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第八話 美少女と喋った翌日は、仕事に集中できないようです

 カァーン、カァーン……


 朝の鐘が鳴り響き、俺の労働者としての一週間が始まった。

 月曜日の朝。空は清々しいくらいに青く、農園には鳥のさえずりが響いていた。


 ……ああ、また一週間が始まってしまった。


「さ、今日もお金のために働くか」と独り言を言いながら、俺は果物収穫用のカゴを背負う。


 だけど、ふとした瞬間、昨日の出来事が脳裏をよぎる。丘の上で、あの美少女とおしゃべりした時間――。

 あんなに女の子と話したの、いつぶりだっけ? 

 セシリア……いい子だったなぁ。

 うふふ、と頬が緩む。緩みすぎて、ニヤけ顔になる。そんな俺の背後から、


「コウタくん! 手が止まってますよ!!」


 鋭い声が飛んできた。びくっとして肩が跳ねる。

 振り返ると、そこにはフリオ農園で俺たち農奴のリーダーを務める、ペペの姿があった。


 ペペは長身で細身。短く刈り上げられた黒髪に、常にピンと伸びた背筋。作業服もどこかシュッとして見えるのは、中身の真面目さがにじみ出てるからだろうか。


 彼は元・農奴。今は自由市民として、俺たちのいるフリオ農園で働いてる。なんでも、自由市民になった今は、給料が倍だとか。羨ましい限りである。


 農奴たちの希望の星……それがペペ。俺の目標でもある。


「まったく、仕事中にそんな気持ちの悪い顔をして! 仕事に集中していない証拠ですよ!」


 いや、気持ちの悪いは余計だろ。でもごめんなさいと、ここは素直に頭を下げておく。大人の対応。チビだけど中身は大人。


 ……いや、まてよ。そういえば前に――


「そういえばペペ。前に、女子の拳闘の試合を一緒に見に行かないかって誘ってくれたことあったよね? あのときは断ってしまったけど……」


 俺がそう言うと、ペペの目がバッと見開かれた。


「バ、バカ! そんな話を仕事中にするな!!」


 ――え、えぇ!? 

 赤面しながら俺の発言を遮るペペ。めちゃくちゃ慌ててる。もしかして、女子拳闘って、そんなヤバい話題だったの!?


「どうしました? 今日はにぎやかですねぇ」


 朗らかな声と共に、ふくよかな体を揺らしながら歩いてくる人影。陽の光を反射する白髪。丸くて優しい頬。この異世界では高級品の眼鏡。そして、ふんわりとしたヒゲが揺れている――。


 この農場のオーナー、フリオさんだ。

 人格者としてソンブラスでも評判の人。


 フリオ農園の、農奴への待遇が比較的マシ(週一で休みがあることや、スープに具材が入っていること)なのは、全部フリオさんの心遣いによるものだ。


「フ、フリオさん?! すいません。いや、コウタくんが仕事に全然集中してなくて……!」


 ペペがあわてて言い訳する。いつも冷静な彼が、テンパってるのはかなりレアだ。


「ほっほっほっ。 いつも真面目なコウタくんがめずらしい。 でも、仕事に根を詰めすぎても良いことありませんから。たまには息抜きも大事ですよ。ペペくんに女子拳闘にでも連れていってもらってはどうですか?」


 経営者らしからぬイタズラっぽい笑顔を浮かべるフリオさん。


「ちょっ フリオさぁ~ん。。。」


 完全に困り顔になるペペ。その様子を見て、周囲の農奴たちから笑いが起きる。


 ――平和だなぁ。


 ちなみに、ペペが誰に対しても敬語で話すのは、フリオさんの影響らしい。


「コウタくん。女子拳闘の話ならまた今度してあげますから、今は仕事に集中してください」


 ペペが小声でそう言ってきたので、俺は「はい」と素直に返事をして、作業に戻った。


 だが結局、その週は作業が忙しく、ペペに女子拳闘のことを聞くタイミングを逃したまま、次の日曜日がやってきたのだった。


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