1-6
翌日。
街の色は、また少し薄くなっていた。
昨日まで聞こえていた笑い声が、減っている。
人は歩いているのに、影がない。
「……進んでる」
悪い方に。
エンパシーが、容赦なく感情を拾う。
苦しい。
不安。
期待。
そして――罪悪感。
胸が痛くて、張り裂けそうで。
握った拳に力が入る。
「ノア」
ロイが、珍しく真面目な顔で呼んだ。
「これ以上放置すると、この街は完成しない」
「完成しない?」
「未完成のまま、固定される」
それはつまり。
「……永遠に、ここで止まる?」
「そう」
胸が、きゅっと締めつけられた。
ロイは多分、今日放置してしまったら、この街は壊れたままだと言いたいのだろう。
誰も救えない。
それだけは、嫌だ。
それから、無言のままひたすらに街を歩いた。
たどり着いたのは教会だ。
入ると、少年はそこにいた。
昨日と同じ場所。
同じ笑顔。
でも、感情は――少し、弱くなっている。
「来てくれたんだ」
「……ねえ」
私は、まっすぐ彼を見る。
「もし、この世界が壊れるとして」
小さく息を吸う。
「君の想いが、原因だって言われたら?」
少年は、少しだけ黙った。
それから、静かに言った。
「……分かってる」
「じゃあどうして」
「怖いんだ」
声が、震えた。
「誰かがいなくなるのが」
「誰かに選ばれなくなるのが」
「それでも」
彼は、笑った。
「この想いだけは、消したくない」
――それが答えだった。
《※修正選択を開始》
文字が浮かぶ。
《※感情を制限しますか》
《YES/NO》
「……ロイ」
「聞くな」
即答。
「選ぶのは、お前だ」
私は、深呼吸した。
余白が、見える。
彼の感情が、世界を埋め尽くしている。
逃げ道がない。
どうするのが正しい答え?
彼の想いを無駄にできない……
「ノア。お前はどうしたいんだ」
「私は……」
この街を救いたいでも、この子の感情は抑えたくない。
「お姉さん」
少年が近寄ってきた。
「僕はね。みんなに幸せになってほしいだけなの」
その思いが強すぎたのかもしれない。
そうやって屈託のない笑顔を向けた。
「お姉さん。僕は感情のコントロールを知らない。だから……」
制限して。
彼の頬につぅっと一筋の涙が伝った。
目をつぶり心を落ち着ける。
「……制限する」
声は、震えなかった。
《※修正の実行》
風が吹いた。
強く、でも優しく。
少年の感情が、少しずつほどけていく。
「……あ」
彼は、胸を押さえた。
「軽い……」
「好きだった気持ちは、消えてない」
私は言う。
「独りで抱える重さじゃない」
街に、色が戻る。
人の声が、影が、温度が。
《※進行率:7%》
少年は、少し困ったように笑った。
「……君って、残酷だね」
「……ごめんね」
「でも」
彼は、目を伏せて言った。
「ありがとう」
それだけで、十分だった。
街を出ると、ロイがいた。
「初めてだな」
「なにが」
「自分が傷つく選択」
私は、空を見上げた。
「……これ、慣れない」
「慣れなくていい」
ロイは言った。
「慣れたら、多分……壊れる」
《※次の未修正エリアを検知》
《※対象:感情“後悔”】【規模:中】
私は、静かに息を吐いた。
この世界は、未完成。
そして。
正すことは、いつだって――優しくない。
無事、解決できましたね。良かったです。次の街ではどんなことが起こるのでしょうか。お楽しみに。
今日の投稿は遅くなってしまってすみませんでした!
第七話は年が明けてから投稿します。ぜひ読んでくださいね。
ではみなさん、よいお年を!




