10.黒い木の季節
最近、女王の産卵ペースが速い。
でも、そこから育ってくる幼虫は、なんだか小さめ。なんだろうな、と思いながらも幼虫の世話をしていると、やがて少し小さめの幼虫は、少し小さめの蛹になり、私達働き蜂より少しほっそりした蜂が出てきた。
雄蜂だって。
女王から聞いた。
雄蜂は針を持たない。護身の手段を持たないから、少し臆病。
でも、羽化して羽が伸びて、しばらくしたら、迷うことなく入口までやってきて、そこから飛び去って行く。
これが結構大変な数になる。最近はもう毎日のように雄蜂が巣の入口から出ていく。
そして、二度と戻ってこない。
彼らは、他の巣から出てきた雌蜂を見つけて、木の葉の上で交尾をする。そのためだけに生まれてくる。
それはタンポポの綿毛のようなもの。出来るだけ遠くへ行くことが、彼らの仕事。
元気でね、って声をかけたい所だけれど、彼らの寿命は私達働き蜂の半分くらいでしかない。だから、彼らの姿には、なんだか悲壮感が漂っている。
さよなら。そしてがんばれ、私達の綿毛。
◇
女王、最近あんまりしゃべらなくなった。
冗談も言わないし、昔話もしてくれない。
最近つまんないよ、って女王に言ったら、女王はこう答えたの。
「ごめんねー。もう少しでお別れなのよー。でも、それまでの間ねー、やることが増えるの。」
もしかして、女王が前に言ってた「悪い夢」と関係ある?
「ちょっとあるねー。」
それ以上は、なんだか訊けなかった。
◇
山の木の色が変わって来た。
人間達には「あか」って言う派手な色に見えるんだそうだ。これをわざわざ遠くから観にくる人もいるらしい。でも、私達クロスズメバチにはこの「あか」は見えない。だから、黒くみえる。そして、日毎に、山に黒い木が増えてきた。そのたびに、少しずつ寒くなってきた。
秋。
人間達は、この黒い木の季節をこう呼ぶ。
私達の巣に、終わりの日が近づいていた。




