第七話 急所を思い出したら、セシリアに喜ばれました
「あ~ぁ。的が大きくて、相手が守りを固めてないような急所があればいいのにな~」
セシリアは、でろ~んと草の上に寝っ転がりながら、空を仰いでそうつぶやいた。
「そんなとこあるわけ……」
俺の口が、自動で止まった。
いや、待て。
その瞬間、俺の脳裏に、かつて読んだ格闘漫画のワンシーンがよみがえった。
バキィッと殴られるシーン。ぎょっとした顔で倒れるキャラ。そう、あれは――!
「あるな……急所……あるぞ!」
「……えぇっ?!」
セシリアが目を丸くして、俺の顔をのぞきこんできた。顔が、近い。あと三センチで前髪が触れる距離。天使のような顔がこっちをじっと見つめているけど、俺はそれに動じることなく――いや、ちょっと動じながらも、俺はドヤ顔で言ってやった。
「キドニーブローだよ。知らないのか?」
「キド……にぃ……ぶろー?」
小首をかしげるセシリア。はいかわいい。
「背中側から腎臓を狙うパンチのこと。 背中側の腰のちょっと上あたり。 そこにパンチが入ると……こう……効くんだよ。ヤバいくらいに」
と言いつつ、俺はセシリアの腰の上あたりをコンコンと軽く小突いてみる。
「ん……っ!」
セシリアが小さく身をよじらせた。いや、ちょっと小突いただけなのに、なにそのリアクション。
「すごい……。なにこれ……なんか、変な感じ……すごいかも……」
「そりゃそうさ。腎臓も立派な臓器だからな。ここを打たれると、どんな屈強な男でも一発で崩れるよ」
「……そんなの、聞いたことない……」
ふっふっふ。こう見えて、俺は格闘オタクなのだ。日本にいた頃は、格闘漫画はもちろん、格闘系ユーチューバーの動画も毎日見てたからな!
「ははは。まあ、ボクシングじゃ反則だけどね」
なんて言ったら――
「え、反則じゃないよ?」
「えぇ?!」
今度は俺が驚く番だった。
マジかよ。背中パンチOKなの? この世界の拳闘、どんだけ無法地帯なんだよ!
「だって『上半身ならどこを殴ってもいい』ってパメラちゃんも言ってたし」
「ルールがワイルドすぎるだろ……」
俺が驚いた顔で固まっていると、セシリアは肩をすくめて笑った。
「ふふふっ……コウタさんって、知識があるのか無いのか、分からない人ですね~」
「うるせぇ!」
クスクス笑うセシリア。馬鹿にされている気がするが、まじで可愛いので許さざるを得ない。
「いやいや、俺はこっちの拳闘に詳しくないだけだし」
「……? もしかして、拳闘と別の格闘技をしてたってことですか? もしかして有名な選手だったとか……?」
セシリアが前のめりで質問してくる。その勢いで顔が近い近い近い! ドキドキするだろ!
「いや、空手をちょっとだけやってただけで……でも、俺、体が小さいから……」
「あっ……ごめんなさい」
しゅん、とするセシリア。
そう、俺はチビなのだ。155㎝しかない。体格がモノを言う格闘技で、この身長は致命的な欠陥だ。ちなみに、セシリアは俺より少し大きそうだから、157、8㎝ってところか。
「気にしないで。今は格闘技もしてないし、ただの農奴だからさ」
そう言って笑ってみせた。うん、大人の余裕ってやつ。
「あの……今日は本当にありがとうございました! おいしいサンドイッチもいただいたし、拳闘のアドバイスまでもらっちゃって!」
セシリアはぱっと立ち上がると、深く頭を下げた。律儀か。性格までかわいいのか。
「明日からキドニーブローの練習します! 次の試合、勝てるように頑張りますね!」
そう言って、笑顔のまま走って帰っていった。元気だな、ほんと。
……でも、キドニーブローの練習ってどうするんだろう。
あれ、相手の背後に回らなきゃ打てないんだけど。
まあ、俺には関係ないか。もう会うこともないだろうし。
そんなことを考えながら、俺も自分の寮に帰ったのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!心から感謝いたします。
読者の皆様に、大切なお願いです。
もし少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「期待できそう!」
と思っていただけたら、ブクマと★星を入れてもらえないでしょうか?
★1つでも、★★★★★5つでも、正直に、思った評価でお願いします。モチベーションが上がって最高の応援になります。
何とぞ、よろしくお願いいたします。