11.最後の巣盤
新しい巣盤づくりが始まった。
もう巣箱の中はいっぱいで、この新しい巣盤が最期のものになると思われた。
女王の指示で新たに作られる巣盤は、一つ一つの部屋がひとまわり大きい特別なものだ。ここに産み付けられる卵は、私達のもう一つの綿毛、新女王となるために巣を飛び去る雌蜂になる。
◇
「もうすぐね。」
「もうすぐよ。」
「なんだか嬉しいけど、ちょっと悲しいわね。」
「寂しいわね。」
「そうね。」
◇
私達は、一心不乱に最後の巣盤をつくる。
巣の周りを飛んで、材料になる木の皮を集めて持ち帰る。
それをかみ砕いて、唾液に混ぜて、六角形の部屋を一つずつ作っていく。
誰に教わった訳でもないけど、私達働き蜂は、羽化したばかりの時からこの作業が出来る。
最後の巣盤が完成した。
そこへ、女王が雌蜂になる卵を産んでゆく。
女王の脚が小さく震える。
女王の体が弱ってきているのは、もう誰の目にもわかるほどだった。
◇
生まれた幼虫は、働き蜂より明らかにひとまわり大きい。その分食欲も旺盛だ。私達はこれまで以上に餌を運ばなければいけなくなった。
この間羽化した雄蜂たちは、みんな巣を出て行って帰ってこない。そして、その間働き蜂は一匹も生まれていないから、働き蜂は減る一方だ。その分、一匹ずつの負担は日ごとに大きくなっていった。みんな必死だ。
女王は冗談を言わなくなったけど、言ったとしても、私達もそれを聞く余裕はもう無くなっていた。
蜂にとって忙しいのは良いこと。でも、その忙しさの中で、私達はなんとなく感づいていた。
これで最後なんだ。
もうすぐ終わるんだ。
私達の思いをよそに、黒い木の季節は進む。
朝晩はめっきり冷え込むようになってきた。
◇
やがて、幼虫は大きくなり、部屋の入口を糸で閉ざして蛹になった。
もうすぐ、新女王になる雌蜂が羽化する。
この子達が巣を出て行ったら、私達の役目は終わる。
それは、誰に教えられたわけでもないけど、みんな分かっていた。
◇
「役目が終わったら、どうする?」
「女王が『自由』って言ってたやつね。」
「新しい幼虫が生まれなくなったら、幼虫のお世話はもうしなくていいのね。」
「……ちょっと待って。幼虫がいなくなったら、誰にエキスをもらえばいいの?」
◇
私達は、やがてある残酷な事実に気づき始める。
私達働き蜂は、固形物を食べられない。だから幼虫から液体のエキスをもらって私達は生きる。
そのエキスをくれる幼虫がいなくなったら?
◇
「女王はどうなるの?」
◇
私達には、まだそれが想像できていない。
女王の死が。
もし、女王が死んだらどうなるの?
その時は、もう間近に迫っているというのに。




