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5.減衰の命 後編

「坊主行くところは?」

「うぅん、どこにも。」

「ならば、ワシと暮らせ。貴様が暮らせるまで面倒を見てやろう。」

「うん、わかった。」

胸はすっきりとしていた。

どこまでも広がる空みたいだった。

それからの日々は猫と暮らした。

朝起きて伸びをして、顔を洗ってご飯を食べて、昼寝をして起きたら遊んで。

猫は夕方にふらっと散歩にでかけて、暗くなったら2人で丸くなって寝る。

そんな日々を繰り返していた。


「引っ越すぞ、小僧。」

「うん、わかった。」

急な提案だったが猫の言うことだ、考えがあってのことだ。

大きい街に引っ越した。

正確には街の外の小屋だけど。

今までの部屋に比べたらすごく大きい。

大の字に寝てもぶつからない。


ある日、猫が1匹の動物を小脇に抱えて帰ってきた。

「こやつも一緒に暮らすぞ。」

「わかった。」

すぐに了承した。


数日後また猫は1人の女の子を背に乗せて帰ってきた。

「今日からはこやつもだ。」

「うん、わかった。」

4人で暮らすことになった。


いつものように繰り返しの日々が過ぎたころ最初に連れてこられた動物の男の子、ティニーの体調が崩れる日々が増えていった。

「小僧よ、小童の傍にいてやってくれ。」

「うん、わかった。」

この日からいつもの繰り返しがティニーの世話に変わった。

ティニーの体調が悪い日は付き添い、体調がいい日は女の子のフェミニと3人でいつもの暮らしをする。

「アンチャ!」

「あんちゃ」

そんな毎日だった。


ある日、その日常も終わりを迎えた。

4人で丸くなって寝ていた時、フェミニの身体が緑色に輝きだした。

「うぅ…。うっ…。あああぁあぁぁ!」

叫び声に飛び起きたぼくとティニーだったが、猫は落ち着いた様子でフェミニの首根っこを掴み外へ連れていく。

ぼくはティニーを部屋に待たせてついていった。

地面にフェミニを寝かせ寄り添うように寝転ぶとフェミニのおでこを舐め始めた。

「小僧、それ以上近づくではないぞ?」

いつものおちゃらけた口調ではなく、ぼくに真実を伝えたあの時の口調。

ぼくの心はピクリと跳ねて1歩前に出た。

フェミニの身体から発した輝きは次第に増していく。

それに比例してフェミニの呼吸も荒くなっていく。

「がぁっ!」

フェミニの叫びとともに緑色の輝きは急速に拡大した。

飲み込まれる。

咄嗟に両腕で顔を覆う。

ぼくの左手に緑色の光が触れる。

じゅっと肌が焼ける痛みが走る。

身体をのけぞらせたときに気づいた。

ぼくがさっきいた場所までしか光は広がっていない。

左手の痛みにハッとして猫を見る。

傍にいる猫が無事なわけがない。

「ねこさんっ!」

ぼくの声に耳をピクリと動かしていつものようにのそりと立ち上がる。

ぷにゅん!

両手を叩き合わせた途端、フェミニから溢れた光は一つの塊となり彼方へ飛んで行った。

直後、凄まじい音ともに緑色の光の柱が空へ上っていった。

吹き飛ばされそうな風に耐えてねこさんを見たときびっくりした。

身体のあちこちが焦げて血が流れている。

あの景色がフラッシュバックする。

「小僧、アンチャよ。」

ねこさんがぼくに語りかける。

「アンチャよ、一度しか言わない。よく聞いておくれ。ワシはワシの生を全うした。使命を果たせたのだ。最後に君にお願いしたい。」

「は、はい。」

「君の力で、君たちの記憶からワシの記憶を消しておくれ。」

胸の鼓動が早くなる。

「ワシはこのまま街の王に裁かれるだろう。国の外れが吹き飛ぶほどの威力だ。御咎めなしとはいかない。だがこれは君たちには全く関係のないことだ。君たちの誰の所為でもない。」

気が付いたらねこさんに抱き着いていた。

「なぁ、すまないが頼むよ。」

ねこさんの額がぼくの額に重なる。

「ぼく…は望む。みんなの…ねこさんの記憶を…なかったことに。」

震える声で願った黒い霧はぼくの左手を消していった。

「なんで…、なんで、ねこさん…。ぼく…ぼく。」

「アンチャ、ワシは君に酷いことをした。ワシにできることは君が壊れないように誘導することだけだった。だが、それを失くすことは君の生にとって損失だ。君はもうあの時の君とは違う。君と過ごせて楽しかった。ありがとう。」

街の方が騒がしくなってきた。

「さぁ、フェミニを連れて家にお戻り。ティニーのこともよろしく頼む。」

離れた額の先でねこさんと目が合う。

ねこさんはにっこりと笑った。

「君たちも幸せになりなさい。必ず君たちを幸せにしてくれる方々に会える。大丈夫だ。ワシの言葉を信じておくれ。」

「うん…!うん…!」

こうしてフェミニとティニーからねこさんの記憶は消えた。

ぼくは望めなかった。

ぼくの生にとって大事な記憶だから。


さよなら、ぼくにとっての父さんであり、母さんであった人。

ぼくたちはちゃんと幸せになるよ。見ててね。


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