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「……たすけて」
確かに聞こえた。
耳じゃない。
頭でもない。
胸の奥に、直接流れ込んでくる感じ。
何かの勘違いってわけでもなさそうだし、説明もない。
勘を使うしかないな!
《※行動を確認》
ん?
《※チュートリアルを省略》
「え、待って!?チュートリアルはほしい!」
《※仕様だ》
「仕様万能説やめて!」
突っ込みつつも、足は止まらない。
どこだろう。
ふと、何かを感じた気がした。
「ここ……?」
そこには、壊れかけの噴水があった。
水は途中で止まり、空中で凍ったみたいに固まっている。
そのそばに――少女がいた。
年は、小学生ぐらい。
泣き顔のまま、微動だにしない。
「……NPC、じゃないよね」
近づいた瞬間、感情が一気に流れ込んできた。
怖い。
置いていかないで。
分からない。
どうして止まったの?
胸が、ぎゅっと痛くなる。
「……時間が、止まってる?」
《※未修正エラー》
文字が浮かぶ。
《※感情データが処理できていません》
「感情、データ……」
つまり。
この子は、強い感情を抱えたまま、世界の処理が追いつかなかった。
――未完成だから?
「……じゃあ」
私は、そっと手を伸ばした。
触れた瞬間、頭の中に映像が流れ込む。
見える景色が変わった。
街が崩れる。
人が逃げる。
助けを呼ぶ声。
そして――誰も来なかった。
孤独。
それが分かったとき映像は静かに止まり目の前の少女が鮮明に見えた。
「……一人に、されたんだ」
無意識に、声が漏れる。
感情理解。
この子の心が、はっきり分かる。
「大丈夫」
怖かったよね。
私は、少女の目を見て言った。
「ここにいるよ」
言葉にした瞬間。
――ぱきっ。
空気に、音が走る。
少女の体が、ゆっくり動いた。
「……あ」
瞬きをして、私を見る。
「……だれ?」
「ノア。通りすがりの……修正係?」
自分で言ってて意味が分からない。
でも、少女は小さく笑った。
「……ありがとう」
次の瞬間。
街の色が、戻った。
止まっていた噴水が音を立てて流れ出す。
建物の欠けていた部分が、少しずつ補完されていく。
《※エラー修正完了》
《※進行率:1%》
「……1%!?」
少なすぎない!?
でも。
少女は、ちゃんと生きてそこにいた。
「……動く」
世界が、動いてる。
「なるほどね」
私は、息を整える。
この世界は未完成。
そして私は――
感情を理解し、
世界の余白を見つけ、
そこを埋める存在。
「勇者でも、救世主でもないけど」
少なくとも。
「放置はできない性分なんだよね」
そのとき。
「よー、もう1%か」
聞き覚えのある声。
振り向くと、ロイが壁に寄りかかっていた。
「成長遅いなー」
「うるさい!説明しなさいよ!」
「やだ」
即答!?
「ま、でも一つだけ言っとく」
ロイは、少しだけ真面目な顔になる。
「この世界、感情で壊れてる」
「……感情?」
感情で壊れるなんて本当にある話だろうか。
「未完成なまま、人の心だけ先に生まれちまった」
強くて大きな感情が。
それが大きくなって制御できなくなったから。
この世界は止まった。
全てじゃなく、一部分が。
人は一人じゃない。
だから。
「修正するたび、選択を迫られるぞ」
嫌な予感しかしない。
「選択?」
ロイは、にやっと笑った。
「誰の感情を優先するか、だ」
――その瞬間。
遠くで、また違和感が膨れ上がった。
もっと強い。
もっと深い。
そして――少し、甘い。
「……次、恋愛絡み?」
「さあな」
ロイは肩をすくめる。
「でもまあ、感情が一番厄介なのは――恋だろ」
私は、ため息をついた。
「先が思いやられる……」
こうして。
未完成世界の修正は、
想像以上に面倒で、
そして少しだけ、胸が痛むものになっていく。
後書きなんてものがあるなんて便利ですね。
さて、一つの修正の成し遂げたノア。次に待ち受けるのはどんな感情でしょうね。
1‐4は12月28日、午後9時に投稿予定です。ぜひご覧ください。




