1-7
街を出て、次の未修正エリアへ向かう道は、ひどく静かだった。
さっきまでの出来事が、頭の中で何度も反芻される。
少年の涙。
制限という選択。
戻った街の色。
「……」
無意識に、胸元をぎゅっと掴んだ。
「考えすぎだぞ」
少し前を歩いていたロイが、振り返らずに言う。
「慣れるなって言ったろ。考えるくらいでちょうどいい」
「……慣れないよ」
小さく返すと、ロイはそれ以上何も言わなかった。
草原は続いている。
どこまでも、どこまでも。
そのときだった。
――きゅう。
かすかな、掠れた鳴き声。
「……今、聞こえた?」
立ち止まると、ロイも足を止めた。
「ああ」
声のする方へ近づく。
倒れた木の根元。
影の中で、小さな動物が丸くなっていた。
灰色の毛。
震える身体。
後ろ足が、不自然な角度に曲がっている。
「……っ」
胸が、きゅっと締めつけられた。
エンパシーが、感情を拾う。
――痛い。
――怖い。
――逃げたい。
でもそれ以上に、
助けて、という感情が、まっすぐだった。
「大丈夫……?」
問いかける声は、震えていた。
考える前に、体が動く。
そっと、その小さな身体に触れた瞬間。
世界が――光に包まれた。
まばゆくて、温かくて。
怖さよりも、安心が先に来る。
風が止まり、
音が消え、
ただ、光だけがそこにあった。
「……」
光が引いたとき。
動物は、ゆっくりと立ち上がっていた。
歪んでいた足は、もう真っ直ぐで。
試すように一歩、二歩と歩く。
そして一度だけ、こちらを振り返った。
――ありがとう。
言葉はなかったのに、
確かに、そう伝わった。
次の瞬間、草原の向こうへと駆けていく。
残されたのは、
風に揺れる草と、私の手の温度。
「……え?」
自分の手を見る。
何も、特別なことはしていない。
触っただけだ。
「ノア」
ロイの声は、低かった。
振り返ると、
彼は珍しく、言葉を探しているようだった。
「……お前、今……」
そこで、口を閉じる。
言わない。
言えない。
「なに……?」
問いかけても、ロイは首を横に振った。
「今はいい」
そう言って、少しだけ視線を逸らす。
「でも覚えとけ。今のは……修正じゃねえ」
胸が、どくんと鳴った。
「じゃあ、なに?」
「さあな」
ロイは、いつもの軽い調子に戻る。
「世界が、お前に触れたんじゃねえの?」
《※進行率:8%》
文字が、静かに浮かんで消えた。
街に入ってもいないのに。
私は、草原の向こうを見つめた。
この世界は、未完成。
だけど今、
確かに生きている何かに触れた気がした。
あけましておめでとうございます。投稿が遅れてしまいましたね。風邪ひいて寝込んでました……。申し訳ないです。
さて、今回はエリアの修正でありませんでしたね。ノアの能力の正体はいったい何なのでしょうか。次回もお楽しみに。
※今週は諸事情により投稿が不定期になります。




