04. V.S.オオカマキリ
ある朝、そいつはやって来た。
◇
大きな緑色の体。
長い4本の後脚。
真っ直ぐな長い首。
良く動く三角の頭。
たくさんのギザギザがついた鎌みたいな前脚。
オオカマキリだ。
女王の話だと、前にも来たことがあるそうだ。
その時は一週間続けて巣に通われて、全部で30匹以上喰われたらしい。
こいつは、来たらまず巣の入り口の前に陣取る。
そして、巣から出て来る蜂と、巣に入る蜂を両方狙う。飛んでる最中だったらこんなやつに絶対捕まりっこないんだけど、離陸と着陸の時だけは、どうしてもスピードか落ちるから、そこを狙われる。
こいつ、鈍臭そうに見えるでしょ?だけど、鎌を振り回す時だけは素早いんだ。
だから、こいつがいる間は、巣の出入りが難しくなる。幼虫の数が増えた今の時期に、こいつに何日も通われると大損害だ。働き蜂が捕まって食べられるのも大事だけど、巣と餌場を往復できなくなるのも痛い。
◇
その日は、私は外回りの予定だった。
だから早く外に出たいんだけど、こいつのせいで出るに出られない。
「ジラー。」
女王に呼ばれた。
「なにー?今ちょっと大変なのよ。」
「カマキリ来てるんでしょ。」
分かるんだ。
「あいつらしつこいからねー。私も昔見たことあるよー。」
「雌蜂だった時に?」
「そうよー、あいつのせいで『巣別れ』が遅れたの。出られなかったからねー。」
女王にも、そんなことがあったんだ。
「ジラー。」
「はい。」
「後ろから近づきな。」
「え?」
女王が戦術のアドバイスをくれる。
「とにかくなんとか巣から出たら、あいつが蜂を食べてる隙に後ろに回って。」
「ひ。」
「怖がったら負けよー。」
今、このひとが一番冷静かもしれない。
「後ろに回ったら地面に降りるの。で、あいつが羽を開いた隙に、腹に飛び乗っちゃいな。」
「あいつは羽の上に蜂が乗ったら、羽を開いて振り落とそうとするから、その隙に乗るの。」
「うん。」
「乗れたらこっちのもんよー。そしたら首(ほんとは胸だけど)の付け根まで行って、羽を根元から切り落としちゃいな。」
「‥‥‥。」
「あとは、あの長い首を登って、頭を切り落としな。それであんたの勝ち。」
「えー‥‥、うまくいくかな。」
「あいつらはね、鎌を後ろには振れないの。」
そうか。
「笑いなジラー。こういう時は笑うの。笑えば力も湧いてくるさー。」
女王が大あごをカチカチ鳴らす。私も真似して鳴らす。
うん、力が湧いてきた‥‥‥かもしれない。多分気のせいだけど。
「いってきます!」
◇
巣の入り口は上下が狭くて横に細長い。その端っこから覗いて、あいつの様子をうかがう。
誰かが食べられてる。怖いよ。でもチャンスだ。
巣を飛び出す。
一度高く飛んでから、あいつの背後に回り、言われた通り地面に降りる。
あいつは私に気づいていない。歩いて近づく。
誰かが羽の上に降りた。あいつは羽を開いて振り落とそうとする。
今だ。
腹に飛び乗って、急いで上に登る。
羽で叩かれても、内側なら割と平気だ。首の付け根まで登って羽を切り落とす。
あいつは驚いてあたふたと歩き回る。でもこれくらいでは振り落とされない。大丈夫。いける。
首を登って頭のところを目指す。女王が言ったとおり、こいつの鎌は後ろには届かない。
頭を切り落とした。
こいつはまだ動いてるけど、頭が無いから、もう食べられる心配はない。ここで他の蜂たちも一斉に襲い掛かる。そして、みんなで肉団子にしてやった。
◇
勝った。
私たちクロスズメバチは、強くない。はっきり言うと、弱い。スズメバチ類の中では最弱だろう。
だから、オオカマキリには絶対勝てないと思っていた。
でも、うまくやれば勝てないことはないんだ。それが分かったのが嬉しかった。
あと、女王すごい。
おみそれしました。
餌場の砂糖持ってきたから食べてね。




