【ツッコミどころ満載ヒューマンドラマ】 友情は永遠に金の切れ目まで
金福満造は金持ちである。
芦屋の高級住宅地に別荘を持ち、神戸の真ん中にオフィスビルを持ち、全国チェーンの焼肉店を展開し、六甲山に犬牧場を開いている。
しかし彼の生い立ちは苦労を重ねてきたものであった。
明石の糀屋に勤めていた父はなりすまし詐欺に遭って明石大橋の上から身を投げた。
熱狂的な阪神ファンだった母は甲子園球場で中日ファンと殺し合いの乱闘に巻き込まれ、トラッキーとドアラに看取られて昇天した。
15歳の時、人生ヤケになって不良グループに入り、盗んだバイクで走っていたちょうどそこへ大震災が起こり、地割れに呑まれて死んだと思った時のことだった──
「あぶなーーーいっ!」
大型トラックの運ちゃんが、地の底へと落ちかける彼を跳ね飛ばした。
突き飛ばして助けるつもりで、彼を30メートル吹っ飛ばした。
地の底に落ちていたら助からなかったであろう。
しかし、大型トラックに轢かれれば、転生ができる。
満造はラッキー続きの人生へと転生したのだ。
パチンコを打てば毎回のように20万円以上勝った。
株を買えばその会社が世界を変えるほどの新商品を開発し、満造は神と呼ばれるようになった。
始めた事業はことごとく成功し、不景気の日本の中でまるで彼だけがバブルの時代を生きているかのようだった。
満造はかくして大金持ちになった。
しかしその心は満たされてはいなかった。
周りの者が皆、彼のことを金力と地位だけで評価しているのが寂しかった。
彼はしばしば子どもの頃を思い出す。
糀屋の息子だった頃、親友と呼べる子が近所にいた。
毎日彼と表でカンフーの技を繰り出しあって遊んでいた。
満造は酔拳、彼は蛇拳の使い手だった。
必殺技の応酬が楽しかった。
拳や蹴りを触れ合わせながら、心を触れ合わせている感覚があった。
あの頃のように、裸の自分を愛してくれる友はもう、いないのか──
「おい、金福満造」
突然、社長室のドアがカチャッと開いた。
「金貸してくれ。パチスロで400万の借金作っちまったんだ」
入ってきた男──彼こそその昔、カンフーを戦わせた友、瓶坊孝太郎であった。
五十歳を間近にした二人には、もう昔のように素速い動きはできない。
ジャッキー・チェンのように毎日鍛えているわけではないのだから。
しかし、二人の友情は永遠であった。
孝太郎といる時だけ、満造は童心に返ることができるのだ。
「これを借金返済に充ててくれ」
満造はにっこり笑うと、ぽんと400万円を渡した。
世界の恵まれない子を救うよりも、満造には孝太郎を救うことのほうが大事なのだ。
たとえ孝太郎の目当てが金でしかないとわかっていても──




