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第二話 観測者と配信者

【観測ログ:Project LACHESIS(ラケシス) No.0722】

 ──観測者〈ノルン〉/識別コード:KD-X03

 対象パーティ:A.I.L.A/SoL

 観測状態:正常

 音声・視覚フィード:安定

 神経連結強度:91%


 記録開始──


「配信を開始した。ふたりとも、進んでいいぞ」


 メインモニターに表示されたログと、サブモニターの配信開始画面に赤いアイコンが灯ったのを確認して、マイクにそっと声を吹き込む。

 その声は画面の中で待機していた二人にだけ伝わり、途端にぴょんと行動を開始した。

 今日のデイリー配信開始だ。

 

『オッケー! はーいリスナー! アイラ(A.I.L.A)だよ! 今日もイツメンのソル(SoL)といっしょにダンジョン攻略、はっじめるよー!』

『前回アイテム使い切ったけど、今回もアスリード社がしっかり支給してくれたぞ。感謝!』

『今回の持ち物は、こんな感じだよ~。リスナーのみんなも覚えててね!』


 赤いポニーテールを翻し、パーティリーダーでもあるVTuberの緋野(ひの)アイラが自分のアイテムボックスをモニターに表示させる。

 同じように、相棒のソルも自分のボックスを表示させた。

 俺は二人のボックスを確認してから、いつもよりも魔力回復用のエーテルが多い事をちょっとだけ、ソルに指摘する。

 ソルはパーティチャットで「所持数を一桁間違えた」なんてほざいているが、まぁエーテルくらいの重さのアイテムであれば問題ないだろうと、データ管理タブ上のソルの所持アイテム重量の欄を更新する。

 

 パーティメンバーの管理は、俺の仕事だ。本人たちは何も考えずにただただダンジョンを攻略してくれればいい。その上で成果を持ち帰ってくれれば──いや、無事に生きて戻ってきてくれれば、ソレ以上に望む事なんかはないのだ。

 アイラとソルのバディは、この【STRAY-LINE】で今一番の人気を誇っている。

 何しろ、アイラは人気Vtuberでありながら、攻略者としても実力を認められた生粋のゲーマーだ。

 一方のソルは、もともと無名だったが、フードに隠れがちな素顔が〝実はイケメン〟だと話題になり、一気に注目を浴びた。

 己の身の丈ほどの長柄の斧をぶん回す怪力のアイラと、ヒーラーでありながらも多少の攻撃魔術も使えるソル。


 男も女も、そんな〝アニメの登場人物みたいな二人〟が命懸けでダンジョンに挑む姿に、夢中になった。


 だが昨日まではもう一人、一緒にダンジョンを攻略していた人が居た。

 その子は、少女のようなVRアバターをした子だった。外見が子どもっぽいホビット種で、反面体力が高くタンク役として活躍してくれていた女の子・リティ。

 【STRAY-LINE】は今や家族が承諾しなければダウンロードすら出来ないゲームだが、リティは子どもっぽく楽しい子だった。可愛らしい声で毒舌を放つキャラの彼女は、ソルに一目惚れしたとかで熱烈にアプローチもしていて。

 そんなだったから、彼女が勝手にライバル視していたアイラとの口喧嘩の数は、2人が倒したモンスターの数と同じくらいだったんじゃないだろうか。

 ……それでも、前衛として抜群のコンビネーションを発揮していた彼女。

 その子は、昨日の配信で、ほんの一つのコマンドミスで命を落とした。


「アイラ。斧の尻を手で持って真っ直ぐ伸ばしたあたりに、飛び矢の罠がある。殴れば壊れる」

『オッケ! よいしょ、っと!』

 

 昨日の配信が終わった後、小さな女の子の死体を抱き締めて号泣していたアイラ。今のところは、一見すればいつも通りのように見える。

 けれど、【STRAY-LINE】に入り始めてからずっと一緒に行動していた仲間を失ったんだ。彼女の精神状態にも気をつけておかなければいけないだろう。

 勿論、あの子の最期に立ち会った視聴者は二人の安否には敏感だ。今だって、何のツールを使っているのかは知らないが、俺が指示を飛ばす前に罠に気付いて赤枠の投げ銭をしていたリスナーも居る。

 アイラはそのチャットを見たフリをして、俺の指示に従って罠を壊す。罠は、あっさりと壊れて壁にぼこりと穴が空いた。


『今回のゲートは結構殺意高めか~?』

『頭の位置くらいの高さだったよね! こっわ』

「視聴者数が8000人を越えた。昨日の事もあるから注目されてんだろうが……気を引き締めろ」

『よっしゃいくか』

『もっちろん!』


 アイラとソルは、自分たちで会話をしているように見せながら、俺の声に応じる。

 俺はそんな二人の足取りを見守りながら配信画面を確認してチャットに気を配り、別のモニターではSNSで常時更新されていく感想のつぶやきを見守る。

 4枚あるモニターを常に監視するのは無理だが、重要な情報だけは見落とさない。

 そして再び、メイン画面の『A.I.L.A』と『SoL』と表示されているプレイヤーデータを眺めるのだ。

 ソレが俺の──観測者(ノルン)の役目。

 足を潰されて配信者を引退した俺をこの世界に引き戻したソルこと守屋陽(もりや よう)と〝あの人〟が俺に与えてくれた、新たな戦場だ。


 あの地震をきっかけに、【STRAY-LINE】はまるで違うゲームへと変貌してしまった。

 配信をしながらダンジョンを攻略するという部分はそのままに、ログインした者はダンジョンの中で死ねば現実でも死んでしまう……そんな死のダンジョンへと、姿を変えたのだ。

 何故こうなったのか。

 どうしてそんな事が起きたのか。

 【STRAY-LINE】を作ったゲーム会社は勿論、スポンサードしていた企業もその謎を解こうと必死になった。彼らは様々な方法で【STRAY-LINE】にアクセスして状況を探ろうとしたが、どれもこれも失敗。

 そうして最終的に残った一つの光が──ダンジョンの攻略、だったんだ。


『今⽇もまた観測者居んのかな?』

『アイラタソ、気を付けて〜〜』

『S o L今⽇ローブ着替えた?』

『今日は何人死ぬの?』


 流れていくリスナーたちのコメント。応援、冷やかし、疑念。その種類は様々で、統一性なんかはない。

 情報量の多さは、誰かの〝死〟を過去に見てきた視聴者の、ある種の祈りでもある。

 この視聴者数の多さは、別のパーティが〝潰れた〟事で見る配信を無くし、流れてきた視聴者が居るという事。

 それは、彼らがその目で〝誰かの死〟を目撃してしまったという事でも、あるんだ。

 

 ふぅ、とため息を吐いて、おかしなチャットを繰り返すスパムらしきBOTはブロックしていく。

 視聴者数が多いとこうなるのは当たり前の事だ。一時期は、投げ銭の攻略情報にしか反応しない配信者に文句を言う視聴者も、勿論居た。

 が、こんなに早い流れの中で色のついていないただの文字でしかない攻略情報を拾えというのが、どだい無理な話なのだ。

 何しろソルは、配信者ではない。この配信はあくまでも、アイラ個人の公式チャンネルという扱い。

 

 ──今の【STRAY-LINE】において、金は命で稼ぐものだ。

 スポンサー企業からスカウトされた一部の〝ゲーマー〟や〝配信者〟は、ダンジョン攻略の際の情報やアイテムをスポンサーに提供する契約になっている。

 そのスポンサー料に加えて、投げ銭の一部も本人に還元される事になっているから、命知らずたちは誰もが配信者になりたがった。

 なんでそんなに金を求めるのか、俺にはわからない。

 死んだら金なんてただの紙切れなのに、なんでそこまでするんだろう。そうは思っても、俺だって今はあの人に雇われている状態だから、表立っての疑問も文句も、口には出せなかった。

 

 しかも、今の【STRAY-LINE】の配信者の装備を提供するのはスポンサーたちだ。

 配信者になりたがる有象無象どもは、過去の実績や【STRAY-LINE】のプレイ動画なんかを提出して、ふるいにかけられていった。

 少しも還元出来ないような連中に〝配信権〟を渡すことはない。

 ハッキリとは明言されなかったものの、〝配信権〟を得ている配信者たちのレベルの高さに誰もがその現実を思い知った事だろう。

 

 その中にあって、〝配信権〟を得たものの、ソルは配信をしなかった。

 ソルのスポンサーは【STRAY-LINE】の親企業。それなのに彼は、配信の収益をすべて捨てている状態だ。

 ごくたまに雑談配信なんかをする事はあったけれど、【STRAY-LINE】攻略中の配信は一切しない。結果、ソルの攻略を見る事が出来るのはアイラの配信だけになり、さらに人が集まる。

 そうして、「俺たちのパーティ」の情報統括画面は、この配信画面ただひとつになっていた。


『あ! 宝箱発見!』

『こらアイラ! 罠チェックもせずに開けようとすんな!』

『大丈夫だって。壊せばいいだけだもん』


 俺が罠チェックを飛ばしてOKを出した途端に、アイラが斧で宝箱を粉砕する。

 中身が壊れそうにないアクセサリーだから出来たことだが、こんな場面は毎度ヒヤヒヤものだ。

 アイラがちょっと力加減を間違えただけで、スポンサーに売れる情報の一部がパァになるかもしれないのだから、慎重にもなる。

 それに、こんなアイラの破天荒な姿を楽しむ視聴者たちは、ただ宝箱を壊しただけで続々と投げ銭を投げ始めた。


 チャリンチャリンという、投げ銭のSE。

 画面上で踊る、有料視聴メンバー用のスタンプとその効果音。

 その音を聞くたびに、俺の指先はビクリと跳ねる。

 耳の奥で、「逃げろ」って、もう居ないはずの誰かが叫んだ気がした。

 見慣れたダンジョンの中に居るアイラとソルの姿が、一瞬だけチカチカと明滅する。

 

 危うく変なキーを押しそうになる手を反対の手でぎゅっと握りしめ、俺は数回深呼吸。

 宝箱から取り出されたアイテムの鑑定ツールはもう流しているから、そろそろ二人の会話タブにも表示されているだろう。

 その間に、もう何回か深呼吸をして、ドキドキとやかましい心臓を落ち着ける。

 落ち着けなければ、いけない。

 

 唯一裏で別の通話ツールを繋げているソルは、拾ったアイテムをアイラと自分とどっちが持つか、なんていうどうでもいいやり取りをして時間を引き伸ばしてくれていた。

 未だにこの音になれない自分が、情けない。

 そうは思っても、一度刷り込まれた恐怖は、どうしたって忘れる事は出来そうになかった。

※A.I.L.AやSoLはゲーム上に表記されるIDです。

※MMOにおいて自分の頭の上に表示アレ、という認識でOKです。

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