07.台風
風が吹いて来た。
◇
いつもの風と少し違う。
何だろう。
何かとても大きな生き物が息をつくように、風は強くなったり弱まったりを繰り返す。
そして、空が黄色い。
◇
「台風」
「直撃」
「昼前」
人間達は口々にそういいながら、忙しそうに動き回っている。
私達は、いつも通り餌場に通う。中には、遠くまで餌を探しにいく蜂もいる。
風がまた強くなって来た。
私は今日は外回り。
餌場との往復を繰り返す。幼虫が増えて来たから、最近は外回りが忙しい。今日のご飯はアブラハヤだ。何度も肉団子を作っては巣に運ぶ。
風が強くなり、巣の出入りの時に風に流されるようになって来た。でも、今日の私達は何だか興奮していて、風なんか関係ないかのように、次々と入り口から飛び立って行く。雷鳴は聞こえないけど、私達の触角は、空気の中に何かピリピリしたものを感じている。
遠くまで出掛けていた蜂が帰って来た。
「ずいぶん早いじゃない。」
「上空はすごい風よ!今日はもうやめといた方がいいわ。行ったら死ぬわよ!」
◇
「戻っておいでー!今日はもう出ないの!行っては駄目!!」
奥から女王の声がする。でも、興奮した蜂達は次々と巣から飛び立って行く。
女王がこんな事を言うのは只事じゃない。私は今日はこれ以上出ないことにした。
この日、風が強まってから巣を出た蜂は、ほとんどが戻って来なかった。
女王は知ってたんだ。このおかしな風が吹く日に外に出ると、帰って来れなくなることを。
◇
人間がやってきた。
人間は、私達の巣箱を車庫の中に運び入れて、入り口に網を張って出られないようにした。車庫のシャッターは、戻って来る蜂のために、少しだけ開けて置かれた。
そして、巣箱を軽く何度も叩いた。興奮していた蜂達も、音と振動に驚いて、外に出ることを諦めた。
暫くすると、僅かな数の蜂が外から戻って来た。
◇
風がシャッターを叩く音。
不安げに音程が変わる、笛のような風鳴り。
時折、物がぶつかる音がする。
そして、息をつくように強さが変わる、雨音。
雷鳴は、不思議なくらい聞こえない。
ただ、雨と風だけがそこにある。
みんな、巣の中で息を潜める。
◇
夕方になって、雨も風も収まった。
人間がやって来て、車庫のシャッターを開ける。
巣箱が元の場所に戻され、入り口を塞いでた金網が取り払われた。
恐る恐る、外に出てみる。
外はもう晴れていた。
でも、餌場のアブラハヤは仕舞い込まれたままだ。人間達は忙しそうに動き回って、物を片付けたりしている。もう夕方だし、蜂の世話は後回しなのだろう。
幼虫達はお腹を空かせているけど、まあ、仕方ないよね。また明日ね。
◇
あのおかしな風は、「台風」と言うらしい。
人間達がそう言っていた。




