敷に瞬時に移動したのも、魔法の力のおかげだ。
「ゼノ様は魔法を使われた。魔法は王家の血を継ぐ者に現れる。となれば、ゼノ様は王族の血を引いている。違いますか?」
「……普段あんなにズレた思考回路してるのに、こういうところは鋭いんだね。劇の衝撃で忘れてくれてよかったのに」
「まさか。忘れられるわけないじゃないですか」
エレモアはふと真剣な顔で見つめてきた。
「どうしてアルエット辺境伯領の領主をしているゼノ様が王家の血を継いでいるのか。今までに何があったのか。そう言ったことは、今は聞きません。いずれ話したくなったら話していただければそれでいい。だから傍にいさせてくれませんか?」
「……どうしてそんな風に言えるの?」
思わず口をついて出ていた。
だって問わずにはいられなかったから。
「君の予想通り、オレは王家の血を継いでいる。でも、現国王の血じゃない。となれば厄介なことになるのは避けられないんだよ」
遅かれ早かれ、オレの正体を探る人間が現れるだろう。
オレに期待をかけて旗印になってほしいという人も、逆に地位を追われる危険性を考えて排除しておこうとする人も。
どちらにしても危険がないとは言い切れない。
オレは覚悟していたからいい。けれどエレモアは違う。
「今ならまだ魔法で遠くに逃がしてあげられる。それなのにどうして傍にいたいなんて……」
「――だって」
オレの言葉を強い声で遮ったエレモアと目が合う。
「……わたくし、あなたのことが……好き、なんです。だから傍にいたい、です」
「…………え?」
好き?
今好きと言った?
信じられずにエレモアの顔を凝視すると、じわじわと赤くなっていくのが見えた。
「――っ!」
顔が熱い。
いや、顔だけじゃない。
全身の血が沸騰しているみたいに体中が熱い。
まさかそんな、エレモアがオレのことを……?
「ほ、本当なの?」
エレモアは潤んだ瞳のまま、意を決したようにうなずいた。
「きっと初めから……、話を聞いてくれたときからそうでした。だからわたくしはあなたの傍にいたい。……ダメ、ですか?」
「っ」
気が付いたらエレモアを抱きしめていた。
きつく、けれど優しく。
「ダメじゃない。言っただろう。娶るならちゃんと愛したいって。オレも君のことを愛してる。……君のことを思うのならどこかに逃がしてあげるべきなのに、こうして腕の中に閉じ込めてしまうくらいには」
回した腕に、手が重ねられる。
「なら、離さないでくださいませ。……離されたとしても離れるつもりはありませんが」
エレモアは意地でもここにいてやると気合を入れていた。
その様子がおかしくて笑ってしまう。
「ふふ。後半は言わなくてもいいのに。相変わらず心の声がぽろぽろしちゃうんだね」
「お嫌ですか?」
「ううん。そんな君だから惚れたんだろうなって思ってたところ」
オレは少しだけ抱きしめる腕の力を抜き、エレモアと目線を合わせる。
「オレ、決めたよ。この国を、この国の腐ったところを変えてみせる。もう二度と、君みたいな人を出さないために」
エレモアが来てくれたからこそ決断できた。
それまでのオレは嫌だ嫌だと思いながらも、根本を変えようと動くことはなかった。
大切なものを奪って行くこの国を怨んでいて、滅ぶなら滅んでしまえばいいと静観していたのだ。
でも、今は違う。
守りたいと思える人が、愛おしいと思える人が傍にいてくれる。
共にいたいと言ってくれた。
「だから隣で一緒に歩んでほしい」
「もちろん! お供いたしますわ!」
そう言えば、エレモアから抱き着かれた。
慌てて抱きかかえ、笑い合う。
自然と顔が近くなり、唇が触れ合う。
甘い、啄むようなキスだ。
けれどオレは驚くほど満たされた。
これから先、何があろうと二人ならば乗り越えられる。
そう思えるほどに――。
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