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ヘボ戦記  作者: 蘭鍾馗


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11/13

11.最後の巣盤

 新しい巣盤づくりが始まった。


 もう巣箱の中はいっぱいで、この新しい巣盤が最期のものになると思われた。

 女王の指示で新たに作られる巣盤は、一つ一つの部屋がひとまわり大きい特別なものだ。ここに産み付けられる卵は、私達のもう一つの綿毛、新女王となるために巣を飛び去る雌蜂になる。


 ◇


「もうすぐね。」

「もうすぐよ。」

「なんだか嬉しいけど、ちょっと悲しいわね。」

「寂しいわね。」

「そうね。」


 ◇


 私達は、一心不乱に最後の巣盤をつくる。


 巣の周りを飛んで、材料になる木の皮を集めて持ち帰る。

 それをかみ砕いて、唾液に混ぜて、六角形の部屋を一つずつ作っていく。

 誰に教わった訳でもないけど、私達働き蜂は、羽化したばかりの時からこの作業が出来る。


 最後の巣盤が完成した。

 そこへ、女王が雌蜂になる卵を産んでゆく。


 女王の脚が小さく震える。

 女王の体が弱ってきているのは、もう誰の目にもわかるほどだった。


 ◇


 生まれた幼虫は、働き蜂より明らかにひとまわり大きい。その分食欲も旺盛だ。私達はこれまで以上に餌を運ばなければいけなくなった。

 この間羽化した雄蜂たちは、みんな巣を出て行って帰ってこない。そして、その間働き蜂は一匹も生まれていないから、働き蜂は減る一方だ。その分、一匹ずつの負担は日ごとに大きくなっていった。みんな必死だ。

 女王は冗談を言わなくなったけど、言ったとしても、私達もそれを聞く余裕はもう無くなっていた。


 蜂にとって忙しいのは良いこと。でも、その忙しさの中で、私達はなんとなく感づいていた。


 これで最後なんだ。

 もうすぐ終わるんだ。


 私達の思いをよそに、黒い木の季節は進む。

 朝晩はめっきり冷え込むようになってきた。


 ◇


 やがて、幼虫は大きくなり、部屋の入口を糸で閉ざして蛹になった。

 もうすぐ、新女王になる雌蜂が羽化する。


 この子達が巣を出て行ったら、私達の役目は終わる。

 それは、誰に教えられたわけでもないけど、みんな分かっていた。


 ◇


「役目が終わったら、どうする?」

「女王が『自由』って言ってたやつね。」

「新しい幼虫が生まれなくなったら、幼虫のお世話はもうしなくていいのね。」

「……ちょっと待って。幼虫がいなくなったら、誰にエキスをもらえばいいの?」


 ◇


 私達は、やがてある残酷な事実に気づき始める。

 私達働き蜂は、固形物を食べられない。だから幼虫から液体のエキスをもらって私達は生きる。

 そのエキスをくれる幼虫がいなくなったら?


 ◇


「女王はどうなるの?」


 ◇


 私達には、まだそれが想像できていない。

 女王の死が。

 もし、女王が死んだらどうなるの?



 その時は、もう間近に迫っているというのに。


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― 新着の感想 ―
少し前に戦記企画経由でこちらを見つけて読み始め 蜂が主人公なのはなかなかない視点・切り口で これはまさに「戦いの記録」だなあと そして今話、そろそろ終わりの刻が近付いてきて 蜂たちもそれをうっすらと…
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