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ヘボ戦記  作者: 蘭鍾馗


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12/13

12.巣別れ

「雄蜂が出てきたな。」


 ◇


「もう取り時だ。」

「うかうかしとると、食べるとこ無くなるぞ。」

「でも『祭り』はまだ先だぞ。」


 人間達が、巣の前で何やら話し込んでいる。

 私達は、いつも通り、餌場と巣の間を往復して幼虫を育てる。女王の世話をする。


 ◇


 やがて、雌蜂の巣盤は、その部屋の幾つかが糸で閉じられはじめた。

 そして、新女王となる雌蜂の、最初の一匹が羽化してきた。


 働き蜂より明らかに大きな艶のある体。立派な成虫だ。

 羽化した雌蜂は、羽が伸びるのを静かに待っている。

 そして、暫くの間、巣の中で成熟するのを待つ。

 それは、近親交配を避けるために、彼女達に課された短いモラトリアム。


 ◇


「大きい。」

「大きいね、立派だわ。」

「ぴかぴかね。」

「この子も巣から出たら、もう戻ってこないのね。」

「雌蜂だからね。」

「新女王になるのよ。」


 やがて飛び立つ時が来るのを静かに待っている、私達の大きく立派な綿毛。

 それは、育てた私達の誇りでもある。

 それを見ている私たちは、ただ単純に嬉しかった。

 誇らしかった。


 ◇


「巣別れ」


 新女王となるために、雌蜂が巣から旅立つことを、特別にこう呼ぶ。

 雌蜂は、巣から飛び立つと、もう巣には戻らない。

 そして、まっすぐに飛んで行く。


 飛んで行く先には、他の巣から出てきて、木の上で群れを作っている雄蜂がいる。

 雌蜂は、木の上で群れを作っている雄蜂の中へと入って行く。

 そして、その中の一匹と、木の葉の上で交尾をする。

 これを「葉上交尾」と言う。


 やがて、葉上交尾が終わった新女王は、どこかへ飛び去ってゆく。

 そして、落ち葉の中や枯れ木の隙間等に入り、次の春までの冬眠に入る。

 交尾を終え、役割がなくなった雄蜂は、やがてどこかで、その短い生涯を終える。

 こうして、ヘボ達の命は、次の世代へとつながってゆくのだ。


 ◇


 最初の雌蜂が、旅立っていった。


 そして、次の雌蜂が羽化する。

 秋の終わり、最大の大きさに達した巣の最後のイベント、巣別れが始まった。

 命の次のサイクルが、静かに回り始めた。


 女王は、全ての仕事を終えた。


 おしゃべりで冗談が好きだった女王が、何もしゃべらなくなった。

 女王の匂いが、日毎に弱くなってきた。

 それでもジラ達働き蜂は、いつもの通り、ただ黙々と幼虫と女王の世話をする。




 里では、山茶花の花が咲き始めていた。


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