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第六話 泣き虫拳奴セシリアちゃんの悩みを聞いてたら、過去の記憶がよみがえってきました

『なにか辛いことがあって自分語りしたくなってるんだろう。しょうがない。いいよ。お兄さんで良ければ話聞くよ?』


 この時の俺は、こんな気持ちだった。声には出さなかったが、セシリアちゃんには伝わっていたと思う。だってこの後も彼女はずっと自分語りしていたし。


「私って……スピードはあるけどパワーが無いんです……それに興奮剤も効きにくいみたいで……だから、いっつも良い勝負はするのに、負けちゃうの……」


 そう言って、うるうるした目で見上げてくるセシリアちゃん。

 うん。泣き顔が可愛いってのは重罪だな。見てるだけで俺の精神が崩壊寸前だ。

 ずっと聞き役に徹するのはしんどいので、俺もしゃべることにする。


「ふーん……でも、良く分からないけどさ。パワーが無くてKOが狙えないなら、ポイントを稼いで判定勝ちを狙えばいいんじゃない?」


 はいでました。元日本人の知恵発動タイムだ。いま俺、けっこう良いこと言ったと思う。


「ぽいんと……? はんていがち……? ってなんですか??」


 ……は?


「いやいやいや、判定って、ほら……試合時間内に決着がつかなかったら、どっちが優勢だったかを審判が判断するやつだよ。ジャッジっていうか……」

「???」


 ……通じてねえ!!!

 よくよく話を聞くと、この世界の拳闘には「時間制限」なんてものは存在せず、試合はKO決着がつくまで延々と続くらしい。つまり、先にぶっ倒れた方が負け。なんて原始的なルールなんだ……!


「え!? じゃあ体重別のクラス分けとかも無いの!?」

「そんなのないですよ? ただ、十四歳以下の部と、十五歳以上の部には分かれてますけど」


 なんという危険なスポーツだ。

 例えばガリガリの十五歳とマッチョな二十五歳が本気で殴り合ったりもするってことか。


「私は十四歳だから十四歳以下の部に出てます。十四歳以下っていっても、出てる女の子は十四歳か十三歳ばっかりなんですけど」

「なるほど……」

「でも、パメラちゃんは十歳から出てるって言ってたかな? 彼女、本当に強いんですよ! ビアンカ拳闘団のエースなんです! しかも可愛いし、すっごく人気があって!」


 セシリアちゃんのテンションが急上昇する。楽しそうにパメラの話を続けるその姿は、完全にファンの顔だ。


「私も……パメラちゃんみたいにパワーがあれば、試合で相手を倒せるのに……」

「別にパワーが無くても、相手を倒す方法はあるだろ」

「え?」


 セシリアちゃんが、ポカンとした顔で俺を見る。

 よし、ここはちょっとカッコつける場面だ。


「たとえば、アゴとかミゾオチとかを正確にパンチできれば、パワーが無くても相手は倒れるさ」

「ぷっ……!」


 なんだという顔で笑い出すセシリア。


「そんなの誰でも知ってるよ~! だから、みんなそこはいつも守りを固めてるの。アゴもミゾオチも、小さくて狙いにくいし。そんなとこを試合中に正確にパンチするなんて無理だよ!」


 ……ムッ。

 ……いや、わかってる。セシリアの言うとおりだ。

 狙って急所に当てるのはプロでも難しい。ましてやこの世界のルールじゃ、それが唯一の勝ち筋になるわけだから、なおさら防御は固いだろう。


「あ〜あ。的が大きくて相手が守りを固めてないような急所があればいいのにな〜」

「そんなとこあるわけ……」


 俺の口が、自動で止まった。

 いや、待て。ある。あるぞ……!

 その瞬間、俺の脳裏に、かつて読んだ格闘漫画のワンシーンがよみがえった。


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