3.減衰の命 前編
ぼくが産まれたのはいたって普通の平民の家だったと思う。
農業を営む父親と縫物が趣味の母親。
決して裕福ではなかったけど平和な時間がずっと続くと思ってた。
でも、あのスキルが全てを奪ったんだ。
あの日は、ぼくの10歳の誕生日だったと思う。
いつも通り近所の友達と遊んでいた。
西の空が茜色に染まってきたから、またねと言って家に帰るところだった。
家が見えてきたころ、畑から帰る父親の後ろ姿が見えたんだ。
「父さん!」
ぼくのかけた声に振り返った父は笑顔でぼくに手を振ってくれた。
ぼくは父親のところに駆け出した。
周りを見ずに走ったぼくは気づかなかったんだ。
横から近づいてくる貴族様の馬車に。
「アンチャっ!」
父親の叫び声に気づいた時にはぼくは突き飛ばされていた。
馬車に轢かれた父親に。
「父…さん?」
道端に飛ばされうつぶせのまま動かない父親のところにぼくは這って近づいた。
父親の身体からは赤い液体が広がっていった。
すると後ろに人がたった気配がして、振り向いたら貴族様が立っていた。
「平民ごときが。邪魔をしおって。」
貴族様はそれだけ言って、馬車へ戻っていこうとしてしまった。
ぼくは貴族様の足にしがみついてお願いした。
「助けてください!父さんが!おねg」
何が起きたか分からないけれどぼくは父親の横に転がっていた。
身体にうまく力が入らなくて動けなくなった。
このままじゃ父親は死んでしまう。
だからぼくは願った。
“父さんを助けてください”
その時、ぼくの視界に黒い靄がかかりぼくは意識を落とした。
・スキル顕現を確認
〈減衰の命〉
目が覚めると見慣れた天井が見えた。
ぼくの部屋だった。
あれは夢だったんだ。
そんな風に思ったぼくだけど違和感に気づいてしまった。
左目が見えない。
その事実に慌てて飛び起きて居間に走った。
居間のソファの隅に座る母親に声をかけた。
「母さん!目が!左目が!」
ぼくの声にゆっくりとこちらに振り向く母親の顔はひどく憔悴していた。
「アンチャ、お前、覚えていないのかい?」
「えっ…?」
「お前が、何をしたのか、覚えていないのかい!!?」
声を荒げる母にびっくりして固まってしまった。
「お前が、お前が父さんに呪いをかけたんだろう!!?」
「の、呪いって…?」
母親の横に横たわる父親の姿が目に入った。
ぐったりとしていて、母親の大声に身動ぎ一つしない。
「お貴族様が父さんを抱えて事情を話してくれたよ。お前が黒い力で父さんを呪ったって。傷の一つもないのに1週間経っても目を覚まさない。」
「そんなこと…してない。」
「なら!お前の左目はなんだ!それが呪いの力の代償じゃないのかい!?」
違和感の原因も父親の容態も、そんな風に母親に伝わっていることが信じられなかった。
「違う…。違うよ。ぼくじゃない…。貴族様が…。」
「嘘をつくなっ!!」
「違う…。嘘じゃない!信じてよっ。」
「…もうすぐお貴族様が見舞いに来てくれる。反省しないお前はお貴族様に預ける予定さ。」
「えっ…。」
ぼくは絶望した。
身体の震えが止まらない。
「父さんも目を覚まさない。自分の子が実の父親を呪った。私はどうしたらいいというんだい。疲れたよ、もう…。」
母親のぼくを見る目には何の感情もなかった。
ぼくのことをなんとも思わないそんな瞳。




