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ヘボ戦記  作者: 蘭鍾馗


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13/13

終話.山茶花の花の上で

 ある朝、女王が動かなくなっていた。


 ◇


 巣の中を満たしていた、優しい女王の匂いが消えていた。

 女王が死んだ。

 私達は、どうして良いか分からなかった。


「女王死んじゃった。」

「死んじゃったね。」

「もうお世話しなくていいのね。」

「でも、まだ幼虫達がいるわ。」


 ◇


 女王が死んだらどうすればいいか、私達の本能には何も書き込まれてはいない。ここで、私達働き蜂が何をした所で、もう巣の運命は変わらない。

 だから、神様は、ここから先のプログラムを書かなかった。


 女王の出す匂いで抑え込まれていた、働き蜂の繁殖能力は解放され、そのまま生きて居られれば私達は卵を産めるようになるけど、生まれてくるのは雄蜂だけ。女王が早死にしてしまった巣からは、こうして大量の雄蜂が羽化して飛んでいくことがあるけど、私達にはそれはもう遅い。

 越冬出来ない私達は、女王の統制が解けたら、皆バラバラに何処かへ飛んで行き、それぞれの場所で最後の刻を迎えるだけ。

 それが、十月生まれの働き蜂の運命。


 でも、私たちを待っていたのは、それとは少し違った運命だった。そう。これから始まるのは、


 悪い夢。


 ◇


 突然、巣箱が持ち上げられた。


 何処かへ持って行かれる。

 そして、「ドン」という軽い衝撃を感じた。

 蜂達は、怯えて巣の中に閉じこもった。


 何かが唸るような音がして、巣箱が揺れ始めた。

 何処かへ運ばれている、それだけは分かった。


 暫くこうして揺られた後、唸る音は止まり、巣箱がまた持ち上げられた。

 大勢の人の声。沢山の他の巣の匂い。何だろう?

 

 ◇


「これより、ヘボ祭りを開催致します!」



 不思議な響きの、とても大きな人の声。

 それを合図に、辺りは騒がしくなった。

 人間達はここで、一年かけて育てたヘボの巣を持ち寄り、その重さを競う。そして、巣は売りに出され、人はそれを買って、中の蜂の子を食べるのだ。


 ◇


 暫くすると、また巣箱が持ち上げられ、何かの上に置かれた。巣箱が開けられ、眩しい日差しが見えたと思った次の瞬間、上から白い煙を浴びせられた。


 私は急いで逃げた。ギリギリのタイミングだったけと、煙からは逃れられた。

 煙は上に行く。

 下へ逃げよう。


 ビニールハウスの壁伝いに低く飛んで隙間を探す。

 あった。そこから外に出る。

 女王、やったよ。外に出られた。


 高く飛ぶ。そこから、ゆっくりと高度を下げて、止まる所を探す。


 あ、うっかり人の手に止まっちゃった。


 その人は、私を振り払うことなく、顔を近づけて私を観察している。そして、ジュースの滴がついたストローを私に近づけた。私はそれを飲んだ。


 人は残酷だった。

 人は優しかった。


 ありがとう。行くね。


 ◇


 それから、里の中をひとしきり飛び回った。

 これが、女王の言ってた「自由」。


 何をしてもいい。

 何もしなくてもいい。


 そして、お腹がすいた。

 山茶花の花を見つけた。

 止まって蜜を吸う。

 そのうちに、眠くなって来た。



 …………




 ふと目を覚ますと、辺りは暗くなり始めていた。


 横にオオスズメバチがいる!

 飛んで逃げようとして、飛べなくなっているのに気づいた。

 ああ、寿命だ。ここで死ぬんだ。


 良く見ると、オオスズメバチは小さく震えている。

 襲ってくる様子はない。


 そうか。

 あんたも巣を無くしたのね。

 最期の食事が、オオスズメバチと一緒だなんてね。


 そして、何も分からなくなった。


 ◇


 その日の晩、季節外れの雪が降った。


 翌朝、ピンクの山茶花の花の上で、オオスズメバチとクロスズメバチが、並んで雪を被って死んでいるのを、何人かの人が見たという。



 ジラ達の物語が、静かに終わった。


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― 新着の感想 ―
人は残酷だった。 人は優しかった。 その単純な二行がなんだかとても言い得て妙で胸に沁みますね。 ジラの最期がオオスズメバチと同じ、というところ、同じように巣を守るために戦った同士である、そして守るべき…
毎回興味深く読ませていただきました。 完結ありがとうございました。
2026/01/03 23:39 佐々木メリー
1年サイクルの生の虫ってこんな感じなんだと。悲しいけど生きるってこういう事なんだなと。
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