だいすき
どこから話そうか。というよりどこまで話したっけ?「私」が死んで、第二の生を手に入れてからちょうど3ヶ月。当たり前だけどこの身体は未だに赤ん坊で、話そうとしてもお手本みたいな赤ちゃんボイスしか出せないみたいだ。赤ちゃんボイスを出したのなんて、サークルの飲み会で酔ってふざけた時ぐらいかなぁ。今でも思い出すよ。あの時迎えに来たお父さんの目。娘に向けちゃいけないものでしょ、アレは。
さて、そんなお父さんだけど、今目の前にいる「お父さん」は当然私が知るよりずっと若い。うん若いよ。若いんだけど……
ハゲてる。頭が輝いてる。年齢や雰囲気も相まって修行僧さながらの風格だね。
初めてこの「お父さん」を見たときは……
なんと言えばいいのか、言うなればそう、戦慄した。私の知るお父さんとはもちろん同じ顔だが、あの人はフッサフサだった。いやモッサモサだろうか。そしてお母さんにいい加減切れとどやされ、困ったように頭を掻く。それが私の知るお父さんだから。
にしたってどういう心境があったんだろうか。確かに厳格な感じの人だったが、見た目まで修行者に寄せに行くタイプだった記憶は無い。しかし現実にジタバタと足を振る「私」の傍に佇む「お父さん」は、「お母さん」に子供が物心ついたら笑われるからと髪を生やすよう言われているが、駄々をこねるように首を振る。本当になにがあったんだ、過去の父よ。
小さい頃から私には懐いている人の髪を触る癖がよくあった。眠れない夜はお母さんのサラサラでふわふわした髪を触っていれば安心出来た。そして今現在の「私」も私から引き継がれた魂に抗えず「お母さん」の髪を触りまくっている。そしてふと「お母さん」が離れたかと思えば今度は「お父さん」が近くに来た。幼い頃の私はお父さんのモサモサした髪も大好きだった。これもまた悲しい性なのかうっかり「お父さん」の頭に手を伸ばす。そこではたと気付いた。
今、この人スキンヘッドだった!!
予想通りというかなんというか、伸ばされた手は「お父さん」の頭をツルツル滑っていく。ふと横で「お母さん」が『あらあら、お父さんは髪がないから◯◯ちゃんは掴めなかったみたい。』と呟いた。
おっと「お父さん」に大ダメージ。これは死ぬ前流行っていた某剣士アニメのヒノカミなんとかより強かったんじゃないかな。
ショックで呆然とする「お父さん」のつぶやきが少しばかり聞こえた。
『………髪伸ばそう…………』
なるほど。これが髪型が180°変わった理由だったか。やたらと切りたがらなかったのも私が触りやすいように……ってことかな?死ぬ前にもっと触ってあげたら良かっただろうか。
よし決めた。今の「私」が大きくなったら、「お父さん」の髪をいっぱい触ろう。そして言うんだ。
『「だいすき」』
202☓年
日本のどこかの家で静かに泣き崩れる初老の男性の傍には、子供らしいタッチの絵に、「だいすき」という文字がクレヨンで添えられた古い画用紙が落ちていた。