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「……いや、雑すぎない?」
説明不足にもほどがあるだろう。
世界を正せと言われても、あろうことか私は一般人なのだ。
それにこの世界の事何も知らないときた。
とりあえず深呼吸をして、もう一度周囲を見渡す。
相変わらずの大草原。
どこまでも続く緑。
風は気持ちいいし、空は完璧に青い。
……完璧すぎる。
「作り物感、すご」
雲ひとつない空って、逆に不自然じゃない?
地面を踏むと、ちゃんと感触はある。
でもどこか軽い気がした。
そのときだ。
――ぞっ。
背筋がピンと伸びるのを感じた。
「……なに?」
怖いとかじゃない。
何かをとらえたわけじゃないのに。
言葉にしづらい、曖昧な感覚。
もしかして、
「……これが、感情理解?」
感情理解。
さっきロイが言ってたスキル。
私はゆっくり、前方を見る。
草原の先。
何もないはずの場所に――
違和感があった。
そこだけ、空気が沈んでいる。
それに、たくさんの感情が入り交じったような。
色も薄い。
存在しているのに、存在していないみたいな場所。
「……余白認識」
つぶやいてみた。
何か見えるはず……
あそこだ。
何かが抜け落ちている場所。
足が、自然とそちらへ向かう。
近づくにつれ、胸がきゅっと締めつけられる。
不安、焦り、恐怖。
誰かの感情が、そこに溜まっている。
「この世界の……バグ?」
そう呟いた瞬間。
――ぐにゃり。
景色が歪んだ。
「うわっ!?」
足元が抜ける感覚。
世界が一瞬、裏返る。
気づいたときには、私は草原ではない場所に立っていた。
石造りの街。
……ただし。
建物は途中までしか存在していない。
壁だけで屋根がない家。
扉だけあって、中身がない店。
それだけならおかしくなかったはずなのだ。
でも……
「……人が、いる」
けれど、動かない。
笑ったまま止まっている人。
泣いた表情のまま固まっている子ども。
胸が、またざわつく。
強い感情が、溢れ出してくる。
「ここ……未完成エリアの中?」
《※ようこそ》
また文字が浮かんだ。
《※修正対象を確認しました》
「確認って……」
《※あなたは、この世界の誤りに気づける存在》
《※気づいたなら、直すのがあなたの役目》
「やく、め、?」
《※未完成を完成に変える、それが役目だ》
「だから!どうやって!」
返事はない。
代わりに、目の前の空間に――
ひび割れのような光が走った。
そして、誰かの声。
「……たすけて」
かすれた、小さな声。
私は、迷わず一歩踏み出した。
「……分かったよ」
どうやるかなんて、まだ分からない。
でも。
この世界が未完成で。
誰かの感情が、ここに取り残されているなら。
「とりあえず、放っておけないでしょ」
そうだ。
私は転生者。
しかも――間違った世界線に来た転生者。
だったら。
「この世界、完成させてやろうじゃん」
小さく笑って、前を向く。
――未完成世界の修正作業、開始。




